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My favorite things 無機質な扉についたベルを鳴らせば、はい、という言葉と共にそれが開いた。 彼女は私服で大人っぽいブラウスとロングスカートを着ていた。 「あら、アーニャ。どうしたの?」 「・・・モニカ、借りてた本・・・・」 「ああ、わざわざ有難う。・・今、ちょうどお茶を淹れたの。飲んでいかない?」 「・・・いいの?」 「ええ、勿論」 彼女は優しく微笑んで、私を部屋に入れた。 彼女の部屋はいつも綺麗。清潔であるのは勿論だけれど、 調度品も豪華すぎず、かといって、シンプルすぎず、可愛らしいものや綺麗なものがたくさんあって好き。 花柄のカバーがついたソファーに腰掛けるよう言われて、私は座った。 彼女はキッチンへお茶を淹れにいく。ソファーの前のテーブルには書きかけの書類と彼女愛用の万年筆。 借りていた本をことりとテーブルに置いて、ソファーに身を埋めた。 そして、ふと、気づく。鼓膜を擽る温かい音楽。 彼女の部屋のコンポから流れるピアノの音。知らない曲。 ふと耳を澄ませて聞いてみると、可愛らしいメロディー・・。 「気に入った?その曲」 視線を声へ向ければモニカがティーカップとポットと、 お菓子のチョコレートの皿ののせたトレイをテーブルに運んできた。 それをテーブルに置いて、書類を片づけていく。 私はさっきの彼女の質問にこくりと頷いて、問いかける。 「・・・クラシック?」 「ううん。ジャズ」 「・・・ジャズ」 「そう」 私は音楽には詳しくない。でもこの曲はなんだか気に入った。 どこか悲しくて、でも可愛らしくて、何かに似ている気がする。 「モニカはこの曲すき?」 「私・・・?」 モニカは何故か驚いたように私を見て、そして微笑んだ。 「・・・すきよ。・・アーニャは?」 「わたしも・・・すき」 ぎこちなく微笑んだ。 二人で温かいアップルティーを飲む。 溶けていく甘い甘いチョコレート。 とりとめもない話をする。彼女との会話は好きだ。 例えばそれはとある吸血男への批判であったり、 金髪の三つ編み男の馬鹿な行動の話であったり。 仕事の話もあるけれど、どこか温かくなるのだ。 「そういえば・・その本どうだった?アーニャ」 彼女は興味深そうに私を見つめて、細い指先を口元の前で合わせた。 私は彼女によく本を借りる。 それは戦地における戦略を明記した本であったり、流行りの雑学本であったり。 でも彼女が一番好きなジャンルは一つだ。それが・・・恋愛もの。 やはり年頃の女の人はそういうものであるのだろうか (まぁ、ある意味私も年頃の女に分類されるのであろうが)。 軍というある意味閉鎖的な空間で、ましてや自分より年上の男を 部下にもったりするような立場の私達は恋なんてしにくい。 だから、せめて本の中でだけでも甘い恋がしてみたい。 というのが可愛らしい乙女心を持った彼女の意見だ(私は興味ないけど)。 彼女は好んで恋愛ものの小説を私に貸してくる。 ちなみに、ノネットに一度貸そうとしたら、 『もう・・そんな若い時代には戻れないんだ』 と随分悲しげに言われたらしい (彼女の恋愛遍歴は気になる、とモニカが言っていた)。 以後彼女には貸そうとはできなくなったらしく、その代わりが私。 私も本を読むのは嫌いじゃないので、彼女に借りた本を読む。 ・・・でも読めば読むほどわからない。 愛とか恋とか・・よくわからない。だから私はいつもこう答える。 「わからない」 「そっか・・・・」 「・・・ごめん」 「ううん。いいの、私が勝手に貸して、感想を聞いてるだけだから。・・ごめんね。迷惑?」 心配そうにそう聞かれて、私は首を振った。実際読むのは嫌いじゃないから。 「・・嫌じゃない。でも、わからない。すきとか・・愛とか・・恋とか・・」 「アーニャは・・誰かをすきになったことはないの?」 「・・・え・・?」 モニカが綺麗な顔を傾かせ、聞いてくる。好きになる。つまりは誰か男の人に恋をするということ。 「・・・多分、ない」 「じゃあ・気になる人は・・?」 「気になる・・・?」 よくわからなくて訊き返せば、彼女は少し考えて言う。 「傍にいたいと思ったり、話してると心が温かくなったり・・手が触れただけでどきどきするような男の人」 「・・・・そんな人・・いない・・」 そういえば彼女は少し残念そうに笑って。 「じゃあ、アーニャにそんな人ができたら教えてね」 「・・・わかった」 その後もいろんな話をして、部屋に戻る時、モニカはさっきの曲のデータの入ったメモリをくれた。 「あなたの、大好きなもの、見つけてね?」 「・・・・?」 「きっと、アーニャの大好きなものをいっぱい持ってる人がアーニャが好きな人よ。 お金や物じゃなくて、もっともっと大切なもの」 「・・・・わかった。探してみる」 そう言って彼女は笑って、頑張って、と言った。 (最初2ページくらいです)