どこか薄暗く靄のかかった世界で。 ひたひた歩いてる。 ちゃんとラウンズの制服を着ている。 だけど、足だけ裸足。 ポケットを探っても携帯はない。 落ち着かない。 「アーニャ」 ああ、ジノだ。 いつもみたいに背中に抱きついてきた。 「ジノ、重い」 ここで彼はいつも 『いいだろー!』 とか言うのだが無言。 次の瞬間首筋に生暖かい温度。 そして背中が冷たくなって、だんだん彼が重くなる。 「…ジノ?」 不思議に思って、振り向くと、 血だらけのジノが私の背中で死んでいた。 「…はぁっ……はぁっ」 夢だった。 そこはいつもの私の部屋で時間は午前2時を差していた。 どうしたらいいかわからなくて、とりあえず枕を抱きしめた。 「・・・はぁ・・はぁ・・」 息が荒い。 無性に怖い。 わかっている。 ジノは今頃部屋で寝てる。 部屋に行ったら迷惑なのもわかる。 (日頃ジノの方に迷惑かけられているけど) ともかく一人でこの部屋に居たくなかった。 何故こんな夢をみたのかも分からなかったけど。 そして何故ジノだったのかも分からないけど。 落ち着かなくて、ざわざわ。 不安で、変。 このポーズを3分はしてる。 ジノの部屋の前でノックしようかという体勢で固まってしまった。 私らしくない。 こんなの。 馬鹿。 夢見が悪かったからって・・子供みたいで苛々する。 こんなとこ見られたら、絶対笑う。 枕握って、寝巻で・・。 ラウンズだから しっかりしないと 歳なんて関係ない ラウンズなんだから 帰ろう。 自室で窓を開けて風にあたったら・・・。 溜息をついて、扉に背を向けて。 「あれ、アーニャ?」 ビクリと肩が震えた。 振り向くとジノが扉を開けて出てきた。 ラフな格好で髪も一つに無造作にくくられてる。 「こんな時間にどうした?」 「・・別に」 目線を下に向けた。 「なんか用があるんだろ?」 「・・なんにもない。通っただけ」 「・・にしては結構扉の前に長くいたよな?」 「・・・」 ラウンズだって、軍人。 人の気配には敏感。 「・・枕?」 「・・・帰る」 「あー、ちょっと待てって。  ほら入れよ。寒いだろ」 「・・・いい」 「ホットミルク入れてやるから。ほら」 「・・いい。おやすみ」 「こら!」 ジノに引っ張られて、部屋に入った。 そういえばジノの部屋には入った事なかった。 結構きれい。 物がごちゃごちゃしてるかと思ったけど、少なかった。 「てきとーに座っとけ」 「・・・」 二人掛けの小さなソファーに腰を下ろした。 枕を抱きしめて、寒さを紛らわすように膝を抱く。 ジノはキッチンでミルクを温めてる。 鍋に火をかけると、戻ってきた。 「ほら、寒いからこれ着とけ」 ジノのラウンズの制服の上着を頭からかけられた。 同時に下ろしている髪の上から頭をぐりぐり撫でられる。 上着からはジノのお気に入りの香水のいいにおい。 ジノのにおい。 ジノが顔を覗き込んできた。 なんだか不安そうだった。 「・・どうした、アーニャ?」 「・・・なんでもない」 「眠れない?」 「・・・」 言うのがいやで目線を逸らして、首を横にふる。 「・・・」 「・・・怖い夢でも見たか?」 ここで言ったら笑われるから。 目線だけ合わせた。 「・・あたり、だな?」 でもバレた。 恥ずかしい。 笑われる。 下を向いて目線を逸らす。 鼻がツンとする。 あ・・ 「おっ・・オイ!」 ジノがあたふたしてる。 我慢してたのに、ポトリと目から落ちた。 「そんなに怖かったのか?」 くしゃりと頭を撫でられた。 首を横にふる。 「・・俺が馬鹿にすると思った?」 頷けば、苦笑いされた。 「そんなことするわけないだろ」 ジノのおっきな手で頬っぺたを包まれた。 あったかい。 涙を長い指で掬われた。 