(ジノ先輩って言わせたかっただけ作品) ひとはひとであるために ひとであることをたもつそうだ homeostasis 眠い。そうだ。勉強というものはこういうものだった。 窓際の席で俺は欠伸を噛みしめた。 今は生物の授業で、教師は前で黒板に人体の絵を描いている。 この授業は面白いぐらいわかった。 皮肉にも。 そうだよ、先生。その下には肝臓があるんだ。 十二指腸も、大腸も、小腸も、 もっと上には胃とか、肺が二つ。 知ってるよ、先生。 大動脈は切ると死ぬって事ぐらい。 中身を生でみたことだってあるぜ? 軍人だからさ。 ただ一つ、面白い事がわかった。 人には恒常を保つ能力があるそうだ。 体温を一定に保つ能力。 心臓を動かし続ける能力。 呼吸をする能力。 ひとがひととしてあるために そうしなくてはいけないちから。 俺はきっとこの手でそれを奪ってきた。 だからひとは壊れていくんだろう。 命という形のない何かが消えていくんだろう。 そんな事を思っているとグランドから声が聞こえた。 中等部が体育をグランドでやっている。 あの運動嫌いの彼女が、 サッカーゴールでつったっていた。 中等部の体操服に身をつつんだ彼女は年相応の少女で なんだか自分たちの身分も何もかも忘れそうだった。 くすりと笑うと視線があった。 こっそりと手を振る。 彼女も小さく手を振った。 君の恒常性はどうしたら崩れるの? あの無関心そうな瞳をどうしたら俺に向けれる? あの端的な言葉を紡ぐ唇をどうしたら俺のと重ねることができる? あの薄紅色の頬をどうしたら真っ赤にできる? そんなことを考えていたら、生物教師に名指しされて 「年下趣味かい?」 とからかわれて、クラスで爆笑をかってしまった。 俺はロリコンじゃない。 アーニャ限定だ。 昼休み。 いつものように屋上行くと、 アーニャが風を受け、髪を靡かせながら 下を見ていた。 ・・・なんとも扇情的な光景。 「アーニャ」 ふわりと振りかえる。 「パンツ見えてる」 一気にすごい形相で迫り来て、 振り上げた手の手首をキャッチ。 「最低」 「白のレースとは!俺の好みを分かってる。  さすがアールストレイムさん!」 そう微笑んで、見下げた。 勿論黒い笑いだ。 だが。 ガンッ!!!! 「うううううううううう」 「・・・おかえし」 お行儀の悪いお嬢様は 俺の股間を思いっきり蹴りあげた。 ・・・不能になったらどうしてくれる。 っていうかまた見えてる。 俺は激痛にしゃがみこんだ。 唸った後そのまま黙り込んだ。 アーニャは知らんふりしていたが 俺をちらちら見ていることくらい知っている。 暫くそうしてると。 「・・・ごめん、大丈夫・・・?」 そう言って少し心配そうにしゃがんだアーニャの 手首を掴んで 「ジノ」 顔を近づけて 「え」 恒常性が崩れたのは俺の方だった。 アーニャの唇は 彼女の傍に置かれたいちごみるくのパックと 同じ味がした。 「あま・・」 唇を離してそう言った。 なんてこった、彼女は止まってしまった。 ああ、彼女まで崩れたらしいよ、恒常性。 面白いくらい薄紅色の頬が真っ赤。 俺は面白いくらい心臓が動悸。 彼女も少し息切れ。 あ、それは俺が舌入れたせいか。 「ど・・・し・・て・・・」 「すきだから」 「う・・そつ・・き」 「好きだから我慢できなかったの」 やんわりと震える右手を包み込む。 「ね、アーニャ」 耳元に囁こうか。 「男は好きな女の子苛めるの大好きなのはな・・・」 「女の子の恥ずかしがった顔にたまらなく欲情するからなんだってさ」 そのままかぷりと耳に噛みつけば 染まった耳まで震えた。 「ジノは・・・」 「ん」 「わたしのこと、すきなの?」 「うん」 「なんで?」 「わかんないけど、好きだから仕方ないだろ」 「としうえしゅみじゃないの?」 「わかんないけど、アーニャが好きなんだよ」 ああしつこいなぁ。 そうだ俺は年上趣味だ。 更にいうと巨乳趣味だ。 今まで付き合った女は皆年上だったし。 それなりに心も体も満足してきたし、させてきたけど。 年下に興味を持ったのは初めてだ。 しかも同僚に。 しかもぺったんこの胸に実は今欲情してる。 ・・・変態かもしれない、俺。 ただ一つわかるのは、まだ不能ではないということだけ。 ああ、もしかしたら恋したら崩れるのかもな 恒常性 なら恋したら死んじゃうのか いやあながち間違ってないかも それ 今俺も彼女も確実に保たれている 恒常性 だって死んでないし 俺も彼女も掻っ捌いたら中から 肝臓と腎臓と腸と肺と胃とか同じものがいろいろ出てくるだろう。 ああ、精巣と卵巣は別だけどな。 オスとメスが違うってだけのただのヒト まだ生きるってい恒常は続いてる でも確実に今ある一つの恒常は崩れた いや崩した 関係性という恒常 やんわりと唇に触れたのはアーニャの指先。 意外だ。 てっきりビンタでも喰らうかなーとぼんやり考えてたのに。 「わたしは」 「ジノ先輩のこと すき」 だから言ったろ。 恥ずかしがる顔に欲情するって。 ああ、そんなに食われたいのかそうか。 俺達ここに昼飯食いにきたんじゃなかったけ。 ああ、いいやもうとりあえず セカンドキスも 血液も リンパ液も 組織液も いちごミルク味にしちゃって