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しとしとと静かに降り出した雪は 静かに積もっていて 温かな暖炉の灯りは灯っていて どこの家も温かい笑い声と おいしそうな匂い 今日は聖なる夜 "Merry Christmas" in the battlefield 大きなもみの木。 派手に飾りつけられている。 小さな居間なのに。 彼は毎年これをやる。 結婚した年からずっと。 ううん。違う。 結婚するずっとずっと前から。 クリスマスになると 一番最初に飾り付けを率先した。 絶対最初に一番上の星をつけた 大人げない男だった。 そんな彼は今 そんな笑顔の彼は今 この世界のどこかで 命を奪っているのだろうか あの泣き顔を心に秘めて 誰かの命を奪っているのだろうか あの輝いた笑顔で そんなことを考えながらローストビーフを作っていた。 温かなシチューもできた。 パンも焼いている。 昔に比べたら贅沢はできないけれど、 ブリタニア人の中では裕福な方だと思う。 ふわりとエプロンを引っ張られた。 振り向けば小さな金髪に紅の眼差し。 「なに?」 見上げてくる視線。 小さな手に掴まれた白いエプロン。 「・・・とうさんは?」 「・・・今年は二人だけ」 「どうして」 「お仕事だから」 「・・・・うん」 そう言って小さな息子は居間に戻った。 彼は3年前スザクは言ったような子になってしまった。 『ジノによく似たアーニャみたいな子』 本当にその通りだった。 聞きわけのよい、おとなしい少年。 でもあの父親が大好きなようで、 笑った顔が彼とよく似ていた。 彼は仕事だった。 今頃は日本で仕事をしている。 もう彼は黒の騎士団・・いや合衆国日本下の ブリタニア軍の兵士だった。 彼は元ナイトオブスリーだけあって 人の使い方もわかっていたし、 ナイトメアの扱いは素晴らしかった。 その腕を買われて、今の生活と引き換えに ブリタニアを滅ぼしたゼロ・・・と契約した。 彼は何も言わずに笑っていたが、本当は知っている。 元ラウンズのような彼がどのような扱いをうけたかを。 日本人には同胞を殺されたと恨まれた。 ブリタニア人には裏切り者と罵られた。 結局あの頃のスザクと同じになってしまった。 だけど、彼はなにも言わずに笑っていた。 その実力で今の高い地位も手に入れた。 本当はつらいと思う。 名家育ちの彼がこんな生活をするのは。 でも彼は笑う。 彼が泣けないから私が静かに泣く。 私が泣いたら、彼は慰めようとおろおろする。 『どうして泣くんだ?』 そう聞くから 『ジノが泣かないから』 そう言うの。 そしたらいつも彼は悲しげに笑って ありがとう そう言って そして、やっと私の胸に顔を埋めて静かに泣くのだ。 私と二人っきりの時だけ。 パリッとしたサラダ できあがったローストビーフ 焼いたフランスパン とろとろのシチュー 「できた」 そういうとテレビを見ていた我が子は食卓につく。 私もエプロンを外して、席につく。 いざ食べだそうとした時だった。 息子は窓を見た。 「・・・とうさんはどこにいるの」 「日本」 「にほんはゆきがふってるの?」 「・・きっと。日本も冬だから」 「とうさんはひとりのくりすます」 「・・・そう」 揺れた紅い瞳から涙がうっすら零れた。 「とうさんがいないくりすますなんていやだ」 聞きわけのよい彼が久しぶりに我儘を言った。 「・・・そうね」 「かあさんはさみしくないの?」 「・・私・・?」 少し驚いて、目を見開く。 「・・かあさんはとうさんのこと、すき?」 「どうして?」 「とうさんはかあさんのこと、すき。  でもかあさんはとうさんのことすきか、  わからない」 ぐしゃりと顔を歪めて泣きだした。 そうか、感情の変化の乏しい自分はそんな風に見えていたのか。 「おいで」 優しく呼ぶと彼は小さく頷いて 席を立ち、向い側の私の席に来た。 私はその小さな体を持ち上げて 膝の上に乗っけた。 「お前は父さんが好き?」 金髪が縦に揺れた。 「かあさんは・・?」 「・・・内緒、父さんには」 そうやって唇に人差し指をたてると また縦に揺れた。 「だいすき」 そう微笑みながら、小さな瞳から流れる滴を拭いてやる。 彼はきょとんとして座っていて。 そして。 「どうしてないしょなの?」 「調子に乗るから」 そう言うとくすくす笑いだしたので 二人で笑った。 「昔」 「一度だけ、父さんと二人だけで」 「クリスマスの夜を過ごしたの」 「戦場で」 「・・・かあさんととうさんが?」 「そう」 「せんそうにまきこまれたの?」 「・・・・・いつか・・話してあげる」 優しく金色を撫でた。 擽ったさそうに笑う。 「雪が降って」 「温かい食事もなくて」 「死体と壊れた機械と血と」 「そんなところで」 「『二人っきりのクリスマスは初めてだな』って」 「・・・思わず笑った、私も」 戦場だったから灯りが漏れないようにして 天然の洞窟で火を焚いて おいしくもない携帯食糧を食べながら 彼は持っていた大型ライフルをツリーに見立てていた。 寒さをしのぐ為に肌を寄せ合った。 私達には何もなかったけど  幸せだった  あの頃 がむしゃらに生きていた  あの頃 「本当は泣きたいの」 「・・?」 「でも泣き方を知らない人だから」 「だから傍にいなきゃって・・・思う」 ほとりと涙が零れたのは自分だった。 拭った左手には あの日あの教会で誓った指輪。 無性にあの笑顔が見たくなった。 心配そうに小さな我が子が覗き込んでいる。 涙を拭い、彼をもう一度撫でると。 「・・シチューが冷めるから。  食べよう」 「・・・うん」 我が子をそう促した時だった。 ドアの鍵がカチャリと鳴って、 ベルがチリンとなった。 息子は一気に顔を綻ばせて走り出す。 私は信じられずにその後を歩く。 玄関で息子は大きな足に抱きついていた。 その息子の頭の上には大きな左手。 同じ銀が光っていた。 「ただいま」 そうやって笑う いつもいつも笑う だから私も少しだけ笑える 「おかえりなさい」 雪に濡れたコートと手袋を受け取ると 小さな息子がそれを奪って居間へ向かう。 コートの裾が引きずられている。 どうやら暖炉の前にかけてくれるよう。 ・・・もっとも彼の身長じゃ届かないだろうが。 小さな後ろ姿を見ていると ふわりと背中を抱きしめられた。 「・・・・なに?」 「泣いてた?」 「・・どうして」 「目、赤いから」 腕を抱きしめる力が強くなる。 居間からは息子がコートをかけるのに苦戦する声。 そういえば彼に会うのは1ヵ月ぶり。 「なぁ、アーニャ」 「なに」 「俺、今すごく幸せ」 暖炉の温かさ 温かい食事のいい匂い 大きなクリスマスツリー 小さな家 豪華なコースなんてない 綺麗な夜景なんてない お金もそんなに多くない もう二人には地位も名誉もない だけど 「わたしもしあわせ」 あの頃  がむしゃらに生きたあの頃 あの日肌を寄せ合ったのとは 違う温かさがあるの アールストレイム卿も ヴァインベルグ卿も もういないけれど けれど ただの ジノとアーニャでいいよね ただの 男と 女でいいよね ただの 夫と 妻でいいよね 小さな息子が戻ってくる前にこっそりキスをした。 塩辛かった。 しあわせのあじだった