戦火、爆撃、金属音 全てに包まれた戦場 空からは全てが見える。 燃える炎の色はなんだか彼女の紅とは違っていた。 Valkyrie 本日はエリア11ではない。 ブリタニアは別にエリア11だけを相手にしてるわけじゃないから。 本日の任務は戦場での掃討作戦。 どうも苦戦を強いられたらしく、ラウンズの戦場派遣が昨夜決まった。 今日の朝から投入されて、休憩無しで掃討作戦も最終局面。 もう夜である。 『ああ、腹へった・・・』 ジノは欠伸を噛みしめながらぼんやりと思った。 今日はメンバーも違った。 今日はジノとアーニャだけ。 スザクはエリア11に残ってナナリー総督の守護任をやっている。 まぁ、二人が戦場派遣されるのはしょっちゅうで。 その実績の高さからから、掃討作戦やるなら二人を行かせろみたいな 空気がラウンズ内に出てきて、最近ジノは正直めんどくさい。 何回もやったので、もう役割分担も決まっている。 前線でぶっ放すして暴れるのが重量型であるモルドレッド。 そのモルドレッドを後方から支援しつつ、 空中戦も引き受けるのがトリスタン。 よって今日はほとんど戦闘機モードで上からの爆撃がメイン。 正直ジノは暇だった。 彼はそんな事を考え、レーダーで周りに戦闘機がいないのを確認すると 画面をモルドレッドへのカメラに切り替える。 「・・・相変わらずだな」 4連ハドロン砲の轟音。 ミサイルの連射。 あれだけごつく、動かしにくい機体が彼女にかかれば 軽くなっていく気がする。 確実に上がる敵ナイトメア部隊からの炎。 後方から支援する自軍のナイトメアもモルドレッドには近寄らない。 アーニャがいつも彼らに直々に言うからだ。 『戦闘中、モルドレッドに近寄らないで』 『・・一緒に殺しちゃうから』 その意味を出撃したとたんに操縦者達は理解する。 あれだけ基地では携帯しか見ないような まだ幼さが残る少女。 操縦幹を握ると同時に彼女に宿るのは殺戮の本能。 もう彼女は今日一日でもう何百、何千という命を奪っている。 それを言ってしまえば、ジノもそうなのだが。 そしていつも同時に彼は笑いを噛みしめる。 敵はきっと彼達がナイトオブラウンズだとは気づいているだろう。 だが、主に殲滅をしているこのごつい真っ赤なナイトメアのパイロットが まさか十四歳の少女だと誰が思うのだろうと。 それこそ『悪夢』だと、 ジノがほくそ笑んでいると無線が入る。 その十四歳の少女から。 『ジノ』 「お。お疲れ!」 『敵将軍のナイトメア確認。潰す』 「オッケー。後方は任せとけ!」 了解の指示を出したのに、無線は切れない。 画面に映るモルドレッドは激しい動きと 轟音と攻撃を繰り返しながらせわしなく戦闘をしている。 けれど彼女の声はけれど、涼しい。 それがナイトオブシックスである アーニャ・アールストレイムだからこそできる芸当。 そして、再び声が聞こえた。 『ジノ』 「あ?」 『さっき海が見えた』 「え、あ、ああ」 そして、何か一瞬迷ったように。 けれども彼の耳はその願いをしっかり聞きとめた。 『海に行きたい』 きっと彼女は知らない。 戦場に彼女が立つ時、 兵士が裏で彼女をなんと言っているのか。 Valkyrie(ヴァルキリー) 戦乙女、と。 深紅の機体が炎と死体を生み出すと。 彼女がいくつの苦境を勝利に変えてきたかを。 けれども兵士達は知らない。 その戦乙女が ただの少女である瞬間を。 彼は笑った。 ああ、愉快だ、と。 俺は両方の彼女を知っているから、と。 「アーニャ」 『・・・』 「そこの将軍さん、10分で片付けろ」 『・・・ジノ』 「無理か?」 彼はにやりと微笑んだ。 勿論返事を知っているから。 『五分もいらない』 次の瞬間無線が切れた。 画面ではモルドレッドが一機の将軍クラスのナイトメアと 派手にやり合っていた。 彼は再び無線を入れた。 今度は全ナイトメア部隊へ、だ。 「全部隊に告ぐ。  