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未だ目覚めぬ眠り姫 もう夢は終わったのに 華蜀(かしょく)はもはや吹き消された 果たして本当に目覚めていないのはどちらなのか 私は血を流す 眠る茨の姫を抱きしめて −Sleeping Beauty− 片翼のマリアは紅い涙を流している (※オリキャラ、捏造多数あり。1〜2pずつほど抜粋してます) Chapter1  After four years the prologue begins.   (四年後序幕は開ける) Chapter2 Reunion (再会) Chapter3 Maria having half wings (片翼のマリア) Chapter4 White rose (白い薔薇) Chapter5 Lament (嘆き) Chapter1 ぼんやりと空を見つめた。 相変わらず空は青い。 世界は淡々と変化を繰り返すのに、空の色はいつも同じだ。 晴れ渡る青い空、曇る灰色の空、朱色が美しい茜空。 三色を無限に変化させながらも普遍性を保ち続けるのだ。 その虚空へゆっくりと白い煙が一本昇っていく。 (同時に俺の口内には依存性物質と発癌性物質が吸い込まれていく) 一体先はどこまで昇るのだろうか。 先端を見つめていたが、それは宙に溶けていった。 空に住んでいる亡くした人々に届く、なんてセンチメンタルな事を言うわけじゃないが、なんだかそんなことを考えてしまった。 白い息を吐き出して、携帯灰皿に煙草の先を押し付けた。 昔は乳母に「煙草なぞ、体を悪くしますので吸ってはなりませんよ」と 耳に胼胝ができるくらい言われたのに、今じゃヘビースモーカーだ。 (天に召された乳母にはあの世に行った時に謝らないと) 煙草を吸いだしたのはちょうどカレンと別れる少し前だっただろうか。 ああ、別れた後にいっきに本数が増えたんだっけ。 そういやあの時、リヴァルに「失恋くらい誰にだってあるさ」と励ましてもらったが、なんだか胸にぽっかりと穴が空いていた。 (そういうリヴァルはミレイと付き合ってもう三年以上経つのに) 神聖・・・いいや、『新生』ブリタニアの首都ネオウェルズの一等地のマンションの十二階のベランダ。 階下に見えるのは流れていく車の群れ。 赤、黒、白・・。流れていく人々。 その風景を背にして、ベランダから部屋に入れば、閑散とした部屋。 真新しいキッチン。干枯らびる寸前の観賞植物。 四年前までワイシャツにアイロンをかけることさえ出来なかったのに。 ハンガーに吊されたノリの掛かったワイシャツが時の早さと変化を物語ってくれた。 革のソファーに腰を下ろす。ぎしりと重さを吸収して。 ガラス製の透明なテーブルに置かれた数枚の書類。並べられた文字に目を通す。 それはこの三年程抱え続けている悩みの種だった。 暴君ルルーシュがゼロに殺されたあの日から四年の月日が流れた。 新しいブリタニア、新しい日本・・新しい世界ができた。 皆新しい世界に喜んだ。暴君ルルーシュの死を喜んだ。 だけど、真実を知っている者は違う。彼がゼロに殺された瞬間俺達は理解した。 彼は全てを背負って、世界を創造するために、 自ら暴君となり死することで民の調和を得ようとしたのだと。 本当は・・誰より優しい王だったのだと。でもそれを知っているのは・・一部の人間だ。 いいや、それでいい。一部の人間のみがそれを知っていればいいのだ。 なぜなら彼は優しい王だったが、たくさんの者を裏切り殺したという事実に変わりはないのだから。   貴族制の崩壊によって、名門貴族ヴァインベルグ家も貴族ではなくなった。 ルルーシュの死後、ブリタニアはナナリー元皇女とゼロ、シュナイゼル元皇子が政権を握った。 