近くにいるのに、どこにもいない女の話。



















































Empty smoke




















































「『永遠』ってなんだと思う?」

それは似合わずチープな問いかけだった。

「・・何を突然」

「貴方は永遠って何だと思うって聞いたの?」

「そうだな・・・。限りなく意味のないものだろ。

 犬が自分のしっぽを掴んでまわってるのと同じようなもんだ」

ポケットから手探りで煙草を取りだし、火をつける。

白煙はゆらゆらと揺れていた。

「私は人には定義できないものだと思う」

「・・・というと?」

「よくあるじゃない。『永遠に愛することを誓いますか?』って言うの」

「ああ」

「でもそれは『死が二人を分かつまで』という前提で仮定される話なの」


「つまりはそこに永遠は既に存在しないのよ」

「人は区切られた永遠を想像することしかできない」

「だから最初から人は永遠を定義できないし、定義しているつもりになってるだけ」


煙草をふかしながら、その話に耳を傾ける。

ロマンチストよりは俺達はリアリストではあるが、その話は

現実逃避には打ってつけだった。


「私達も、同じ」


窓ガラスに頭を寄せて、少佐は言う。

「きっと傷つかず、戦いの無い世界にいたら
 
 身体はずっと生き続けるでしょうね」

「じゃあ、どうして私達に永遠はないのかしら」




「それはきっとゴーストが生きれば生きるほど、

 擦り切れていくからなのよ」





膨らんだ唇で、俺の名を呼ぶ。



「バトー」

「私は」









「擦り切れて、崩れ落ちる直前に死にたい」








柄にもない言葉に少し驚いた。

その視線はただただ夜の闇をガラス越しに映してた。



「・・・おい、どうした・・」

「別に。ただの言葉遊びよ」

「えらく辛気臭い言葉遊びだな」



少佐はただ静かに俺を見て、近づいてきた。

俺はその動きを見ながら、煙草を銜えた。

吸いこんで、唇から煙草を離す。

口から白煙を吐こうとしたら

白煙は膨らんだ唇の中に飲みこまれた。


突然のことに驚いて固まっていた。



「・・えらく辛気臭い言葉遊びを貴方としたい気分だったのよ」



そう言って、肩を一つ叩いてそこから出て行こうとした。


「ああ。あと、その煙草、変えた方がいいわよ」

「・・は?」

「タールの量、誤魔化してるっていう噂だから」


カツカツと靴を鳴らして少佐は出て行った。




「なら、擦り切れて崩れ落ちる寸前に・・・・・・・・


 いや、なんでもない・・か」


























擦り切れて崩れ落ちる寸前に



















アンタは俺の名前を呼んでくれるのだろうか。

あわよくば、その瞳に映ればいいと思うのは



















































掴みたくても掴めない煙みたいな女を

取りこむにはその煙を噎せつつも

飲みこむしかないのだろうか。

きっとその煙はニコチンよりもずっと舌先を痺れさせるのだろう。

痛みを伴うくらいに。