そこにいたのは見知らぬ女の子だった。 first contact “ナイトオブセブン”を就任して一週間がたった。 ラウンズの人達とも少しずつ話すようになったが、 皆多忙なためほとんど会わない事が多かった。 まだ会ったことがない人だっていた。 割り当てられた部屋。 ラウンズの制服と心の鎧を着こむ毎日。 部屋を出て、待機室へ向かおうと扉を開けた。 鍵を閉めていると。 トントン 誰かに軽く叩かれた。 振り向くと・・・見知らぬ女の子。 桃色の髪を二つにまとめて、 可愛らしい格好に身を包む。 この場に不釣り合いな気がした。 「・・・おはよう」 「え・・・ああ、おはよう」 見知らぬ女の子は紙袋と鞄を一つずつ持っていて。 「・・はじめまして」 「え・・あ、はじめまして」 そう言った直後に女の子は無表情で携帯のカメラで写真を撮った。 「え・・?」 「・・・いやだった・・?」 「・・そうじゃないけど・・君、誰かの妹?」 ジロリと紅い瞳が見つめた。 雰囲気から考えて自分よりは確実に年下。 「・・それとも誰かの娘さん?」 「・・・・」 「迷子になった?」 不安がらせないよう、彼女と同じ目線で話すためその場にしゃがみこむ。 彼女は首をふった。 「ここは関係者以外入っちゃダメなんだよ」 「・・・知ってる」 「じゃあどうしたんだい?」 「・・・・・これ」 「ん?」 彼女は紙袋から何か取り出す。 そこには綺麗なクッキーがころころと袋に詰められている。 「あげる」 「え」 「あなたにあげる」 「・・・いいの?」 こっくり桃色の髪を揺らし、首を縦にふった彼女はどうも口下手らしい。 「・・お土産」 「え?」 「帰ってたから」 「え、え・・あ、ああ有難う・・」 にしてもこの不思議な少女は誰なんだろう。 名前がわからないし・・。 あ。 「ねぇ、君・・名前は?」 「・・・しらないの?」 「え」 「わたし、あなた知ってるのに。  枢木スザク」 「・・え・・あ・・どこかで会ったかな?」 「・・ううん、はじめて」 「え・・じゃ、どうして僕の事を?」 「・・・ナンバーズ初のラウンズだから」 「・・・・・」 嘘ではない。それは真実だ。 自分の名前なんてそういえば知られている。 「・・・がんばってね」 「え・・?」 「しごと・・」 「あ、え・・ありがとう・・」 そう言って、彼女はぎこちなく微笑んだ。 なんだか可愛らしい子だ。 だけど、その瞳はどことなく落ち着かない。 冷徹な何かに囚われてるような・・・。 そんなことを考えて視線を彼女からそらすと、 廊下の角で腹を抱えて声を出すのをこらえて笑っている男が一人。 「・・・何してるんですか、ヴァインベルグ卿」 「やだなー!ジノだって言ってんじゃん!!おはよう、スザク」 ひらひらと手を振りながらやってくるナイトオブスリー。 同い年と思えないほど・・大きい。 少女は彼の見たと同時に、紙袋からもう一つクッキーの袋を取り出した。 「・・・おみやげ」 「お、サンキュー!毎度どうも!!」 そこでやっと合点がいった。 「ああ・・・もしかして、?ジノの妹?」 「・・・いや実はな」 ニヤリと笑って、笑顔で彼は言った。 「俺の彼女なんだよ、可愛いだろ―――vv」 「え・・・」 まさかの発言に固まる。 ジノがそう言って彼女を後ろから抱き締めた瞬間。 カチャリ 桃色の少女は小さな手にごつい自動小銃を ジノのこめかみにつきつけた。 「え・・」 絶句する俺を尻目に 二人のやりとりは続く。 だが、そこには緊迫感などは感じられない。 「訂正して」 「けちー、結構ノリノリだったくせに」 「ジノの彼女なんてやだ」 「そんな・・真っ向から否定しなくても・・・」 「・・・3・・2・・・」 「わかったよー」 彼女は心底不機嫌な顔をしながら、 それをしまった。 銃をつきつけられたジノは やたら楽しそうだ。 「・・とりあえず、ジノの妹でも彼女でもないってこと?」 「いや、彼女にしたいです!」 「やだ」 「アーニャちゃーん、じゃあ妹は?」 「もっとやだ」 「えー」 「アーニャ・・・?っていうの君」 少女は目線をこちらに向けてこっくり頷いた。 アーニャ・・・どこかで聞いた名前。 「いや、でも面白かった」 「何が」 「アーニャに遊ばれるスザク」 「え・・・」 「スザク、気づくかなーって思ったけど全然気づかずにさー。 『誰かの妹?』って・・・」 そう言いながらまた腹を抱えて笑うジノ。 というかこの少女にいつ遊ばれてたんだろう。 「だって、僕この子に会った事ないよ・・・」 「ああ。だって休暇とってたんだろ、アーニャ」 こっくりとまた頷く。 ・・・え、休暇? 「休暇って・・・」 「え、まだ気付かない?」 「・・?」 「初日に整備室でごつい真っ赤なナイトメア見て 『こんなのジノみたいなごつい人が操縦するんだろうな』って言ってたろ。  あの時俺笑ってただろ?」 「え・・・あ、あの機体?」 「そう。ごつかった?」 「え?」 「機体とパイロットは関係ない」 少女は携帯から視線を離しジロリと睨んだ。 「アーニャ、不貞腐れんなって」 「え・・・じゃあ」 少女はきっとその目をもう一度向けた。 今度はさっきまでとは違う。 その冷たさが浮き彫りになる、視線。 「アーニャ・アールストレイム。  ナイトオブシックス。  よろしく」 『アーニャは今休暇中だから帰ったら紹介するなー』 『アーニャ?』 『そ。ナイトオブシックス。今思春期真っ只中の14歳。  手出すなよー』 『14歳で・・ラウンズに?』 『そうだ。最年少だぞ。でも』 『ナイトメア乗せたら、怖いぞ、アイツは』 初日に仲良くなったジノが 施設案内をしながら話してくれてたのを思い出した。 「え、えええ・・あ、ご、ごめんなさい」 「・・・いつものことだから」 「え?」 「アーニャはいつも新人の整備士とかにやられるんだよ、私服着てたら。  『君、どこから入ってきたのー?』って。  まさかラウンズが引っかかるとは・・・」 「だ、だってジノ・・・」 「でも、ジノは」 「「え」」 円らな瞳が今度はジノを睨む。 「初めて会った時、私の事『アームストレイル卿』って言った。  それより全然まし」 「うわ・・ジノ・・」 「だからごめんって言ったじゃんか、アーニャ!!」 落ち込むジノをそのままに。 「・・着替えてくる、訓練あるから」 「あ、そっか。今帰ったばっかりか」 「うん・・・じゃ」 「あとでなー!」 「あ・・アーム・・・じゃなくてアールストレイム卿!!」 振り返る彼女。 「間違えるくらいなら『アーニャ』って呼んで」 「あ・・・ごめん・・アーニャ!!」 「何?」 爆笑するジノを放っておいて。 「ナイトオブセブン、枢木スザクです。  よろしくお願いします」 彼女は紅い目に少し優しさを映して。 軽く手を振って。 次に会った彼女は 桃色のマントに身を包んだ、 ナイトオブシックスで。 すぐにその小さな体に秘めた、 恐ろしい実力を知ることとなるのだけれど。