日本は元黒の騎士団の扇が首相となり、現在国交は回復し、互いに平等の権利を持ち利益を得る貿易なども行っている。 ブリタ二ア及び、黒の騎士団の解体により事実上合衆国決議も破棄された。 正式には変更ということになった。何故なら、合衆国にブリタニアも加盟した。 しかしもはや戦力である黒の騎士団は合衆国にはない。 よって提案されたのが各国の自衛軍から優れた軍人を集めて作られる合衆国軍である。 合衆国軍は加盟国が合衆国会議において協力を要請し、 合衆国の決議によりは加盟国が他国に不当な侵略行為を受けていると判断した場合、 戦場へ派遣され干渉し、停戦させるようになったからだ。 まぁ、現在は各国内にあるテロリストのテロ活動の鎮圧なども行っているのだが。 俺はブリタニアの自衛軍に所属し、合衆国軍で大佐をやっている。理由はナナリー元皇女殿下から直々に 「新しいブリタニアのために力を貸してほしい」 そう言われたからだった。それが四年前の話。 冷めてしまったコーヒーを啜りながら、壁にかかったボードを見る。 ピンで止められた写真。扇(もう扇総理か)とヴィレッタさんの結婚式の写真。 俺の前にはリヴァルがいて、隣には・・・アーニャがいる。 そういえば、アーニャもこの結婚式を最後に会っていない。 会いたいとは思ったのだが、誰一人としてアーニャがどこにいるかわからないらしい。 そして・・もう一人。俺の隣にいる・・カレン。 日本で無事にアッシュフォード学園を卒業して、現在は大学の医学部にいるそうだ。 母親の病気を治すため・・そして、今まで奪ってきた命へのせめてもの償いらしい。 俺とカレン。一年前まで付き合っていた。 俺が告白して、渋々という形ではあったが幸せだった。 俺はブリタニア、彼女は日本で住んでいたから遠距離恋愛ではあったが、 俺はしばしば任務で日本へ行くことも多く会う事はできていた。 ぎこちなく手を絡めて、抱き締めてキスをして、夜を共にするまでの関係になった。 俺は彼女を愛していたし、彼女も俺を・・・思っていてくれていたと信じている。 いいや・・それは嘘だ。彼女は必死に俺を愛そうとしていただけだって知ってて、 俺は彼女に愛することを強要していたんだ。 『・・ごめん・・。やっぱり・・私・・ルルーシュのこと・・忘れられない・・・』 涙ながらに彼女が俺に言ったのは去年のクリスマスイヴ。 イルミネーションが輝いて、恋人達が愛し合う夜のこと。 『・・それにあたしは・・貴方の望んでる物をあげることはできない、ジノ』 『・・・俺の望んでる物・・?君に愛されたいって事かい?』 『・・・違う。貴方はあたしに愛されたいんじゃない』 『何言ってるんだ、俺は・・・』 『貴方はあたしが欲しいものと同じものを私に望んでいるのよ。 あたしもそれを貴方に望んだから・・。 だから、あたし達いつまでも望んでるものを得ることはできないの。 だから・・・・っ・・ごめんなさい・・ジノ』 そう言って俺に背を向けた彼女の手首を掴んだ。 『・・待ってくれ、カレン。君は何を望んだんだよ!君が望んだのはルルーシュなのか?』 『・・・ジノ。 あたし達が欲しいのは・・・欲しかったのは・・・ッ!』 二人で巨大なもみの木のクリスマスツリーの根元に、御揃いの指輪を埋めた。 本物のような偽物の愛の終点だった。イルミネーションだけが無情に光り続けていた。 Chapter2  ひたすらと続く一本道。右も左も緑の小さな丘。 すれ違う車の数も随分少なくなった。 ジャケットのポケットから煙草を出して、火をつける。 窓側のボタンを押せば自動的に下がっていく窓。 紫煙が窓から後方へ流れていく。風が心地よかった。 空は嘘みたいに晴れ渡っていた。    結局、俺は調査と言う名目で二週間の休暇を貰った。 その後、ジェレミアに連絡を取り、滞在させてもらう事になった。 