誰か私達を サバイテ Minerva 操縦幹を握る手は ただただ静か。 地上戦というものをやるのは、なんだか久し振りだった。 「アーニャ」 通信で名前を呼ばれる。 画面には見知った金髪。 「何?」 「出てきたぞ。まわりこめ。俺が前から行く」 「わかった」 指示通りにモルドレッドを動かそうとすれば 通信が切れてなかったらしい。 ただただ一言。 「アーニャ」 「怪我するなよ?」 私はじろりと画面ごしの彼を睨んだ。 「するわけない」 「・・わかってるけどさ」 「弱くはない」 「知ってるよ。でも心配なんだから仕方ないだろ」 ぷぅと子供のように頬を膨らました、姿に なんだか可愛くて少しだけ笑みがこぼれた。 「ジノ」 「ん?」 「怪我、しちゃ、やだ」 「『するわけない』だろ?」 私もくすりと笑って。 「行くぞ」 「うん」 私達の視線は柔らかいものから 修羅の目にかわるのだ。 火がくすぶる戦場。 死体・重傷者・軽傷者。 敵・味方。 私達はただマントを翻し、 森だったそこを眺めていた。 「アーニャ、派手にやったな」 「別に。命令は殲滅。森一つくらい」 「あのなー!今は地球温暖化っていってな!  木が無くなるとあったかくなるんだぞ!」 「どうして?」 「それは・・・えーっと・・なんだっけ・・」 晴れていた空はくすぶり、 やがて雨が降り出した。 煙は消えていく。 もうすぐ捕虜の連行が始まる。 「アーニャ、基地に帰るぞ」 雨が降り出したので、戻ろうと言うジノをよそに 私はただ、空を見つめていた。 ひとつ、くるり ふたつ、くるり みっつ、くるり 頬を雨水が撫ぜる。 髪を雨水が撫ぜる。 戦闘後の熱気を洗い流してく。 目に見えない血も。 私達は心に返り血を浴びている。 何十人という人間の。 私達は掌の動作一つで人を殺すのだ。 それが、不思議で。 それに罪悪感を感じれない自分が、不思議で。 哀れだと思った。 「アーニャ?」 「ジノ」 濡れた指先がジノの指を掴む。 冷え切ったそれに熱が灯る。 「踊って?」 「は?」 私はぼんやりと大きな手をとって、 まわった。 ジノはただされるままになっていた。 不思議そうな顔をしながら。 帝国最強騎士が二人、 雨の中そのマントを揺らしながらくるくる回る姿は さぞかし奇怪な姿だったろう。 でも それでも 「私ね」 「ん?」 「酷い人間だと思う」 「私達」 「そうだな」 「だから、きっと」 「誰かを殺すことに罪悪感を持てなくなった私達を憐れんで」 「そんな私達に殺された人間を憐れんで」 「きっと神様が泣いてる」 「だから、お礼に踊ってあげたの」 「ありがとう、って」 赤い瞳で 蒼い瞳を見つめた。 ジノはなんとも言えない複雑そうな笑みを浮かべた後。 「そうだな」 「うん」 「俺達って、悲しいよな」 「うん」 「でも、俺は」 「アーニャが死なないなら誰が死んだっていいやって思ってる。  アーニャよりもずっとずっと最低だな」 ぐしゃりと濡れた髪を撫ぜられて、 私はくすぐったさと冷たさに目を瞑った。 「私もジノが生きてたからいいって思った」 「俺達最低だな」 「うん」 「でも、それでもいいよな」 「それでもいい。それがいい」 博愛主義なんて欲しくはない。 ただただ、ここにあるのは寂しい感情が二つでいい。 自分の壊れる音が反響していく。 鼓膜を鳴らしていく。 愛もいらない。 恋も欲しくない。 ただ熱を奪う雨粒は 二人を断罪していくのだろうか。