世界で一番おいしそうなケーキだね sweet cake 7月10日。 毎年、別になんでもない普通の日だったのだが、 今年は違う。 ラウンズ入隊後初のスザクの誕生日。 俺はスザクのパーソナルデータを見たことがあったので 覚えていた。 で、俺達はささやかだがスザクの誕生日パーティーをすることにした。 勿論、スザクには内緒だ。 といっても今日は勿論スザクは仕事。 ラウンズ内でのオフは 俺とアーニャとモニカだけだったので 三人でこっそり準備することにした。 他のメンバーには来ることができそうなら 来てほしいとだけ言っておいた。 場所はラウンズの待機室(といっても実質休憩室だ)で、 時間は夜七時から。 俺は飾り付け担当で アーニャはケーキ、 モニカは料理と割り振った。 朝は三人で買いだしに行って、昼食を食べて、 部屋に戻って作業開始。 四時頃。 俺はちょうど作業を終えて。 モニカのところでも手伝いに行こうとしたら。 「ジノがきたら、余計時間がかかるから、  どっか行ってて」 とひどいことを言われた。 まぁ、俺は料理は全くできないが。 仕方なくアーニャの部屋に入った。 「ん・・・?」 入った瞬間に甘い匂いが漂ってきた。 キッチンへ行けば、 テーブルには大きなスポンジケーキが二つ。 「おおお!うまそ!!」 「ジノ・・・食べちゃだめ」 「わかってるって!」 アーニャはいつもは一つにまとめている髪を 下の方でツインテールにしている。 服は私服でキャミソールのワンピース。 その上からフリルのついた白いエプロンをしている。 その小さな手に持たれているのは いつもの小型ナイフではなく包丁。 反対の手には林檎。 彼女の隣の皿には 飾り付けるための苺や キラキラした小さな銀色の粒(俺には名前がわからない)や その他にもたくさんのフルーツが切られていた。 アーニャは俺に背を向けて 林檎を切り分け始めた。 「飾り付け・・」 「終わった!なんか手伝うこと・・」 「ない」 「・・・即答かよ」 「ジノ、邪魔」 「なんにもしてないだろ!」 「邪魔になるの、絶対」 と、なんとか言っているが アーニャは一言も「出て行け」とか言わなかった。 そのまま大人しくしているなら いてもいいという意味だろう。 俺はただ突っ立ってアーニャの手元を見ることにした。 アーニャは林檎を八等分して、その一つを取った。 「アーニャ、皮剥かなきゃ食えないぞ!」 「・・・黙ってて」 アーニャはそれだけいうと俺の忠告を無視して その林檎の皮を器用に剥いていく。 と思ったら途中でその手を止めて。 皮に切り込みを入れた。 「ん?」 「できあがり」 そういうと水の入ったボールにそれを入れた。 その林檎をよく見ると。 「あ!うさぎ」 可愛らしくウサギの形になっていた。 アーニャは同じ要領で林檎を剥いていく。 「なぁ、アーニャ」 「だめ」 「まだ俺何も」 「食べちゃだめ」 「・・・・一個だけ」 「だめ」 「おーねーがーいー!」 「・・・ジノ、出てって」 「・・・・・分かったよ、もう言わない」 アーニャが本気で一瞬睨んだので、 俺は黙って元の位置に戻る。 暫くして。 俺がじーっと見つめていたのがばれたのか。 アーニャは小さくため息をついて。 ボールに何か液体と砂糖をいれて 変な棒を俺に渡した。 「暇なら混ぜて」 「おおっ!!わかった!!」 俺はその白い液体をかき交ぜ出した。 のだが。 「ジノ・・飛んでる」 「え?」 「こうするの」 アーニャは俺からボールをとって 交ぜ出した。 「わかった?」 「ん、わかった」 俺はアーニャに指示されたように交ぜ出した。 暫くするとアーニャも何も言わなくなり 自分の作業に戻った。 それを混ぜるのに慣れだした頃 俺はアーニャを見つめながら 作業をしだした。 ・・・白いエプロンがひらりと揺れるのがとても可愛い。 日頃は訓練やナイトメアに乗ってるばっかりのアーニャだが 実はお菓子を作ったりするのが趣味だと言うのを知ったのは 最近だったりする。 でも実際作っているところを見るのはこれが初めてで。 なんというかそのエプロン姿が可愛すぎる。 ・・・こんな新妻いたらいいよな。 『・・・おかえりなさい、ジノ・・』 振り向くアーニャ、揺れるエプロン 少しだけ染まった頬 『・・・ご飯できてる』 近寄ってきてきゅっとシャツの袖口を掴まれる。 