そして、今朝首都を発ち、彼これ6時間は愛車を走らせている。 最初は都会の喧騒が煩かったのに、気づけばもうこんな静かな田舎まで来ている。 鼻をくすぐる風の匂いは都会のそれと違って、澄み切っている。 たまには、こういうのもいい。そう思いながら車を走らせていると、下り道。 そしてその先には昔の面影を残したままの綺麗な街が広がり、その先は海になっていた。 左の方を見れば、山の緩やかな斜面にたくさんの木が植えられている。どうやらあれが彼の農園のようだ。    レトロなレンガを敷き詰めた道。街では子供や女性が話している。 並べられた新鮮そうな野菜。おとぎ話に出てきそうな風景だ。 こんな風景をみたのは初めてで、なんだか心が温かくなった。 車を道の端に寄せれば、可愛らしいお菓子の店が一軒。道を聞くついでに入ってみた。 「いらっしゃいませ」 街娘が笑いかける。それに笑顔で答えれば、少し頬を赤らめた。 「聞きたいことがあるんだけど」 「はい?」 「この辺りにジェレミアという男の所有する農園があると思うんだけど、どう行ったらいいのかな?」 「ジェレミアさんの農園ですか。  この前の道を真っ直ぐ行けば別れ道があるんですけど、それを左に曲がって真っ直ぐ行けば着きますよ」 「そうか、有難う」 「いえ」 「何か・・お土産にでも買って行こうかな・・」 「なら、このクッキーとかどうですか?」 たくさんのクッキーが入った袋を差し出された。 可愛らしい装飾がしてあって、リボンが巻かれている。いくらなんでも彼への土産には・・。 「数も多いし、ジェレミアさんのところの子供さんも大好きでよく買いに来られるから・・」 「・・・子供?」 知らなかった。彼に子供がいるなんて話は・・。 「え、ジェレミアさんの孤児院を訪ねに来たんじゃないんですか?」 「・・・孤児院?」 「ええ。戦争で親を亡くした子供を引き取って育ててるんですよ、マリアさんと二人で」 「・・・マリア?彼の奥さん?」 そう言えば彼女は笑った。 「マリアさんはまだ十九歳ですよ。奥さんだなんて・・。 詳しくはよく知らないけれど、ジェレミアさんの農園を手伝ってるんですよ。 凄く綺麗な方で・・・あ、やだ、いけない。世間話になってしまいました」 彼女はクッキーの入った袋を、六角形の箱に入れて、もう一度リボンを巻いて俺に渡した。 彼女に代金を払って、礼を言って、店を出た。 車にキーを差し込み、ドアを開けて、箱を助手席に置いた。運転席に座って考える。 彼が孤児院をやってるとは知らなかった。聞いたこともなかった。 それは・・命を奪って戦争に関わった者としての・・・彼なりの懺悔なのだろうか。 ・・・それに、マリアという女性。 彼にそんな名前の知り合いがいるなんて聞いたことはないし (といっても別に彼と交流が深いわけではないのだが) 十九歳という年齢。何か引っかかりを感じつつも、俺はキーを差し込んだ。音を立てるエンジン。      街を暫く走れば、やがて街はずれにきた。 すると道が分かれていた。左に曲がり山道を進めば、左右がたくさんの樹木になる。 これがオレンジの木だろうか。やがて斜面を進んでいくと、小高い丘の上に着いた。 少し整えられた駐車場の後ろには、屋敷というよりは少し大きめのこじんまりしたログハウスが建っていた。 赤い屋根が可愛らしい。 駐車場の一つに車を止めてクッキーの箱を持って降りれば、家から出てきたのはジェレミアだった。 嘗ての貴族としての面影はなく、シャツにジーンズといったラフなスタイルだった。 「久しぶりだな」 「ああ、こんにちは」 「立ち話もなんだ。入りたまえ」 彼は木の扉を引いた。中はたいぶ大きかった。 木だけでできているように見えたがそれは外見だけで中はしっかりとした建物だった。 