これはハッピーエンドですか? それともバッドエンドですか? The beginning was a word "I love you" which you gave me that day. 4年の年月を経て 中華連邦を手に入れた黒の騎士団と 神聖ブリタニア帝国との決戦は最終局面に入った。 最初はブリタニア優位であったが、 徐々に追い詰められて、 本土に上陸された。 そして、黒の騎士団は一気に 王宮に攻め入った。 皇族の姫君達を護衛するスザクと私とジノ。 もう他のラウンズはどうなったかわからない。 ただこの王宮にはいつもの静けさはなく、 悲鳴と機械音と銃の音が木霊する。 私達は皇族が婚礼の儀などに使う 教会に入った。 そこには皇族しか知らない地下通路があった。 そこはやけに沈黙した世界で。 ステンドグラスから光が差し込んで、 聖母は微笑んでいるように見えた。 先導をきっていたスザクが教えられたとおりに 隠し扉を開けた。 「行きましょう!!」 そう言って、姫君達を連れて行こうとした時だった。 「スザク、アーニャ、行け」 信じられない言葉に私は目を見開いて振り向いた。 スザクも驚いている。 「ジノ!!何言って・・」 「このままじゃ、ここもすぐ見つかる。  俺がここに残って、時間を稼ぐ。  早く行け!!」 「だけど・・・!!!」 「スザク、お前はナイトオブセブンだろう!!!」 ジノが必死の顔でスザクの肩を掴んだ。 「騎士としてなす事をしろ!!!」 その言葉にスザクはぎゅっと唇を噛みしめて、 「わかった」 そう言った。 「アーニャ、行くよ!!」 「・・・・・」 私はじっと彼を見つめた。 蒼い瞳は静かで。 スザクは皇女達をもう秘密通路に入れた。 「アーニャッ!!!」 スザクの声が聞こえた。 でも私は蒼から逸らせない。 「アーニャ」 静かな彼の声。 いつもみたいに優しく優しく微笑んで。 「愛してる」 次の瞬間ジノに手を掴まれて、 隠し通路に突っ込まれて、扉を閉められた。 私は何も言えなかった。 言葉が出なかった。 声が出なくなりそうだった。 「アーニャ、ジノの気持ちを無駄にしないで」 その言葉に私は立ち上がった。 皇女様達を後ろからお守りする。 暗い通路を進んでいけば行くほど、 彼の微笑みしか映らなくなった。 彼との思い出が蘇った。 四年前黒の騎士団に壊された天子様とオデュッセウス殿下の結婚式の前夜。 ありえない形で想いを告げられた。 トクベツな想いが、愛と呼べるようになって。 こっそり手を繋いだ。 休みは二人で出かけた。 しょっちゅう喧嘩した。 時々カラダを重ねた。 わらった ないた おこった あいした こいした キスした 全部、ジノがいなきゃできなかった。 全部、ジノだからできた。 全然可愛くない私 でも可愛いっていつも言ってくれた ほんとは嘘だって思ってた でもすごくうれしかったの 走っていた足が徐々に遅くなった。 そして、ゆっくり止まった。 前の皇女様達は走っていく。 「スザク」 その声に気づき、スザクが振り向いた。 皇女様達も振り向く。 「・・・・アーニャ」 「ごめん・・ごめんなさい」 ぽろぽろ涙が零れる。 限界だった。 私はもうここから先には行けない。 そう感じたのだ。 するとスザクに車椅子を押されていたナナリーがやってきた。 「ナナリー・・殿下・・・」 彼女は凛とした雰囲気で言った。 「・・・ナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイム。  皇女ナナリー・ヴィ・ブリタニアが命じます。  今からする命令を最後に、貴方をラウンズから除籍します」 「アーニャさん」 それは温かく、彼女は微笑んだ。 「誰より愛している人のところへ行ってください」 私はぎゅっと彼女を抱き締めた。 嗚咽でなかなか言えなかった。 「イエス・・・ユァ・・ハイネスッ!!!」 彼女とは親友に近かった。 皇族と騎士という立場ではあったが 彼女とたくさん話もした。 ジノの話もいっぱいした。 だから、最後に彼女の額にキスをして。 