『・・・お風呂も・・・沸いてるから・・』 頭を撫でてやるとくすぐったいように はにかむ。 そして、きゅっと背伸びをしたので どうしたのかと屈むと 耳元で、ぷっくり膨らんだ可愛らしい唇が 『・・でも・・・今・・は・・・』 『・・・・わたしを・・・・・・たべて』 上目遣いの潤んだ紅い瞳が 俺を見つめてくる。 俺がその身体を抱きしめようとした時 「ジノ、もう混ぜなくていい」 「え・・・あ、ああ!」 アーニャの声で現実世界に意識が戻ってきた俺は やっとかき交ぜる手を止めた。 ボールの中には生クリームが綺麗にできていた。 「ジノ」 「え、あ?」 「混ぜるの、楽しかった?」 「へ?」 「すっごく楽しそうに混ぜてた」 「そ、そうだったか?」 アーニャはこくりと頷いた。 言えない。何考えてたかなんて、絶対言えない。 アーニャは自分のボールから一つウサギをとって。 「ジノ」 「ん?」 「手伝ってくれたから」 そう言ってそれを差し出した。 「いいのか!!!?」 俺はなんだか嬉しくて思わず聞き直すと。 「・・モニカにはないしょ」 そう唇の前で人差し指を立てて、俺を見上げてくるアーニャの 可愛らしさに悩殺された。 「アーニャァァアアアッ!!!!」 その可愛らしさに思わずデレデレしてしまい、 抱きつこうとした。 「ジノッ!!!!」 「へ?」 俺のボールが宙に浮いた。 そして、アーニャ目がけて中身が。 「・・・・・・ジノ」 「・・・・・ごめんなさい」 アーニャは思いっきりクリームをかぶった。 「・・・べとべと」 「あああ、ほんとごめん、アーニャ!」 「・・・ばか・・もう・・」 「ほんっとごめん!!」 アーニャはぺたりと床に座り込んでいて。 頭からクリームをかぶったせいで 顔も、腕も、首もクリームだらけ。 エプロンがあったために服はそれほど汚れていないみたいだったが。 ・・・俺が悪い。それはわかっている。 だがこの光景は最高に目に毒だ。 「ジノ」 「えっ・・な、何」 「はやくとって」 「へ!?」 「林檎」 「あ・・・ああ」 てっきりクリームの事かと思ったのだが 林檎の事で。 俺は差し出された林檎を受け取った。 口に入れれば、シャリっと軽い音を立てて 蜜が漏れ出す。 「おいし?」 「ん、甘い」 「・・・そう」 アーニャは不快そうに自分の指についていたクリームを見ていた。 そして、俺は見てしまう。 あかいちいさなしたがしろいそれをすくうのを。 「・・・ッ」 「あまい」 「あ、アーニャ」 「何?」 アーニャは何も言わない俺に首を傾げながら ぺろぺろと手についたクリームを舐めとる。 「・・・あまい」 「・・・アーニャ」 「だから、何?」 俺は何も言えない。 完全に理性が悲鳴を上げている。 アーニャは何も言わない俺に、 何をどう勘違いしたのか。 わかったと言わんばかりに。 小さな指で手首についたクリームを掬って。 「たべる?あまい、とっても」 ああ、神様。 俺の彼女は最強の小悪魔です。 「・・・食べる」 彼女はやはりと言った顔で 指先を俺に向けたが 俺の唇は。 かわいいももいろほっぺ 「ジノ・・?」 「あまい!」 「指・・・」 「なっ、アーニャ」 「・・・・?」 俺はテーブルに乗ったケーキを指さす。 「あれはさ、スザクにあげるけど」 「このケーキは今から俺が食べるから」 にっこり微笑んで指さした目の前の極上ケーキは 頬を更に染めて、抵抗を始めた。 が、抵抗むなしく。 そのとても甘いケーキは 柔らかく甘いクリームも しっとりとしたスポンジも 甘い甘い苺も しっかり蝋燭も立てて 全部美味しく頂きました。 「スザク!誕生日おめでとっ!!」 クラッカーと共に驚くスザク。 すぐにその顔は笑顔に変わった。 モニカの作った料理を味わっていると 蝋燭の乗ったケーキをアーニャが持ってきた。 スザクはそれを消して、 アーニャとモニカがそれを切り分けた。 「あれ?アーニャ」 モニカが不思議そうに尋ねる。 「林檎、8コに切るって・・・」 「・・・うさぎ、逃げたの」 アーニャがジトリと俺を睨んだ。 俺は視線を泳がせた。 スザクとモニカは不思議そうに。 あまいあまいおれだけのケーキ だれにもあげない ひとくちも