玄関を抜けて、テレビと長いソファーが置いてあるリビングに通された。 「かけておいてくれ」 一言俺に言って、彼は出ていった。言われた通り、ソファーに腰をおろす。 チェックの可愛らしいカバーが掛けられていて、子供がいることを感じさせられた。 暫くすると彼はトレイにコーヒーの入ったカップと皿にのったオレンジのケーキを持って入ってきた。 「知らなかった」 「・・?・・何がだ?」 「貴方が孤児院をやってるなんて」 「・・・誰に聞いたんだ?」 その言葉と同時にケーキ屋で買ったクッキーの箱を手渡した。彼はその箱を見て、溜息をついた。 「『マダム・テリア』のロシェリアか・・。お喋りな娘だ」 「マリアっていう若い女の子と15人の孤児を育ててるとか」 『マリア』・・その名前が出た瞬間に彼の表情が一瞬硬くなった。 彼は無言でコーヒーを口にした後、言った。 Chapter3 そっと瞳を閉じれば蘇ったのは、彼と最後に会った日の・・笑顔。 私は彼に伝えたい事があった。記憶が戻ったこと・・それを・・伝えたかった。 彼に最後にあったのは・・ヴィレッタ・ヌゥと現日本の首相である扇の結婚式の時だった。 式が終わって、写真撮影が終わって・・。彼に近づいた。 『・・・ジノ』 『ん、どうした?アーニャ』 『ジノに・・・聞いてほしいことがあるの』 『俺もアーニャに聞いてほしいことがあるんだ!』 笑顔で私に告げる彼。それを見て嬉しいことがあったのだろうと、彼に先に言うように促した。 『俺さ!』 『カレンと付き合う事になったんだ!』 ざくりと何かが刺さる音がした、気がした。 『そ・・う・・・』 『あ、で、アーニャの言いたいことって?』 『・・・大したことじゃないから・・・また・・今度言う・・』 『え?あ・・そっか・・・んじゃ、俺、カレンのとこ行かなきゃならないから!』 そう言って笑って彼は背中を向けた。駆けてく後ろ姿は私の傷跡をえぐっていった。 残ったのは・・ただ空っぽの心だけだった。 その時、初めて気がついた。私はジノを愛していたって。はじめはそれは親愛の類だと思っていた。 彼は私にとって兄のような存在だった。 だからきっと兄のような存在の彼に彼女ができるということは、 どこか寂しいのだと・・・そう自分に言い訳していた。 ううん・・・そう言い訳しないと、この苦痛に耐えられなかった。知らない、こんな気持ち。 ねぇ、もういちどわたしをみて アーニャっていって わらって、わたしだけに ねぇ どうして わたしはあなたのとなりにいれないの?  苦しいくらいの嫉妬に、胸が裂かれるような気持ちだった。 悲しいくらいの寂しさに、胸が潰されそうだった。 どうして・・想いを告げてなかったのか・・。 そう後悔だけが重なった。それでも時は戻らなくて・・私は逃げた。 彼のいない、残されたちっぽけな現実。そんな時、私を農園に誘ってくれたのはジェレミアだった。  私は意味が欲しかった。私は価値が欲しかった。私は意義が欲しかった。私が生きてるということの。 ジェレミアの農園に行けば・・何か新しい自分になれるかもしれない。何か楽しいことがあるかもしれない。 ・・・彼への想いを全て忘れさせてくれるかもしれない。 記憶を取り戻したことによって、新しい私を生み出せるかもしれない。そんな思いからだった。    農園での生活はゆっくりと時が過ぎていった。今までとは違う地位もお金も名誉もない。 けれども時は優しくて、誰も傷つけずに生きていくという当たり前のことがどれだけ幸せなのかを噛み締める事ができた。 半年ほど経った時、ジェレミアは孤児院を始めたいと言いだした。 『もう二度と・・ルルーシュ様や、枢木スザクや・・・君のような子供達が生まれないためにも・・。  戦争をしていた人間の一生償いきれない罪を負った私が・・・やりたいのだ。これは贖罪じゃない。  