(ひどいパラレルです。  騎士ジノ×巫女アーニャ) あいしてしまうなら であわなければよかったのに the praising hill ここは神託が王政を決める世界。 国王と巫女長は同等の地位を持つものであった。 神託を授かったのは、4つの時。 私は村で初めて巫女になった女だった。 だが私の授かった神託は 前代未聞のものだった。 『かの者は神の力を与えられし者。  その力は他の巫女の比にはならない。  この世の巫女の長となる力を持とう。    だが、  叶わぬ想いに身を引き裂き、  やがてその手に刃を持ち、  籠から飛び立つであろう』 予言が支配する世界。 そして私の予言と巫女の力は予言通り 今までの巫女の長に君臨するまでのものだった。 12で巫女の長となり、国中にそれが知らされた。 だが私の名も、住まう土地も、誰も知らなかった。 顔を見せることも、声を聞かせることも、 身の回りの世話係以外禁止されていた。 巫女の長の予言によって、 巫女がそこから消えないように 私はほぼ世界から隔離され、毎日暗い世界で 神託や儀式を行い続けた。 だがそんな事に堪えれるはずもなく。 夜にこっそり抜け出した。 村から抜け出し、霧が吹き抜ける森。 その奥には、せせらぐ川のほとりで歌う。 それだけが救い。 私に自由はない。 人々の偶像になるだけで。 象徴だ。皆私が好きなのではないのだ。 “巫女長様”を崇めたいだけ。 誰も私を見てくれない。 あの夜まで。 その日も同じように抜け出して ほとりで鼻歌を歌っていた。 すればカサリと草木がなった。 「おーい!」 びくりと振り返った。 見知らぬ男だった。 逃げ出そうとしたが手を掴まれた。 「お前、今何時かわかってるのか?  子供がこんなところにいたら  襲われるぞ」 そのまま大きな男の人は私に視線を合わせた。 私はその蒼い瞳を見つめた。 「俺が家に送ってあげるから、帰るぞ」 私はぶんぶんと首をふる。 私の住まいは国家機密だ。 こんな男には言えない。 「なんだ家出か?そんな身軽な格好で家出って・・・」 私は白いドレスだけを着ていた。 それが巫女に唯一許された私服だから。 「あ、もしかして俺が怪しいと思ってる・・・?」 彼は気まずそうに言った。 私は一応頷いた。 「あ・・・そっか、・・んーえっとな」 「俺はジノ。王族の騎士なんだ。  王都に戻る途中で用事があって、  この近くの街に泊まってるんだけど。  ここに来たのは、訓練したくて。  あ、君は?」 屈託のない笑顔を見せられたのは初めてだった。 とくりと胸が高鳴る。 知らない、なぁに、この気持ち。 わたしは震える喉を抑えて。 「アーニャ」 そう呟いた。 それから毎夜彼とそこであった。 彼には『親が心配しないのか?』と聞かれたが 「親は死んだ」と言えば何も言わなかった。 彼はいつも剣を振っていて、 私も彼に剣術を教えてもらった。 私はお礼に何もできないかった。 ある日お礼がしたいと言えば 歌ってくれるだけでいいと言ったので 私は歌った。 人に歌を聞かせるなんて初めてだったけれど、 彼は私の歌がすきだと言って いつも頭を撫でてくれた。 笑う事が苦手で 表情が乏しい私だが 彼はいつも可愛いと言ってくれた。 嘘でもよかった。 嬉しかった。 幸せだった。 ずっとずっと一緒にいたいと思った。 暫くたった夜だった。 「明日発つ事になったんだ。  アーニャともお別れだな」 寂しげにくしゃりと髪を撫でられた。 私は絶望した。 彼はもう私にとっては生きる全てに近かった。 「見送り、きてほしいな?」 そう言ってくれる事は嬉しかった。 でも私にはできなかった。 明日も目が覚めれば 神託と儀式と予言と 私の生きる意味だけが並べられたあの屋敷が待っている。 私は首を振った。 「・・・ごめん。できない」 「・・そっか・・。じゃあ・・・ここでお別れ、だな・・・」 寂しげに笑った彼は立ち上がった。 「・・・有難う。アーニャと一緒にいて、楽しかった。  きっと、いつかまた・・・会いにくる」 そう笑って、いつものように頭を撫でて。 そして、背中を向けた。 彼は戻って行こうとした。 私はその背中を見て、 我慢なんかできなかった。 スカートをはためかせて あの大きな背中に抱きついた。 「・・アーニャ?」 「行かないで。一人にしないで」 気づけば涙があふれていた。 もう彼がいなければ生きる意味なんてなかった。 世界は残酷すぎた。 何も欲しくないのに、こんな力欲しくないのに。 