「ナナリー、ごめんなさい」 「早く行ってください」 「・・ありがとう」 私は涙を拭いて駈け出した。 銃声の鳴る方へ。 銃声はまだ遠いとはいえ確実にここに近づいていた。 俺は持っていたマシンガン二丁に新しいマガジンを装填しながら アーニャの事を思いだしていた。 アーニャと付き合いだして四年が経っていた。 もう彼女は18で、俺は22だった。 だけど、彼女はまだ18だった。 そんな彼女をまだ死なせたくはない。 そんなの俺のエゴだっていうのは知ってる。 彼女だって、ラウンズになった時に 死というものにある程度覚悟はあっただろう。 けれど 彼女は初めて愛した人だった。 名家出身という自分。 ナイトオブスリーという自分。 肩書や外見で近寄る女はいっぱいいた。 そんな女を過去にたくさん抱いた事だってあった。 だけど、アーニャは違った。 いつもあの瞳で俺を見つめた。 アイツが俺の外見やそんなものを見たことなんてなかった。 どす黒い、どろどろとした自分自身を初めて受け止めて 理解して 愛してくれた人だった。 だからどんなにつらくても しあわせになってほしい ほんとうは自分が幸せにするつもりだった。 苦笑いしてポケットに手を入れた。 わっかの冷たく硬い感触が指に触れた。 こんなことなら早くあげればよかった。 俯いて、一人涙を零した。 別に死ぬのが特別怖いわけじゃなかった。 ただ一つ、つらいのはアーニャを幸せにしてやれなかったことだけ。 もっと愛を囁いてやればよかった。 もっとキスしてやればよかった。 もっと手を繋げばよかった。 もっと可愛がってやればよかった。 もっと抱きしめてやればよかった。 もっと抱きたかった。 名家とか外面とか なにもいらなくていい 温かい家族をアイツと作ってみたかった 『愛してる』なんて ほんとはあそこで謝らなきゃいけなかった 俺はいつも外面ばっかで、ほんと駄目な男だった。 少し、背中が温かくなった。 「ないてるの?」 思わぬ声に振り向いた。 やはりそこには今まで考えていた人がいる。 理性を振り絞って、声を上げる。 「アーニャッ!!!・・お前、早く戻れ!!」 「戻らない」 「何言って!!!」 「私はナイトオブシックスとして、最後の任を  ナナリー皇女殿下から受けたから」 「・・・・?」 「『一番愛している人のところへ行く』」 「それが私の最後の任務」 「・・・お前」 背中から温かい温度。 肩に埋もれる桃色の柔らかな感触。 「ジノ」 「あいしてる」 「しぬときはいっしょ」 「ずっとずっと」 「いっしょ」 紅い瞳からぼろぼろ涙が零れるのを見て、 思わず華奢なカラダを抱き締めた。 そのまま無理矢理口付けた。 気づいたら自分も涙が零れていた。 「どうして泣くの?」 「・・お前も泣いてるだろ?」 「・・・うん」 「・・アーニャ」 「うん」 「手、出して」 「・・・?」 ステンドガラスに背を向けて、 恋人が愛を誓う場所で 彼女の左手から手袋を引き抜く。 ほっそりとした薬指に シルバーリングを通した。 紅の瞳が潤んで 俺を見つめてくる。 「もっと早くこうしてたらよかった」 涙を拭きながら、俯いて首をふるアーニャ。 「もし、生きていられるなら」 「いいや、別に死んだっていいよ」 「この世だろうが」 「あの世だろうが」 「天国だろうが」 「地獄だろうが」 「なんだっていいからさ」 「俺のお嫁さんになって」 こっくりと頷いた彼女を抱き締めた。 聖母は微笑んでいたが、確実にその時間は終わりを告げようとしていた。 小さなアーニャの手に、マシンガンを一丁握らせた。 俺も一丁握った。 二人で笑って そして 立ち上がった バンッ バババババババババババババ!!!!!!!!!!! 黒の騎士団が突入した瞬間に銃撃戦になった。 体を激痛が貫いて。 バタリと倒れた。 朦朧とする意識で彼女を探した。 彼女は俺の隣で倒れていた。 「ジ・・ノ・・・・」 苦しそうに大粒の涙が零れる瞳。 彼女の細い手が伸びる。 這いずりながら彼女の元へ体を動かした。 シルバーリング光る左手に触れた瞬間 俺の意識はきれた。