(表紙は「ドロップ」の柚木さんに描いて頂きました。    柚木さん、有難う御座いましたwww) だいすきだから こんなにふれたくて だいすきだから こんなにふれてほしくて これは わたしだけのきもちですか? あなたはそうは 思わないのかな・・? Touch Me! ジノとの中がただの同僚で友達から、恋人に発展してから数か月が経過した。 指先を絡めた。 ひっそりと唇を重ねた。 気恥ずかしくて、ドキドキするけれど嫌な気持ちは全然なくて・・・。 でも、少しだけ気になることがあった。 彼はキスはしても私を抱こうとはしなかった。 私はその理由をずっと自分の貧相な体格や行為への未経験のせいで、 彼が面倒で嫌がっているのだと思っていた。 でも、彼が他の女の人で欲求を満たしているのかと想像するだけで胸が苦しくなって、涙が止まらなくなった。 やがてその気持ちが彼に伝わった。 そして、私はやっと彼の本当の気持ちを知ることができた。 彼は他の女の人なんて抱いてなかった。 彼が私を抱かなかった理由は、私を愛していたからこそだった。 愛しているからこそ、他の女性ともたくさん関係をもった自分が、 穢れていない身体の私を抱いて汚してしまっていいのか。 そんな想いが彼を縛りつけていた。 私は彼の気持ちを知って、彼は私の気持ちを知った。 お互いの想いを共有しあった時、彼は初めて私を抱いた。 それは私と彼が『初めて』を共有した瞬間だった。 私にとってはこの行為が、彼にとっては誰かに『愛してる』と伝える事が、初めてだった。 彼を受け入れる事は初めてなので、苦痛を伴い涙が零れたが同時に凄く嬉しかった。 『ああ・・・・ジノって・・こんなにあったかいんだ・・・』 ジノと肌を重ねて、体温を共有してる。 そう考えるだけで嬉しかった。 彼は零れた涙を痛みのためと考えたらしいが、それだけじゃない。 涙の半分は嬉し涙だったの。 だってね、初めてのジノの表情がたくさん見れたから。 ジノはきっと知らないと思うけど。 気持ちよさそうに熱に浮かされた顔とか、寄った眉根とか、荒い息とか・・・。 全てが今この瞬間だけの私しか知らないジノかと思うと、心臓が酷く高鳴った。 本当は痛みに耐えるような顔だけしていたけれど、心の中ではずっとそんな事を考えつつ、 彼に感謝していた。 私に初めてをくれて有難う、私にだけ今そんな顔を見せてくれて有難う、って。 初めての夜、彼は全てが終わった後、私をお風呂に入れて抱きしめて眠った。 心の底から幸せを感じた。 (中略) 目が覚めると、見事に目元が腫れていた。 勤務時間ギリギリまで目元を冷やしていたが、少ししか腫れは引かなくて。 やむなくそのまま仕事に行く。 ぽとぽとと廊下を歩いていると背中を叩かれた。 「おはよ、アーニャ」 「・・・おはよう、スザク」 「訓練室行くなら一緒に行こうよ」 その言葉に頷き、彼の隣を歩く。 何故か彼の視線を感じた。 「・・・何?」 「いや・・・泣いてたの・・?昨日」 きっとこの目の事だろう。 「・・・・駄目?」 「え・・・?」 見上げればスザクは複雑そうな顔をしていた。 「・・・どうして、泣いてたか聞いていい?」 私は何も言わなかった。 「・・ジノのこと?」 でも反射的に視線を合わせてしまえば、スザクはやっぱりと言ったように私を見つめた。 「・・・喧嘩したの?」 私は首を振った。 「・・・違う」 「じゃあ・・・どうして・・・」 「・・・いいの・・・わたしが・・・・ぜんぶ・・・わるい・・から」 「え・・・?」 もうこれ以上何も喋りたくなくて、私は彼より先に訓練室に向かった。 訓練の時間はスザクと一緒だったけれど、彼は私がその話に触れてほしくないと分かったのか、 もうそのことを話題にすることはなかった。 午前の訓練後ラウンズ用の待機室で昼食を取ろうとしていると、ジノがやってきた。 「アーニャ、おはよう」 「・・・おはよ」 「俺、朝から任務でさ、今帰ってきたんだ。  ああ、俺もお腹減ったな・・・。アーニャのそのメロンパン一口頂戴」 「・・・はい」 彼の口元にメロンパンを差し出せば、彼が嬉しそうにそれを頬張る。 少し自分に近づいた彼の幸せそうな顔。 でも、昨日の彼の熱っぽい顔が脳内でフラッシュバックして、思わず頬が熱を帯びる。 それと同時に視線は彼から外れた。 「ん?俺いっぱい食べ過ぎた?」 私は首を左右に振る。 「じゃあどうしてこっちを向かないの?  ・・・あれ・・アーニャ・・目・・腫れてる?・・・泣いてたのか・・・?」 そう言って彼は私の両頬に手を当て、私の顔を彼の顔の前に持ってきた。 食べていたメロンパンは皿に置かれて、私はふわりと抱かれて、彼の膝の上に乗せられた。 空色の二つの視線が私を射抜く。 「・・・泣いてただろ?」 「・・・泣いてない」 「・・じゃあなんで目が腫れてるの?」 「・・・気のせい」 「・・アーニャ、言って。ほんとに心配なんだ」 「・・・言いたくない」 「もしかして・・・俺のせい?」 「・・・・・・・・」 その言葉に図星で何も言えなくなって、黙りこくってしまう。 「・・・な、俺、アーニャの気に障ることした?」 「・・・」 私は首を振った。 「じゃあ・・・」 「・・いいの・・ジノは悪くないの」 「え・・・」 「私が・・・駄目な・・・だけだから」 「え・・?」 これ以上言うと悲しくて涙が零れそうで、彼の手を払いのけて逃げ出した。 「お、おい!アーニャ!?」 もう彼の呼び声に振り返る事が怖くなって、駈け出していた。 その後、ジノは前線への戦闘へ投入された。 投入は突然で、しかもいつも通りの私、スザク、ジノの三人ではなく、 今回は彼一人だけだった。 おかげで、彼に涙の理由を追及されることはなくなったが、胸のもやもやは募るばかりだった。