将軍はモルドレッドが仕留める。  まわりのナイトメアを潰せ」 全部隊長から返ってくる 『Yes, my load』 「それじゃ、フィナーレといきますか!」 ジノはナイトメアモードにトリスタンを切り替えた。 夜の九時。 晴れた闇夜には朧月が浮かんでいた。 掃討作戦完了後、ジノは一度基地に戻って、 もう一度トリスタンを飛ばした。 場所は本部のある臨時基地から暫く飛んだ戦場近くの崖。 その下に広がる砂浜。 そこには先程まで暴れていたモルドレッドがあった。 その横にトリスタンをとめ、降りる。 アーニャの姿を探すと、 彼女はパイロットスーツのまま、靴を脱いで 裸足で海水に足だけ浸かっていた。 桃色の柔らかい髪が解かれて、 海風に揺れている。 「おつかれ」 「・・おつかれ」 振り返るアーニャ。 ワンテンポ遅れて返ってくる返事。 今日はさすがの彼女も疲れたようだ。 ゆっくりと靴を拾って彼の横にきて、座る。 「飯食ってないだろ?ほら」 「ん・・ありがと」 「これ、水な」 彼女は携帯用の固形食糧も水も使い果たしていたので 素直にそれを受け取った。 どこから持ってきたのだろうか。 それは温かいホットサンドイッチ。 アーニャが受け取って食べ始めると、 彼もコーヒーを片手に食べ始めた。 暫く夜の海を見ながら何も言わず食べていたが 彼は口を開いた。 「なぁ」 紅い二つの視線が蒼を見つめた。 「なんで海が見たかったんだ?」 「・・・なんとなく」 「そっか・・・」 ジノが食べ終えてコーヒーを飲んでいると、 アーニャはちょうど食べ終えた。 「ヴァルキリー」 ジノがぽつりと呟いた言葉にアーニャは視線を再び彼に向ける。 「って知ってるか?」 「・・・私が、そう言われてる」 「・・知ってたのか?」 「・・・前、言ってたの聞こえた。  で、ヴァルキリーーって何?」 「あ、それは知らないんだ」 「・・・・ダメ?」 「ううん、別に」 彼はばっと海岸に寝転んだ。 「アーニャもやれよ!月が綺麗だぞ」 「いや」 「どうして?」 「髪が汚れる、砂で」 「・・・あ!」 「いや」 「まだ何も言ってない」 「嫌な予感する。いや」 そう彼女がそっぽを向いたと同時に 彼は彼女の柔らかい腰を掴んで 自分の膝にのせた。 彼女の腰を抱いたまま、また寝ころぶ。 そうすると彼女の頭は彼のちょうど胸の上にきて、 髪が砂で汚れる事はない。 「これならいいだろー。俺が支えてるし」 「・・・」 「月が綺麗だな、アーニャ!」 「・・・・ジノ」 「んー」 「さっきの話」 「あ?」 アーニャが彼の胸上で反転する。 ジノはアーニャにのしかかられているような形になる。 (勿論アーニャは軽いので、彼に負担は皆無に近いが) 「ヴァルキリー」 「ああ・・・・戦乙女だよ、神話の」 「戦乙女・・?」 「戦死者を選ぶ乙女、ってな」 「それって誉めてるの?それとも影口?」 「・・多分誉めてるんじゃないか?。  お前が出てこれば戦況は変わるって意味だろ」 「ふぅん」 なんだかよくわからないといった顔のアーニャの靡く髪を やんわりと撫でていく。 少しだけ小さな体が震えていた。 「寒い?」 こっくり頷く。 「戻るか?」 「・・まだ、見てたい・・」 生憎二人ともパイロットスーツのままで 上着なんていうものはない。 仕方なく彼は座り込むと、胡坐の上にアーニャを乗せて 背中からぎゅとっと抱きしめこんだ。 「ちょっとましになった?」 小さな肩に顔を置いて、 桃色の頭がこくりと動くのを確認した。 「ジノ」 「ん?」 「何人殺したのかな?」 「さぁな」 「後悔してるのか」 「違う」 「ただ」 「きっと天国にはいけないなって思うだけ」 淡々としたアーニャの答えにジノは微笑んで 更に深く抱き締めた。 「じゃあ二人で地獄に堕ちようか」 「死んでまでジノにストーカーされるのなんていや」 ただ暗闇の中で朧月だけが輝いて、 二人を漣の音だけが包んだ。