彼は大きな腕で私を抱き締めた。 おひさまみたいな匂いがした。 あったかいと思った。 「ごめんな・・・」 でもその言葉は残酷で。 いつかこうなると分かっていたのに。 それでももう私はこの男を愛してしまっていた。 でも言えなかった。言ってはいけなかった。 だから嘘みたいな約束をした。 「・・・わたし、騎士になる」 「・・・は・・・?」 「騎士になって、ジノよりも強くなって」 「会いに行くから」 大粒の涙が頬を零れた。 彼は驚いた顔をして、その後に 私の涙を拭って。 額にキスをした。 「約束のしるし、な?」 悪戯のように笑って、 私は少し赤くなって、 でも笑えてたんだと思う。 あの夜から彼と会う事は無くなった。 私はいつものように巫女の長としての仕事を繰り返す毎日。 ただ予言のせいで私は一本すら身の回りに刃物を持っていなかったが 彼がくれた剣をこっそり隠して 夜な夜な猛特訓した。 会いたかった。それだけだった。 夜な夜な、身を隠して強者に戦いを挑み勝ち残った。 やがて村のつわものを全て倒し 自信がついた頃だった。 ある夜、私は宝庫に蓄えてあったお金を少し貰い 男物の服を借りて、 あの屋敷から抜け出した。 抜け出す前、一つだけ残した。 巫女の証である腰まであった長い髪を、 肩まで切り落とした。 皮肉な事に予言通りとなった。 無事に王都に着いた頃国中で 巫女長が消えたと伝えられた。 髪のせいだろうか、巫女は連れ去られた可能性が高いという話だった。 探そうにも巫女の長には一枚の写真もなく 規則によって巫女の姿を明かせないために 大きく捜索できないため 大問題にも関わらず、解決策はまだたっていなかった。 私は王都で無事騎士試験をトップで通過し、 彼が所属している十二人の最高騎士隊の六の騎士として入隊した。 彼は私に会うなり驚いて、そして大笑いした。 すごいと褒めてくれた。私は最年少での入隊だった。 やがて私は王女ナナリー姫の護衛を多くすることになった。 彼女は私と同い年で、王族なのにとても優しかった。 ある日だった。 王族家のパーティの守護任務についていると 彼が一人の女性を連れてきた。 「アーニャ。許嫁のカレンだ」 苦笑した彼は彼女を私に紹介した。 良家のお嬢様だった。 政略的な婚約だったそうだ。 私は泣いた。 馬鹿だと、馬鹿な女だと泣き続けた。 でも それでもいいと思った。 彼が他の誰かを愛しても。 私は彼を愛し続ける。 彼には内緒でひっそりひっそり。 想いを胸にこがして、死んでしまってもいいと。 彼は私を籠から出してくれた人だったから。 暫くたった頃だった。 国に飢饉が訪れる、そう予言がでたそうだ。 私がこっそり続けていた予言でも やはりそう出ていた。 そして、その解決法も。 『巫女長を神の御膝へ』 神の御膝とは王都にある 最も偉大な神殿である。 そこへ行くということが 巫女にとってどういうことか。 負の予言が消滅するまで 巫女はそこで祈り続けなくてはならない。 水も飲まず、何も食べず。 たった一人で。 神の御膝は巫女の中では 死を予感させる言葉だった。 午後の事だった。 ナナリー王女にお茶に誘われた。 明るい日差しの下で外に出れるのは 本当に幸せなことだと思う。 けれど私が幸せを感じることで 誰かが不幸になるのならば 私はもう分からなくなっていた。 「アーニャさん」 「・・・何?」 「何か・・悩みでもあるんですか?」 「え・・・?」 この盲目の姫は人の気持ちに敏感な子だった。 「・・・そう?」 「ええ」 「私でよければ・・聞いてもいいですか?  誰にも言いません・・・」 もう心が壊れそうだった。 彼女が私の手を握った瞬間温かさに涙がこぼれた。 「ナナリー」 「・・・はい」 「もし・・自分が幸せになりたいと思って、  でも自分が幸せになりたいと望めば  他の人が幸せになれないとしたら」 「・・・・難しいですね」 「・・・・・・」 「ナナリー」 「はい」 誰にも言いたくなかったけど 手で顔を覆った。 「わたし、ジノがすき」 「・・・・知ってましたよ」 顔をあげれば彼女は微笑んでいた。 「アーニャさん、ジノさんの前では雰囲気が柔らかくなりますから」 「・・・そう?」 「ええ」 そう言って彼女は手を握って、言った。 「・・・ジノさんには言ったのですか」 「言えない・・カレンがいるもの・・・」 「・・・それでも・・あなたは」 「後悔しないんですか?」 「・・・え・・・」 「ジノさんに聞きました。  