昔々あるところに。 once long time ago... 彼女を初めてみたときにはっとした。 彼女の目は常に全てを見ていて、 それでいて何も見ていなかったからだ。 「初めまして」 「ああ」 シャルルの妻の中で唯一私達と共に 計画を遂行する仲間になった女は 私以上に魔女であった。 否、彼女は勿論魔法がつかえたわけではない。 彼女は悪女というものに相応しかった。 否、彼女は大量虐殺をしたわけではない。 民から大量の税を徴収して、欲を満たす人間でもなかった。 彼女は聡明で、美しく、それでいて、強欲であった。 それは物欲ではない。 支配欲でもない。 全てから逸脱した欲であった。 VVは彼女を嫌った。 彼女は彼からシャルルを奪った女だったからだ。 シャルルは間違いなく彼女を愛していた。 彼女も勿論彼を愛していた。 二人は愛し合っていた。 愛し合っていた、お互いの お互いの欲を。 それは性欲であり それは物欲であり それは支配欲であり それは背徳から生じる欲であり 愛していた。だからこそ二人は 二人を見ていなかったし きっと誰も見ていなかった。 そんな二人に子供が生まれた。 彼女は偽りの母性を注いだ。 その半分は真実の愛でできていて その半分は欲望の色をした悲しい色をしていた。 彼女の悪女っぷりを私は愛していた。 彼女は愛される存在で いつくしまれる存在で でも愛情を注いだ分だけ 違う欲を要求する人間であった。 私はどこかで 彼女になりたかった。 それは物欲でも 性欲でも 俗世にあるものでもなんでもない。 彼女の美貌がほしかったわけでもない。 彼女の聡明さや技術がほしかったわけじゃない。 彼女みたいに割り切れた人間になれたら 彼女みたいに冷酷さを持てたら 私はやはり何も変わってはいなかったのだ。 何かがほしくて手を伸ばして それを撫ぜて終わるだけのものだったのだ。 私は魔女と呼ばれた。 でも魔女にはなれなかった魔女であった。 そんな私を魔女にしてくれた男は 皮肉にもその女の息子であった。 それは、残酷さなんかじゃない。 それは、優しさなんかじゃない。 冷たくもなく温かくもなく 指先をすり抜けていくような感覚であり。 彼はそういう男であった。 彼は彼女とは違っていた。 優しい。 優しい。 だからこそ誰よりも冷徹になれる。 優しさのために冷徹になれる。 限りなくマリアンヌに似ていると いつか思い そして、それはすぐに消えた感情だった。 彼はただただ若く 彼はただただ悲しく 彼はただただ翻弄されていただけ。 見抜くのは昔から得意だった。 奴隷時代に ずっと主人の顔色をうかがって生きてきたのだから。 裏切られ 救われ 私は 憎んでいるのか それとも感謝しているのか 結局彼は私に教えてくれなかったけれども 私は彼を愛し、感謝している。 神様どうか 私を救ってくれなかった神様 どうか 優しく冷徹な彼が 安らかに剣で貫かれますように 限りなく苦しくなく 限りなく痛みを少なく 安らかに罰せられますように そして 天国では真実の母の愛をお与えください