(現代パロ 大学生ジノ×高校生アーニャ) 私はこの客が嫌いだった。 Please give me! 高校に入って、特に入りたい部活もなく ぼんやり勉強だけしてようとしていた矢先の事。 それは友達のナナリーからの提案だった。 「アーニャさんは部活してないんですか?」 「してない」 「じゃあ、放課後暇ですか!?」 「・・暇・・だけど・・・」 「私、実はバイトしてるんです!  で・・そこのバイトの人が一人止めてしまって・・。  もしよかったら一緒に・・・」 「・・・・・」 「だめ・・・ですか・・?」 ナナリーは中学時代からの大切な友達で。 私は特にやることもなくて。 で、その誘いに。 「・・・いいよ」 「本当ですか!」 頷いて。 それが3ヵ月前の話。 ちなみにナナリーがバイトを始めた理由は 売れ残ったケーキが貰えることと 貯まったお金でお兄さんとお姉さんに 何かプレゼントしたいということだった。 バイト先の名前はケーキ屋『ラウンズ』 私は週2回、放課後にシフトに入ることになった。 最初は慣れなかったが 今はもう仕事にもだいぶ慣れた。 一番苦手だったのは接客。 「いらっしゃいませ」 その一言を言うだけでも笑えない。 無愛想になってしまう。 でも、常連の人は私の事をわかってくれたみたいで 笑って有難うと言って帰っていく。 店長も喜んでくれている。 バイトを初めて、なんだか一つやりがいのあることを見つけた。 そして、彼はちょうど1ヵ月前。 だから私が入って2ヵ月目に現れた。 「・・・いらっしゃいませ」 「どーも!」 金髪に蒼い瞳を持った男の人。 彼はいつも違う女の人と一緒に来る。 一体何人の彼女がいるのだろうかと思う。 彼はジノという名前らしい。 (彼にはべってる女の人が呼んでいた) 「えーっと、ティラミスと・・・何にする?」 「ジノ君が選んでくれるなら、あたしなんでもいいよ」 「じゃあ、レアチーズケーキね」 「かしこまりました」 私は得意の無表情で箱にケーキを詰めていく。 正直言って私はこの人が苦手だ。 にこにこ笑って。 心の中で何考えてるか分からないようなところが。 箱を渡して、お会計。 彼は笑って。 「有難う」 そう言って私の頭をくしゃりと撫でる。 いつもこれをしていく。 隣の女の人の嫉妬の視線が私に注がれる。 私は無表情でただ 「有難う御座いました」 これはこの人の嫌がらせなのだ。 なんの関係もない私をあの女の人の嫉妬の対象にさせて 楽しんでいるだけ。 なぜなら、あの女の人がもう一度 彼と一緒にこの店に来ることはないだろうから。 彼が同じ女の人を2回この店に連れてきた事はないのだから。 それはある梅雨の日の出来事だった。 「アーニャさんのばかっ!!!」 「・・・・・」 ナナリーと喧嘩をした。 けれども私は今までナナリーとほとんど喧嘩なんかした事がなくて。 理由は・・・ナナリーの恋人。 ナナリーに恋人ができたそうだ。 一つ年上の頭がよくて優しい先輩。 いい人というのは知っているのに なんだかナナリーがとられちゃいそうな気がして 素直に喜んであげられなかった。 雨が降る帰り道を駈け出した。 傘もささずに。 ポロシャツが水分を含んでいく。 ローファーが重くなっていく。 前髪から滴が落ちる。 どうしたらいいかわからなくて 涙がぽろぽろあふれてくる 泣くなんて何年ぶりだろう。 苦しくて唇を噛みしめた。 気づいたら雑踏に紛れていた。 人ごみが私をよけていく。 でも知らない こんなときに慰めてくれる人 私にはナナリーしかいないから でもナナリーを誰かに取られたくなかった。 そんなの無理だって知ってるのに。 濡れた手首で涙を拭った瞬間 雨が途切れた。 「あ、やっぱり。『ラウンズ』のバイトの子だよな?」 振り返れば、あの金髪の人。 傘を私の上に差してくれた。 「あ・・・・」 「うっわ・・ずぶ濡れ・・。  傘ないの・・・?」 濡れた前髪を払われた。 「・・・泣いてるの?」 思わず泣いているのがばれて 恥ずかしくなって、 何も言わずに彼の手を払って 駈け出した。 駈け出そうとした。 「待って!!」 手首を掴まれたからそれはできなかったけど。 「・・・なに・・」 「風邪ひく・・・送ってく」 「帰れる・・・」 「・・・いいから」 彼は強い力で私を引っ張った。 気づけば駐車場に連れていかれて 彼の車に入れられた。 私が小さくくしゃみをすれば 彼は夏だというのに 私のためにすこし暖房を入れた。 「寒くない?」 「・・・・あついんじゃ・・」 「俺は大丈夫だから。  ああ、うち近所だから」 「・・・・?」 彼は暫くするとマンションの駐車場に車を止めて 私を部屋に招いた。 一人暮らしのようだったが、綺麗だった。 一人暮らしの男の人の部屋に しかも仲がいいわけでもなく (むしろ嫌い) そんな男の部屋に入るのはどうかと思ったが。 「シャワーここだから。着替えも用意しとく」 そう言われてバスルームに入れられた。 どうするわけにもいかずとりあえずシャワーを浴びた。 冷えた身体が温まっていくうちに なんだか落ち着いてきた。 脱衣所にはタオルと着替えが置かれていた。 着替えて出てくると、 彼はソファーでコーヒーを飲んでいた。 「コーヒー飲める?」 