アーニャさんはジノさんに会うために騎士になったって」 「・・・・」 「ならば、まだ間に合います。  彼に想いを伝えましょう。  例え、それが・・・良い返事ではなくとも  貴方はそれをもう・・・気にしているのではないのでしょう?」 「・・・うん。それは・・・いいの・・・。  彼が幸せで、愛しているなら・・・」 「・・・なら、あなたは一体本当は何を悩んでいるんですか?  ・・・幸せになれない他の人はカレンさんじゃないのではありませんか・・?」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・言えません・・か・・・?」 「ごめん・・ナナリー」 私は結局言えなかった。 けれど彼女は彼のように優しい笑みで。 「いつか言ってもいいと思えたら、教えてください」 約束ですよ。 そう言って指きりをした。 秋は終わりに近づいていた。 もう予言で飢饉のくる冬は近づいていた。 早く巫女長を探さないと。 神官は躍起になっていて。 国はその話題でもちきりで ナナリーはよくその話を私にした。 それはある日、 庭園の噴水のテラスで二人で話していた。 「・・・アーニャさん」 「・・・?」 「・・・巫女長様は何故攫われたんでしょうか・・・」 「・・・・・・・」 「・・本当は自分から消えたんじゃないんでしょうか」 「・・どうしてそう思うの?」 「私だったら・・辛くて堪えられないと思います。  私はお兄様やアーニャさんがいますが、  巫女長様はずっと予言のせいで一人に・・」 「・・・・・」 「私だったら辛くて・・・そう考えると神様はなんと  残酷なんでしょうと思うんです」 「・・・ナナリー」 「・・・明日、神官長さんがいらっしゃるんです」 「・・・そう」 「多分・・巫女長様をこれからは本格的に探すでしょう」 「・・・・」 「・・・私は皆が幸せになってほしい。  でも巫女長様がもし今の状態を望むなら民は飢えてしまう。  ・・・・ああ・・・神様は意地悪です・・・」 項垂れるナナリー。 私はもう決めていた。 「・・・ナナリー」 「はい」 「ナナリーは優しいね」 「・・・そうですか?」 はにかむ姿が可愛らしいと、 そう思っていた。 私にもし生きる意味があるのなら ナナリーが ジノが 陛下が 私を幸せにしてくれた人と その人が幸せを望む全ての人を 皆が笑う世界を作るために 生まれてきたのかもしれないね その後、私はナナリーに用事があると言って ・・・国王の謁見の間に行った。 国王は玉座で深刻そうな顔をしていた。 隣にはジノがいた。 「・・・アーニャ?どうした」 「・・・陛下にお願いが」 「・・私に?どうした?」 陛下が不思議そうに見るので 私は。 「・・・ジノ、陛下と二人で話したい」 「は!?無理に決まってるだろ・・騎士だってそれは規則違反」 「・・・陛下、駄目ですか・・?」 陛下は私を見つめた。 そして、ジノを見つめて。 「ジノ、退出しなさい」 「・・しかし・・」 「命令だよ」 殿下がそう言えば、彼はしぶしぶ退席した。 「で、アーニャ。どうしたんだい」 私は口を開いた。 「・・・明日から・・・暇を頂けないでしょうか」 「・・・どういうことだい。  君にはナナリーだって懐いている。  急には・・・。理由を聞かせてくれ」 私はもう覚悟を決めていた。 さよなら、さよなら。 初めて愛したひと。 髪を解けばゆれた桃色の髪。 片膝をつく。 「殿下。このことは内密でお願いします。  ナナリー王女にも・・・・」 「・・わかった」 「殿下・・・私は」 夜空は綺麗だった。 テラスから見る夜空はいつでも。 今日は弓の形の月。 彼と初めて会った時と同じ。 「アーニャッ!!!!」 階段を駆け上がってきたのは、ジノ。 「・・・何?」 「・・・お前、騎士やめるって・・・」 「・・・誰に・・・」 「ナナリー王女、泣いてたぞ」 「・・・うん。謝ってきた」 「なんで・・突然・・・」 私は空を見上げた。 「・・・飽きた」 「・・・は」 「ナナリーの相手するのも」 「ジノの悪戯で一緒に怒られるのも」 「剣の訓練も」 「全部疲れた。村に帰りたい」 「それだけ」 私はそう言って彼の顔を見ず、部屋に戻ろうとした。 手首を掴まれた。 「それ・・俺の目、見て言って」 「・・・そんな必要ない」 「・・アーニャ」 「いや」 もう私の名を呼ばないで 決意が鈍るから おねがい 本当は まだ貴方と一緒に生きたいのに 「すきだ」 振り返った。