「あ」 ホットミルクのいいにおい。 「入れてくるから。砂糖いるよな?」 頷けば、また頭をぐしゃっとされる。 頭をぐしゃぐしゃされるのは嫌い。 でもジノにぐしゃぐしゃされるのは嫌じゃない。 角砂糖一つ入れたホットミルクのカップを渡された。 ジノはホットワインのカップ。 「そっちもいいにおい」 「飲む?・・アルコール入ってるけど」 ジノのカップをもらって少し飲んだ。 少しはアルコールが飛んでるけど、 ちょっと苦い。 顔をしかめると笑われる。 ・・なんかむかつく。 「お前はこっち」 ホットミルクを渡されて、飲む。 あったかい。 あまい、あまい、あまい。 「で、どんな夢みたんだよ」 隣に腰を下ろしたジノがこっちを見てくる。 「・・・死んじゃう夢・・ジノが」 「・・・・・」 「背中にもたれて、血だらけで・・・重かった」 「アーニャの背中に?」 頷くと、なんだか少し笑われた。 また笑った。 でも馬鹿にしてるんじゃないみたいだった。 「重かったって・・。っつーか背中より腹上死のほうがいいなぁ・・」 「腹上死・・?お腹の上で死んじゃったら、私潰れる」 「・・いや、そういう意味じゃなくて。  あー、アーニャにはまだこの手の話は・・・」 よくわからない。 お腹の上の方が背中よりいいの? 「あー・・ん・・アーニャ」 「・・・?」 急にジノが真面目な顔になった。 「俺は、ここにいるから」 「・・知ってる」 「死なないとは言えないけど」 「・・・」 「まぁ、死にそうになったらアーニャだって助けてくれるだろ?」 「・・・さぁ?」 「『・・・さぁ?』って・・はぁ・・」 落ち込んだジノが少し面白かった。 「あ」 「・・何?」 「アーニャ、笑ったよな、今!」 「・・・」 「お前笑ってろよ、可愛いから!」 ぎゅっと抱きしめられて頭をまたぐしゃぐしゃ。 「俺はアーニャが死にそうになったら即助けに行くから!!」 「・・・・ありがと」 「で、俺は?」 笑いながら聞いてくる。 さっきより腕の力が強くなる。 「・・たすける」 「サンキュー、アーニャ」 ジノのにおいがする。 なんだか眠くなってきた。 「アーニャ、眠い?」 気づいたジノの言葉に頷く。 「部屋送る。アーニャ、部屋戻れ」 「・・・いい」 「アーニャ?」 「・・・ここで寝る」 「・・・アーニャ」 「・・・・眠たい」 枕もあるしちょうどいい。 ジノの寝室のベッドに潜りこんだ。 「アーニャ、戻れって」 「・・眠い、ジノ、しつこい」 「あのな、アーニャ」 「ジノはここ」 ベッドの端によって、 ちゃんとジノが寝れるだけのスペースを開けた。 「電気つけてると寝れない」 「あー!もう、俺知らねぇからな、どうなっても!」 「・・・どうなっても?何が?」 「だから、アーニャな。アーニャは女の子でだな」 「ジノうるさい」 「・・はぁ。もういい。俺は知らないからな」 ぶつぶついいながら、ジノは戸じまりと火の確認と 電気を消してベッドに入ってきた。 「アーニャ」 「ジノうるさい」 「あのなぁ・・・・おやすみ」 「・・・おやすみ」 ジノがまたぎゅっと抱きしめてきた。 「寝ろよ」 額と瞼にキスされる。 どんどん意識が堕ちていく。 あまいホットミルクのにおいと ジノの大きな胸板のジノのいいにおいに。 耳をあてると心臓の音がした。 きっとこれからも私もジノも この音をいくつもいくつも消していく 今までも これからも 悪夢にのって NIGHTMARE (・・スザク) (ん?何、アーニャ) (腹上死って・・何?) (・・・それ、ジノが言った?) (・・・) (そうか、アーニャ。  アーニャは知らなくていいんだよ。  ジノには僕が怒っておくから。  そうそうジノに気をつけるんだよ) (どうして?) (ジノ、変態だから)