かみさまはざんこくで かみさまはみんなにびょうどうにしあわせをあたえてはくれない engage 重たい瞼を開ければ、そこは真っ白な世界だった。 真っ白なシーツの敷かれた真っ白なパイプベッド、真っ白なカーテン。 そのベッドに俺は横たわっていた。 とりあえず、死んだのか、そう思った。 白ということはこれは天国なのか、 それともあのカーテンをあければ地獄なのか。 どちらにせよ、地獄だ。 なぜなら、死しても共にありたかった人がいなかった。 撃たれた時必死に手を掴もうとしたのに。 そんな時、コツコツと音がした。 靴音。 カシャリとカーテンがめくられ、現れたのは。 「・・・やあ」 「・・・ゼロ・・いや、ルルーシュ」 ルルーシュだった。 ああ、地獄にきたのだと確信した。 「お前がいるってことは、俺は地獄に落とされたのか?」 苦笑すれば、彼は言った。 「残念だな、ここは病院。  お前はまだ生きている」 そう言われて、初めて自分が生きているのだと分かった。 「・・・アーニャはっ!!!?」 ルルーシュは黙っていた。 そしてその意味を知り、頭をおさえ、俯いた。 神様はやっぱり優しくなんかなかった。 「何故殺さなかった・・・?」 だから、聞いてしまったのだ。 「あの時お前を撃った銃はただの麻酔銃だ。  私は皇女やナナリーを殺す気はなかったからな」 彼は興味がなさそうに呟いた。 そして、椅子に腰を下ろした。 「お前が眠った後の話だ」 「我々は完全に神聖ブリタニア帝国をおとした」 「皇帝及び軍事に関与した皇族・・・シュナイゼルなどは、  のちに公開処刑される」 俺はその話をぼんやり聞いていた。 やはり自分達は負けたのだ。 となると自分も処刑対象だろう。 なんだったのだろう。 俺達が必死に守っていたものは? 地位、名誉? もうなんだかわからない空虚感に襲われる。 「だが」 ルルーシュは口を開く。 「俺はそれ以外の者を処刑する気はない」 その言葉に驚き、顔を上げた。 「ブリタニア人を支配する気も毛頭ない。  多少の介入は不可欠だが、民主化させて、  平等な社会を作り、新しいブリタニアを作る」 「・・・今まで何千という仲間を殺したのにか?」 苦笑すれば、鼻で笑われた。 「それはお前達ブリタニア人の方だ。  粛正という名聞で何人の日本人が死んだか。  本来ならブリタニア人は何らかの罰を受けるだろう」 彼は一息つき、話し出した。 「だが、私はそうはしない。  何故か?  それをしたら私はブリタニア皇帝と何一つ変わらないからだ。  それは堕ちた者が行う行為。  私達がお前達を虐げれば、  今度は私達がブリタニア人と同じになってしまう。  それはただの憎しみの連鎖であって、あの男の思うつぼなのだ」 そして彼はこちらを向いた。 黒の衣装は白の世界になんだか滑稽な気がした。 「さあ、本題だ。  元ナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグ」 「・・・俺の処分か」 「ああ。  選択肢は二つだ。  選べ」 低い声は語る。 「一つは、失われた帝国の元ナイトオブスリーとしての誇りを胸に公開処刑」 「そしてもう一つは」 彼ははそういうと俺の右手のカーテンを開いた。 そこには信じらんない光景があった。 同じ白い世界で、白いパイプベッドで眠る。 「アー・・ニャ・・・!!」 思わず体を起こそうとした。 麻酔のせいでゆっくりだったが、体は動いた。 「私は『死んだ』とは言っていない」 「アーニャは・・・!!?」 「まだ麻酔が残っているだけだ。  じきに目覚める」 そして彼はカーテンを開けたまま、俺を見ながら言った。 「もう一つは、今までの地位も名誉も全て捨て、  我が黒の騎士団の統括するのナイトメア部隊で働け。  そうすれば、三人暮らせるくらいの生活を保証しよう」 その言葉をしっかりと聞いた。 ただ不思議な点があったが。 黙った俺にゼロは怪訝そうに言った。 「・・・お前は彼女の恋人なのだろう?」 「ああ」 「なら、選ぶがいい。  彼女が目覚めたら、話し合え。  頃合いを見計らって、また来る。  それじゃあ」 そう言うと彼は立ち上がって部屋から出ていこうとした。 「待て」 俺は引き止める。 どうしても聞かなきゃいけないことがあるからだ。 彼は振り返って俺を見た。 「なんだ?」 「三人って・・・?」 「・・・・お前知らなかったのか」 彼は一息ついて、驚くべき事を口にした。 「彼女は妊娠している。  三カ月だそうだ」 「なっ・・・」 「まさか身重の体でナイトメアに乗り、  マシンガンを撃っていたなんてな。  恐ろしい女だ」 それだけ言って彼は出ていった。 俺は希望と絶望の間で頭を抱えた。 知らなかった。 彼女が身ごもったまま、戦闘に参加していたなんて。 勿論知っていたら、こんな無茶させなかったし、 もっと早くプロポーズしたのに。 そう後悔がよぎる。 三カ月前、確かに夜を共にした。 それが、最後だった。 三カ月だと言うのなら、辻褄があった。 麻酔がまだ抜けきっていない足をゆっくりと床に下ろした。 裸足がリノリウムの床の冷たさを直に感じた。 真っ白な肌をした彼女のベッドどの横に椅子をひき、座った。 柔らかな桃色の髪は昔よりずっと長くなっていた。 それに指を絡めるとふんわりとした感触。 「・・・アーニャ」 小さく呟いた。 彼女はまだ目覚めないようだ。 柔らかな白のシーツから、ほっそりとした腕がはみ出していた。 その更に細い薬指にはシルバーリングが光っていた。 ぎゅっとその手を掴み、ベッドに肘をついて、口元まで近づけた。 細く長い指先は確かに温かな体温を持っていた。 少し安心したが、やはり彼女の肌は白かった。 「・・ごめんな」 この小さな体をどんな重い鎖で絡めていたのだろうと思うと 苦しくて堪らなかった。 「・・ジノ・・」 長い睫毛が揺れた。 紅い視線にまた見つめられる。 「・・また・・ないてるの?」 「・・・アーニャッ・・・」 横たわる彼女の隣に顔を俯けて、涙を零した。 「・・なかないでよ」 いつもは俺がアーニャの頭を撫でるのに、 今日はアーニャに撫でられている。 「ないてるジノよりわらってるジノのほうがすき」 そう言われて、顔を上げる。 涙が零れたが、微笑むことができた。 「ジノ・・」 「どうした?」 「・・生きてるの?」 「ああ・・病院だって・・」 「・・・そう・・・どうなった」 「ブリタニアは・・・・・負けた」 「・・・そう・・・・私達は処刑されるの?」 「・・・さっきルルーシュが来た」 「・・・」 「選べって」 「・・・?」 「『地位を持ったまま、公開処刑か』  『地位も名誉も捨てて、黒の騎士団のナイトメア部隊で働くか』」 「・・・そう」 「『働くならば、三人の生活くらい保障する』って言ってる」 「・・・三人・・?」 「・・・なぁ・・どうして・・黙ってたんだよ」 アーニャは言っている意味を察したらしく、 一瞬驚いて、そして俯いた。 「・・・そんなこと言える状態じゃなかったから」 「だとしても・・・・」 「・・・・それに」 「・・?」 「ジノがどうなのかもわからなかったから」 「・・・・・ごめん」 「・・ジノは・・どうしたい?」 「考える必要なんてない」 だって、その指輪に誓ったから しあわせにするって