涙が止まらなかった。 「嘘つき」 「嘘じゃない・・」 「カレンは・・・」 「・・カレンは他に好きなヤツがいるんだ、本当だ。  二人で今婚約を解消しようとしてる」 「・・・・なんで今いうの」 「・・・お前が・・・いなくなるって・・  言いだす・・機会がなかった・・・」 俯くジノの顔は見えない。 「・・・もう遅い」 涙を拭った。 目が潤んで、もう見えない。 最後なのに。 「・・・遅すぎる・・ジノ・・・」 「・・なぁ、どうしてやめるんだ。嘘だろ、飽きたとか・・・」 彼は私を抱き締めた。 ああ、きっとこれがほしかった。 神様は最後にご褒美をくれた。 ・・ありがとう。 「ジノ」 「・・・」 その胸を押せば、 温かい腕は解かれた。 ねぇ、うまく笑えるようになったの。 「すき・・です、あなたが。ずっとずっと・・いっしょに・・・」 「いたかった」 そのまま駈け出した。 「アーニャ!!!」 階段を降りて、部屋へ戻って、 泣きはらした。 私の届かない片思いは 両想いになったけれど 遅すぎた。 朝日がさしこんだ。 朝起きれば、真白いドレスと顔隠しのためのレースが置かれていた。 陛下からの手紙と共に。 それを着て謁見の間に来なさい、と。 朝日の差し込む謁見の間には陛下と神官長と10人の神官がいた。 私はレースを上げて顔を見せた。 神官長は息をのんで、 神官とともには私に深々と頭を下げた。 「・・・おかえりなさいませ、巫女長アーニャ様」 「三年も身を眩ませて申し訳ありませんでした」 その時だった。 大扉が開いた。 「お兄様!!ここに巫女長様がいらっしゃって・・・」 「ナナリー王女、駄目だって!!!・・・あ・・」 ジノが車椅子を走らせてきたナナリーと一緒に入ってきた。 「ナナリー!!ジノも出ていくんだ!!!」 「あ・・はい!!・・ナナリー王女・・、巫女長様がおられます。  顔を見てはいけないから・・出ていかないと!」 どうやら彼からは死角になって私の顔は見えなかったらしい。 「騎士よ、王女様を連れて早く出て行け」 「あ・・はい。ナナリー王女!」 「・・・私には見えません」 そう言って彼女は背をむけている私に近づいてきた。 「ナナリー王女!」 「ナナリー!!」 「王女とて王と同列である巫女長様のお顔を見るなど・・」 「私には目が見えません!」 彼女は私の前へ来た。 私は振り向く。 レースのおかげで顔は見えない。 その時ふわりと風が吹いた。 朝の匂いだった。 しかし彼女は顔を蒼白にさせていった。 「そういう・・こと・・だったんですか」 ほろりと大粒の涙が彼女から零れた。 「王女様、これ以上長に近づかれるのは」 「・・・もうやめて」 私が限界だった。 彼女は匂いに敏感だった。 先程の風で気づいたのだろう。 レースをとった。 涙の浮かんだ瞳が彼女の姿と 目を見開いた彼の姿を映した。 「・・アーニャ」 「貴様!巫女長様を呼び捨てなど・・・ッ」 「・・・もういい。貴方は何も言わないで」 白い手袋が彼女の小さな手を包みこんだ。 「・・ごめん、ナナリー」 「アーニャさん・・」 「嘘ついて・・・」 彼女は首を振った。 「私こそ・・本当は・・貴方を追い詰めるようなこと・・」 「ううん・・・もう・・決めていたから・・」 彼女の額にキスをした。 その手を優しく解く。 気づけば、彼女の後ろにジノがいた。 「・・アーニャ」 「ジノ・・・」 一生懸命背伸びをした。 一瞬だけ、一瞬だけ 口付けた。 「わたしを しあわせにしてくれて ありがとう」 「ジノがいたから せかいはきれいで」 「ひとはやさしいってしれた」 「・・あいしてくれてありがとう」 「ずっとあいしてあげられなくて ごめんね」 そのまま彼の隣を通り過ぎた。 彼は動けず、そこにいた。 大きな謁見の間を、ゆっくり歩く。 ふわりと口ずさむ。 あの時よく歌っていた歌。 昔の巫女の言葉だから意味は知らなかった。 でも知ったの。 あなたとわかれた後。 あれは恋の歌だった。 届かない恋をする巫女の恋の歌。 「アーニャッ!!!」 振り返った。 あの蒼い目が私を見つめている。 もう怖くなんてない。 「待ってるから!!絶対・・帰ってこい!」 無言で頷いた。涙だけが零れていった。 純白を濡らしていった。 5日後やせ細った少女が神殿から出てきた。 その少女は神と崇められた。 飢饉は来なかった。 少女はやせ細った身体を騎士に折れそうなくらい抱きしめられた。 想いと祈りが力になる世界。 皆が幸せになれる仮想の世界。