ふわりふわり 君が愛おしい。 spring wind 休日、スザクがおもいだしたかのように 俺に言った。 「アーニャの髪はピンク色っていうよりは・・・  桃色って感じだね」 「桃?あ、“Peach”のことか?」 「ああ。桃の花見たことあるかい、ジノ?」 「・・そういや、ないなぁ・・」 「綺麗だよ、小ぶりで・・可愛い・・」 『アーニャみたいだよ』 スザクはにこりと微笑んで笑った。 俺はそんなスザクに少し苛々した。 「小ぶりで可愛いアーニャは俺のものなんだからな!」 するとスザクは笑って言った。 「知ってるよ。怒るなって」 「わかってるならいいんだよ」 「桃の花が咲いてるいいところ  教えてあげるから」 「本当か!」 スザクから桃の花が咲いている場所を聞いて 俺はアーニャと一緒に見に行こうと思って部屋を出た。 ドアを閉める前に振りかえり、一言。 「スザク!」 「え?」 「有難う!」 「・・ああ」 「・・・アーニャの髪の色が桃なら  君の髪の色は・・桜かな」 スザクは一つ苦笑いをして、コーヒーを口にした。 「アーニャ!」 「・・何」 「花!見に行くぞ!桃の花!」 「は・・?」 「いいから!」 「・・ちょ・・・っと・・ジノ・・」 俺はアーニャを引っ張って 急いで車に乗せた。 アーニャは少し不満げな顔をしているが 俺は極めて上機嫌だった。 風が頬を撫ぜる。 エリア11の春は初めてだった。 だが、不思議と心地よい。 「アーニャ」 「・・何」 「やっぱり・・・怒ってる?」 「別に」 ふと隣を見ると アーニャは前をただ見つめていた。 オープンカーなので 風があたる。 今日は休日なので、下ろされていた彼女の髪が 風に揺られて靡いている。 暫く車で走ればスザクが言っていた場所についた。 それは郊外にある、ちょっとした丘のようなところだった。 最初は緑の草ばかりだったが 少し車で走れば、その緑の上にたくさんの桃の木があらわれた。 「あ!」 「・・すごい」 適当な脇道に車を止めて、アーニャの手をとった。 「ジノ!」 「ほら、早く!」 アーニャの手を引っ張って 桃の木がたくさん花をつけている場所へ行く。 丘の上から坂に植えられている桃の木を眺める。 とても美しいピンク色をしている。 「綺麗・・」 「そうだな」 風に靡いて花弁が舞う。 その確かにその花の色はアーニャの髪の色によく似ていた。 「スザクが、教えてくれたんだ」 「・・?」 「『アーニャの髪はピンク色っていうより桃色だ』って」 「・・・」 「で、俺桃の花見たことなかったからさ、  アーニャと一緒に見たかったんだ」 「・・・そう」 「ああ!一緒に来てくれて有難うな、アーニャ」 「・・・無理矢理連れてきたくせに」 「・・・やっぱり、怒ってる?」 「・・・ううん」 何故か俯いた彼女を心配して 覗きこんだ。 ・・・少しだけ頬が赤くなっていた。 募る愛しさを指先に込めて彼女の手を握った。 「・・ジノ・・・」 「・・・じゃあ、これも・・付き合って」 「へ・・・えっ!?」 俺は思いっきり彼女の手を握りしめて 丘を一気に駆け降りる。 「ジノッ!」 髪を靡かせて 風を正面から受けて 桃畑を走りぬける。 いい匂いがした。 桃の・・・そして・・ 振り向いた。 アーニャが驚いた顔をして飛び込んでくる。 俺は彼女を抱きしめて、体勢を崩して 草の上に倒れた。 「ジノ・・大丈夫?」 「・・・は・・・ははははははっ!!!」 「・・・ジノ?」 「あははは!!」 「・・・頭でも打った?」 「大丈夫、打ってない!」 草の感触が心地よい。 見上げればたくさんの桃の花。 自分の上にはアーニャがのっている。 「アーニャは?怪我しなかったか?」 「・・・してない」 「よかった」 「でも、危ないからやめて」 「ごめんごめん」 「見上げても綺麗だな」 「・・・うん」 二人で桃の花を見上げながら 呟いた。 そのまま俺は身体を起こそうとした。 すると。 「え?」 「手」 アーニャは手を差しだした。 どうやら引っ張って起こしてくれるらしい。 俺はなんだか嬉しくなって その手を取る。 小さな力に引っ張られて 身体を起こした瞬間に。 「・・ありがと」 照れた顔でキスされた。 俺まで照れてしまった。 照れ隠しに俺の上から退いて さっさと坂を登ろうとした彼女の背中を抱きしめた。 「どういたしまして!」 「・・・重い」 「ほんとは嬉しいくせにー」 ふにふにと頬をつつけば それが朱色に染まる。 小さな手と大きな手が繋がった。 こうやって、これからも二人で一緒にいれたらいい。 そう、ただ願うんだ。 愛しさを紡ぐかのように一つ風がふいた。