その言葉にこくりと頷けば コーヒーを淹れてくれた。 「砂糖とミルクは?」 「両方」 「おっけー」 砂糖とミルクが入った温かいコーヒーは 私の身体を芯から温めてく。 「・・・落ちついた?」 あの微笑みが私を見つめる。 私は俯いて、頷くだけ。 「どうして泣いてたんだ?」 「・・・・・」 「・・・言いたくない・・っか」 「・・・男の人・・嫌い」 「・・・ん?」 「私・・・貴方嫌い」 「あ、やっぱり?俺嫌われてるんだろうなって思ってた」 私は素直に言って彼を睨んだ。 「女の人、弄んでる」 「それは違うな。みんな好きっていうから付き合うだけ」 「どうして?嫌いなら断ればいい」 「嫌いじゃない、好きでもない、どうでもいいだけ」 そう言って彼はくしゃりと濡れた私の髪を撫でた。 そして手元から煙草を一つ取り出して、火をつけた。 「それ飲んだら送って行ってあげる」 「・・・だから男の人は嫌い」 「・・・ん?」 私の想いが溢れた。 同時に涙が零れた。 「男の人は皆他の女の人の事、好きになる」 「どれだけ愛していても」 「そうやって私の好きな人を皆奪ってく」 「おかあさんも・・・おとうさんのせいで・・・」 「いや・・・ナナリーまで誰かに取られちゃいや・・・」 父は不倫をして母と私を捨てた。 そのせいで母はつらい思いをした。 なんでこんなことこの人に言ったんだろう。 でもなんだか気づいたら止まらなくなって。 唇を噛みしめて涙をふいて彼を見た。 わらってなかった ただ驚いたように私を見つめていた 私はどうしたらいいか分からずに。 次の瞬間 抱きしめられた 「!!!」 「・・・・ごめん」 「あの・・・」 「あのさ・・嫌なら打っていいからさ」 「泣いていいよ」 打つところかきゅっと胸の中に押し込まれた。 とくとくと鳴る鼓動が聞こえる。 涙が彼のシャツを濡らしてく。 思わず、気づけばそのシャツを掴んで泣いていた。 あの後彼は私を家まで送ってくれた。 次の日にはナナリーと仲直りもして。 ただ彼はあれ以来まだ店にはきてなくて。 店の私のロッカーに置かれたあの日借りた服とタオル。 まだ返せていない。 そんなある日 彼が店に来た。 いつもと違うのは 一人で来た事。 「・・・・いらっしゃいませ」 私は相変わらず無愛想で。 ただ注文を聞き終わったら 彼に借りたものを返そう。 そして先日の事を謝ろうと思った。 「・・・ご注文は・・?」 私は黙っている彼に首を傾げた。 「・・・名前」 「・・・・?」 「君の名前・・・」 珍しく笑ってない。 初めて見る真剣な顔。 「アーニャ」 俯いて呟く。 彼は私を見つめた。 そういえば彼は今日甘い香水の匂いがしない。 「えっと・・・・・俺の名前は」 「知ってる・・・ジノ・・・さん」 「ジノでいい」 彼は私にそう言って。 「俺さ、今まで人を好きになったことないの」 「・・・は・・ぁ・・・?」 「だから、告白したこともない」 「・・・・」 何が言いたいかよくわからない。 今店内に私と彼しかいないとはいえ 他に客が来たら困る。 「あの・・・注文・・・」 「アーニャをください」 思わず固まった。 「は?」 「俺の彼女になって!」 彼を見れば、頬が少し赤くなっている。 これがクールに女を侍らせていた人なんだろうか。 「浮気とか、絶対しない!!俺誓うから!!!」 「・・・」 「今まで言い寄られてた女とかもすっぱり切ってきたから!!!」 「・・・あの・・」 「俺、今、アーニャの事しか考えられない!  本当は・・・あの日、アーニャに声をかけたのは」 「・・・ずっと気になってたんだ・・アーニャのこと・・・」 「・・・ここに通いだしたのも・・アーニャがいたからで・・」 「・・じゃあなんで・・女の人・・・」 「・・それ・・は・・・」 私は訝しげに彼を見つめた。 「・・男が一人で・・何回もケーキ屋に通ったら気持ち悪いって思われたら  やだなって・・思って」 私は黙った。 暫くして、口を開ける。 「・・・注文は」 「え・・」 「ないんですか」 「・・・じゃ・・え・・・ティラミス」 私は箱に二つティラミスを入れた。 「720円です」 「・・ひとつでいいんだけど」 「720円」 「・・・あ・・ああ・・」 彼は財布から千円を渡して、 おつりを渡した。 ケーキのレジから出て、彼の前に立つ。 手には彼に借りたタオルと服が入った紙袋と ケーキの箱。 彼に渡す。 「あの・・・」 「・・仕事中に・・こういうことされると・・困る」 「ッ・・・ご、ごめん・・・」 彼はそれを受け取った。 「・・・悪かった。もうこんなことしないから・・・」 そう言って出ていこうとした後ろ姿に一言。 「食べないで」 「・・・?」 思わず顔が熱くなる。 俯く。 すこしだけ あなたを あいしてみてもいいですか? だきしめてくれたうでのぬくもりを しんじてもいいですか? 「ティラミス」 「仕事終わったら」 「食べに行く」 彼の顔があのキラキラした笑顔になって 「・・待ってる!!!」 その後、私は彼の家で二人でティラミスを食べた。 ほろ苦いけど甘いのがなんだかこの気持ちに似ていた。 もう私は恋におちていたのかもしれない。 あの日に。 ねぇ ななりー ひとをすきになるって すごくあたたかいね