贖罪の端くれにもおけないだろう。自己満足でしかないのかもしれない。  それでも、それでも・・・何も知らない子供たちから親を奪った責任を少しでも・・・負いたいのだ。  ・・・これは傲慢な思いなのだろうか・・・、アーニャ』 彼の瞳は真剣だった。自分への罪を負って生きている・・。だから、私も背負おうと思った。自分は記憶を奪われた。 気づけばラウンズだった。子供だった。でも、違う。私は銃を握った。人を手にかけた。 だから私も全ての事から逃げちゃいけない。何かしらの贖罪を身に追う事を決めた。 最も・・それは彼と同じで償えきれないものかもしれないけど。  そうして、最初に引き取ったのは5人の子供。引き取った初日、彼は子供たちに自己紹介した。 子供達も自己紹介をしていた。私は何も言えずにただ突っ立っているだけだったが、一人の少女が私に声をかけた。 リアという九歳の少女で、引き取った子供の中で一番年上だった。 『お姉ちゃん』 屈託のない笑顔を私に寄せて、彼女はこう言った。 『お姉ちゃんの名前は、何?』 その言葉に・・何故だか言えなかった、自分の名前が。・・怖かった。 自分がどれだけ浅はかな考えをしていたかがよくわかった。償う?・・そんなことできない。 彼女はどう思うのだろうか。私が戦争に参加した人の一人だと知ったら。 その屈託のない笑顔は、歪むのではないか。憎悪と苦痛の表情で私に迫るのだろうか。・・恐怖した。 初めて会ったばかりだが、私は既に彼らに言いようのない愛しさを感じ始めていた。 それは私の初めての感情だった。けれど、知っていた。愛することが恐怖を生み出すことを。 それは失う恐怖であり、裏切られる恐怖であることを。 彼女も・・・ジノのように私にやがて背を向けるのじゃないか・・・、そんな恐怖がよぎってしまった。  やがて少女は何も言わない私に不思議そうな顔を見せた。そして、小さな手が私の手を握った。 Chapter4 「・・・ジノ」 「ん?」 「この後、どうする?帰る・・?」 「・・・うーん・・・あ!海行ってみたい」 「・・・わかった」    二人、無言のまま石畳を歩く。海岸に近付くほど強くなる潮の匂いは心地よい。 やがて、海岸へ着く。海水浴の季節が終わった砂浜は静まり返っていて、それでいて寂しそうだった。 砂浜へ降りる。ザザーンと波が浜へ打ち、引き・・そして打つ。何度も同じことを繰り返していく。海風がなんだか優しい。 「風が気持ちいいな」 「うん」 なんだか若返った感じがして、そっと悪戯心が湧く。靴と靴下を脱いで、ズボンの裾を少しまくる。 その様子をみてアーニャは俺が何をしようとしているのか気づいたらしく、少し呆れたように俺を見た。 「・・・入るの?」 「足だけな。海なんて久しぶりだから」 「そういうとこ、昔と変わらない・・・」 アーニャは砂の上にそっと腰を下ろす。俺は濡れた砂の上に立つ。柔らかい地面が硬くなる。 やがて波が来て、足を濡らし、引いていく。足元は波によって砂が削られて足が埋まっていく。 まるで地面が少しずつ俺を侵食していくみたいだと思った。こうやって俺自身も何かに埋まっていくのだろうか。 そっと瞼を閉じて、開けば普遍の海が広がっていた。振り返れば砂浜で座り込むアーニャ。  きっと俺達はこうなんだと思う。彼女は柔らかな砂の上にいる。 確定的な何かを欲しいけれど柔らかいその温かさに埋もれていたい。俺は波打つ砂浜に立っている。 確かに硬さはあるだろう。けれども侵食され、波に打たれている。互いに一人ぼっちだ。ふいに寂しくなった。 「・・・アーニャ」 「何」 「こっち、来いよ」 「濡れる」 「いいじゃん。濡れたって」 「いや」 「・・・来て」 彼女の深紅の瞳を見つめて、言った。彼女は少し不思議そうに俺を見つめた後、溜息をついた。 