触れた指の先に 少しだけ震えた finger 何故か彼は最近よく部屋に来る。 仕事終わりに。 業務も夕食もシャワーも終わった後に。 そして 特に意味もなく私の隣に座る。 ベッドに腰掛ける私の隣に。 「何?」 怪訝そうに言えば。 「別に」 そう言って視線をそむける。 ならば帰れといつも思うのだが。 一度そういえば彼は少し寂しそうな顔をして 帰っていったので、それ以来言えなくなった。 彼はこんな時(夜私の部屋にくる時)いつも変。 いつもスザクに肩を組んだり、 私を膝に乗せたり、 笑って頭を撫でたりするのに、 この時は何もせず、ただ隣に座るだけ。 これをするようになったのはあの日から。 『すきだ』 そう言われたあの日から。 彼はあの真っ青な瞳で私を見つめて言った。 私の返事は『わからない』 『ジノは特別。でもこの気持ちが愛なのか、わからない』 そう言えば彼は微笑んだ。 『じゃあ・・アーニャの気持ちが愛になるまで  傍にいてもいい?』 私はこくりと頷いたのだった。 そして今に至る。 私達は見えない不可侵領域の線を引いて 座っている。 私達は座って、とりとめもない話をする。 視線も合わせずに。 彼は私の肩を抱くことも 頭を撫でることも ましてや抱きしめたり、愛を囁いたり 口付けたりなんてしない。 ただ喋るだけ。 何故か分からない。 心のどこかでそう望んでる自分がいる。 これが愛してるということ? やっぱりよくわからない。 ただ彼に触れられることは嫌じゃない。 どちらかと言えばすきだということはわかる。 ふわりと手が温かいものに包まれた。 視線を向ければ大きな左手に包まれた右手。 こんなことされたことがなかった。 視線をあげれば、優しい瞳。 「いや?」 私はゆっくり首をふる。 ただ視線は前じゃなくて下になる。 どうしてかわからない。 ただ指が触れて体温が伝わった時 とくりと心臓がはねた。 そんなことめったにないのに。 顔が少し熱くなる。 よくわからない。 こんなの記録にも記憶にもない気持ち。 わからない。 大きな手がやんわりと私の手を掴んだ。 優しい指先が私の指の間に侵入して。 手と手が繋がる。 いつからか会話が途切れた。 沈黙が痛い。 可笑しい。 相手はジノ。 沈黙なんてありえないはずなのに。 私はどうしたらいいかわからない。 ただその手を振りほどきたくなくて。 もう少しその熱を感じていたい。 なんだか手が少し汗ばんでる気がする。 さっき以上に動悸がひどい。 くらくらする。 熱でもあるのだろうか。 ぎこちなく指先に力を入れる。 大きな手を握り返せば 視線を感じる。 おそるおそる視線をあげれば 蒼い瞳が驚いてこちらを見つめた。 「・・な・・に?」 「・・・いや・・・その・・」 少し赤い頬で視線をそらされる。 私もなんだか熱くなって、視線をそらした。 また沈黙がいたい。 胸が苦しい。 不可侵領域を縮めたくなった。 見えない壁を作ったのは誰なんだろう。 三人でいる時は感じないのに。 この繋いだ手のある場所はきっとその壁の位置。 「・・・ジノ」 「ん・・・」 「・・・・喋って」 「・・・アーニャこそ・・・」 「お喋りはジノの専門」 「俺だって黙りたい時だってあるよ」 そんな減らず口を叩いたって彼は指先の離したりしない。 私も。 結局のところ、もうわかってるのに。 私は彼を愛しているという証拠が欲しいだけなのかもしれない。 そんなもの目に見えるというものじゃないのに。 ほんの少し、不可侵領域を狭めれば 彼も何も言わず狭める。 気づけば密着。 繋いだ手は彼の膝の上。 気づけば壁は消えていた。 不可侵領域は消えていた。 何も言わずに、肩に頭を寄せれば、 繋がれた手を解かれて肩を抱かれた。 ジノの匂いがした。 どんなアロマよりもずっとずっと安心する。 ああ、どうしてかわからない。 この匂いはいつも私の心をきゅっと小さくして 小箱に入れるような、 そんな気持ちにさせるの。 ああ、どうして もう一方の腕で捕まえてなんて思っているのか 解放された指先で 遠慮がちに彼の右手の人差し指でつつけば 私の頭より上にある彼の口からくすりと笑い声が聞こえて 同じように彼は自分の右手の人差し指で 私の左の人差し指に触れた。 指の先端が揺れ合って。 そのまま親指も 中指も薬指も小指も 彼の同じ指と触れあっていく。 先端だけ温もりを享受しあう。 そのままぴたりと掌をくっつけた。 やっぱりその手は私の手よりずっと大きかった。 「・・ジノの手・・おおきい」 「アーニャの手よりは大きいよ、そりゃ」 そうやってまた微笑むから、 もう私は降参するしかないの。 「ジノ」 「ん?」 「本当は知ってたんでしょ」 「何を?」 「・・・ばか」 「へ・・?」 悔しいから顔なんて見ない。 彼の肩に顔を埋めた。 「もう ずっと あいになってるって」 その体温に触れられたい。 その声音で名前を呼ばれたい。 もうそれは落ちてるっていう明確な証拠なのに。 くっついていた手が私の首筋近くに来て、 あの指が私の顎にそっと触れた。 指先が私の顔を上げていく。 上げた視線は蒼い視線と絡まる。 「・・すきだ」 ゆっくりと瞼が落ちていくのと同時に 私の瞼も落ちていく。 唇に初めて触れた柔らかい感触に 今までないくらいに胸がはねた。 ぎゅっと彼のシャツを掴めば、 あの腕に抱きしめられる。 口付けられた瞬間に全部分かった。 きっとこれは答え合わせだったのね。 開いた瞳には嘘みたいな蒼い瞳。 ねぇ、答え・・・あってる・・? 「・・わ・・たし・・も」 よかった あってるんだね せいかいのしるしは やさしいえがおと あったかいきす ゆびさきがおしえてくれる こいしてるしるし くちびるがおしえてくれる あいをかんじたあかし