(「My detestable things」から繋がってます) 天国から始まる愛があったっていいじゃないか eden 目を開ければ真白い世界で、 ここはどこだろうと記憶を辿って。 『・・あ・・私死んだんだ』 自分が死んだことを思い出した。 ということはここは天国なの? 殺風景な天国なのね。 とりあえず身体を起こす。 自分は何も身にまとっていない。 どうしたらいいのだろうと 考えていると人影が見えた。 さすがに死んでも理性はあるらしくて この格好は恥ずかしい・・・。 急いで隠れようと思っても動けない。 足を何か糸が絡まっていて動けない。 人影がすぐ傍まできて。 もう見られる事を覚悟してぎゅっと目を瞑れば。 「案外胸ねぇな」 聞き覚えのある声にゆっくり目を開ければ 意外にもあの鳥頭の吸血鬼が立っていた。 白いシャツに、黒のスラックスで。 「紳士としてその発言はいかがなものかしら、ブラッドリー卿」 「・・・はっ、俺達もう死んでるのに爵位とか関係ないだろ」 「ただの、ルキアーノと・・・モニカ、じゃないのか」 その言葉に確かにそうだと思って、 返事をどうしようと考えて入れば 何かを投げられた。 「さっさと着ろ。襲うぞ」 それを言われた瞬間に自分が裸だったことを思い出す。 「ばばばか!見ないで、変態!」 そう言って渡されたものを見れば、 下着と若草色のワンピースだった。 「だから早く着ろ、貧乳」 「最低!もう、黙ってて!」 涙目で着ようとするけれど、 足にまだ糸が絡まって それが地面に縫いつけられてて どうしたらいいかわからない。 立てない・・・・。 「・・・ねぇ・・」 「あー?」 「はさみもってる?」 「・・・・」 その言葉に彼が不思議そうにこちらを向いて、 近づいてきた。 「こここないで!変態!」 「うるさいから黙れ」 彼は懐から一本お得意のナイフを取り出して 私の糸を切った。 「生きてる世界に未練たらたらのヤツはこうなるんだよーばーか」 その言葉に暫く考えて、 少しだけ涙が零れた。 コイツも前で泣くの・・いやだったけど。 「・・・・・・・未練があっちゃだめなの・・・・?」 視線がこちらを向く。 それをふりほどくように無言で服を着た。 「・・・あったって・・・意味がないだろ」 その言葉に私は苛々して、 思わず言葉が唇から零れた。 「・・・貴方に何がわかるのよ」 「・・・・?」 「あたしにはちゃんと人生設計があったのに!」 「・・・・・・・・・・は?」 ワンピースをはためかせて 彼の元へ行った。 シャツの胸元を掴んで。 「ラウンズに入って、功績あげて!」 「20代後半に入る前にいい男捕まえて!!」 「可愛い赤ちゃんを2人産んで・・・ううん3人!!!」 「子供と庭ではしゃいで!老後は旦那さんと温かく暮らして!!!」 「老衰で子供にみとられて死にたかったのに!!!!」 私は必死に喚いた。 彼は驚いたように目を丸くして、 やがて噴き出した。 「っはははは・・・ばっかじゃねーの!」 「煩いわね!なんで第一吸血鬼が天国にいるのよ!  普通貴方地獄行きでしょ!」 「ギリギリ天国だったんだよ、ギリギリ!」 呆れたような顔が私を見つめてくる。 私は真っ赤になって、苛々して・・・。 でも。 「泣くな。苛々すんだよ、お前が泣くと」 「・・・泣きたくなるに決まってるでしょ・・。  なんで・・・死んで・・一番最初に貴方に会わなきゃならないの・・・」 潤んだ瞳で睨みつければ 彼は何とも言えない複雑そうな顔をした後に 苦しくなるくらい私を抱き締めた。 男の人に抱きしめられるのってそういえば初めてだった。 胸板が温かくて、ドキドキする。 死んでからこんな経験するなんて、なんて滑稽。 「・・・聞いていい?」 「・・・なんだ」 「・・・・・・・あれって・・ほんとなの?」 「あれ?」 思い出すだけで恥ずかしくなるけど、 教えてほしいから、 ほんとのこと。 「私に・・惚れてるって話」 泣きはらした瞳で 彼を見上げれば、 柄にもなく少し頬が染まっていた。 なんとも言えないような顔をして、 やがて、逆ギレされた。 「〜〜〜〜っ!!!だったら悪いかよ!」 あら、どうしよう。 意外にも可愛い。 その反応が本当に意外で。 少し笑えば、不服そうな顔をされる。 本当はあの日からずっと考えてた。 このもやもやはなんなんだろうって。 でも今わかった気がする。 そっと腕を上げた。 彼の首の後ろにまわして、 少しだけ背伸びをした。 ほんの少しだけ目を開いて、 唇を寄せれば、 彼の顔が少し傾いた。 初めてまともなキスをしたかもしれない。 たったいっしゅん、唇を触れ合わせるだけのキスで。 でも、あったかかった。 「・・・なぁ」 「なによ」 「あの糸さ、俺もついてた」 「・・さっき人のことバカにしてたくせに。  自分も未練があったんじゃないの・・」 「お前にな」 「・・・・・・・・・・・・はぁ!!!?」 確信めいた言葉に頬が染まる。 頭を抱きかかえられて、強く抱きしめられる。 「・・・・一緒に来いよ、どうせお前なんて一人ぼっちだろ。  性格悪いから」 「・・・素直に『来てくれ』って言って」 「・・・一緒にいてくれ」 私の人生は砂糖菓子みたいに甘くはなくて。 所詮20代半ばで裏切りものに殺されて。 恋愛小説のような甘酸っぱい恋は全然できなかったけれど。 「・・・行くぞ」 「ねぇ、あなたの家って大きいの?」 「それってお前の基準次第じゃないのか?」 「ホラーハウスみたいなところだったらどうしよう」 「・・・・さっさと歩けよ、・・・・モニカ」 「貴方こそもっと遅く歩いてよ、・・・・・・・・・・・ルキアーノ」 ジロリと睨めば、乱暴に右手を握られた。 恥ずかしいのかこっちを向いてくれなくて、 その照れ隠しに少し笑えた。 拝啓、神様 私の天国での生活はどうやら少しばかり 甘くなるようです。 そして忙しくもなるみたいです。 ひねくれ者の更生をしなきゃいけないから。 初々しくて、ほんのまだ小さい 仄かな愛をもって。