そして、靴を揃えて脱ぐ。靴下を脱いで、靴の上に置いた。 立ち上がろうとした彼女に・・俺はそっと手を差し伸べた。本当は少し怖かった。何故かわからない。 彼女に触れることが・・何かを壊してしまいそうで怖かった。でも・・その手に触れたかった。 恐怖と期待が混じり合う。やがて彼女の細い指先が俺の掌に触れた。優しい体温を俺はそっと握り返した。 心の奥底の古い箱の鍵がカチャリと音を立てた。 音と同時にしっかりとその指先を握って、力を込める。すっと彼女が立ち上がり、硬い地面までやってくる。 そっと四本の足を波が濡らしていく。 「・・・冷たい」 「そうか?」 「・・うん」 俺はずっと彼女の手を握ったままだった。彼女もそれを咎めようとはしなかった。 ただ二人で向かいあって、波に足を濡らされながら、手は繋がっていた。ふと彼女がぽつりと言った。 「空の蒼は・・ジノの瞳の色」 「・・・海の青は?」 「・・・・海の青は・・・」 「・・・スザクのマントの色・・・」 鼓膜に響いた懐かしい友の名前。彼は今天で俺達を見ているのだろうか。変わらないものはない・・。 そうだ。俺達と彼の関係も気づけば変わってしまっていた・・。普遍はあるようで・・・ないのかもしれない。 「・・・ジノは・・」 「・・・?」 「変化が恐ろしい?」 「・・・・・」 「縋りつきたい?」 「・・・・ああ、弱いんだ、俺」 「・・・・・知ってる」 「そっか・・・」 「うん・・・でも・・・」 「・・・?」 「自分の弱さを知ってるから、誰よりも優しくなれる」 風に桃色の髪が靡いた。そっと白い薔薇が飛んでいく。やがてそれは俺達が届かないくらいの距離の海面に落ちた。 「・・ごめん・・飛んで行った」 「いいよ。アーニャの庭にもあるんだろ?」 「・・・うん」 俺達は手を繋いだまま、白の薔薇を眺めていた。 それが沈むのを眺めていた。 Chapter5 「ジ・・・・ノ・・・?」 彼女の頭を撫でたのは・・無理矢理封じ込めたかったからだ。これは違うと。 これは嘗て妹のように感じていた彼女への親愛なのだと。 けれども、一瞬白い肌に朱が差し込んだのを見逃さなかった。そして、その次に見えた憂いの表情も。 何かが崩れ落ちた気がした。衝動に駆られた。どうしてそんな顔をするんだ。どうしてどうしてどうして。 どうしてそんなにせつなげにおれをみるんだ まるで伝染したかのように、俺まで切なさが募った。彼女のそんな表情なんてみたくなかった。 『幸せなんだろう?』 ・・・俺には、幸せには見えないよ、アーニャ。少なくともあの頃はそんな表情を浮かべなかった。 何でそんな嘘をつくんだよ。何で・・・ 俺がこんなに苦しいんだよ?  気づけば指先が彼女の髪で止まっていた。彼女の呼びかけで・・視線は彼女に戻った。 不安げな瞳で見つめてくる。手を下に下ろしていけば、柔らかな髪が指の間を滑っていく。 そのまま、小さな肩に手を乗せた。距離を縮めた。衝動と激情に駆られた。 「なぁ・・・」 「・・え・・・」 「どうやったら・・・起きるんだっけ」  彼女は驚いたように目を見開いた。少し屈んで、顔を傾けて・・・瞳を閉じていく。 震える吐息が零れる唇に、自分のそれが重なろうとした時だった。 「やめてっ!!!!」 パンッと言う音と共に、頬に痛みを感じた。はっと我に返って、彼女を見つめると・・・泣いていた。 「・・アーニャ・・ごめっ・・・」 「私は・・・っ・・・私はっ!!」 「・・・紅月カレンの代わりにはなれない・・・!」 「あ、アーニャ・・・!待って・・」 そのまま彼女は何も言わずに走り去って行った。残された俺は頬を押さえながら、小屋の前のベンチに座り込んだ。 「・・・何やってるんだよ・・・俺」 ポケットから煙草を一本出して、火を付けた。紫煙が舞い上がっていく。