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「・・・ど、どうしたの?」 「・・・飯」 「・・・・はっ?」 同円周上に浮かんだ恋心 日付が変わる10分前。 寝る準備をしていた私は玄関の戸を叩く音を聞いた。 トントンがドンドンになって。 『こんな時間に誰?』と恐る恐る扉を開けると 「・・よぉ」 彼がいた。 で、冒頭に戻り今に至る。 彼の顔色は良くなく、目の下の隈もかなりひどい。 「徹夜だったの?」 「明日期限の書類が昨日見つかったんだが量が半端じゃなかった・・・」 思い出すのも嫌そうに、彼は私の部屋を陣取って天井を仰いだ。 私はと言うと、あんな顔した幼馴染を追い返すほど酷い人間ではない。 彼を部屋に招き入れて、昨日からほとんど何も口にしていない彼のために遅すぎる夕食を準備中。 何がいいだろう・・・。やっぱり軽いモノがいいかなぁ・・。 「・・ねぇ、何食べたい?」 「ある物でいい」 「ぅー・・・。ぁ、うどんあった。うどんでいい?日番谷君」 「・・ぉー」 最後の返事は半ばダウン寸前の声だったので、私は急いで作り始めた。 だしを煮立てる合間にネギをザクザク切る。 トントンと言う軽快なリズムと鼻歌が混じりあう。 「何かいいことあったのか?」 「ぇー?そう見える?」 どうしても顔の笑みが止まらないのだ。 何故だろう。 しばらく君に会ってなかったからかなぁ? とっても心が温かく感じるんだよ。 「あ、お風呂は?沸いてるよ。使ってかまわないし・・・」 お風呂だって入る時間なかったのではないかと思い、言ってみた。 すると彼は、隈の下の頬を少し赤色に染めて 「・・・じゃぁ、借りる」と呟いた。 少し赤かったから、熱があるのかと聞いたら さらに赤くして「なんでもねぇよ!」と言われた。 日番谷君にタオルを渡し、風呂場へ押し込んだ。 グツグツと煮立った鍋にうどんを入れて、 鍋におたまを入れて、だしの味見。 よし、大丈夫。 だしとうどんが馴染んだところで、サービスの卵を投入。 卵が固まったらネギ入れて完成ー。 「できたか?」 「うん、ちょうど・・・って風邪ひくよ」 うどんの入ったお椀片手に振り返ると、 お風呂上りの日番谷君が上半身裸で髪をゴシゴシ拭いていた。 「ひくかよ。・・お、うまそー。サンキュー、雛森」 そう言って拭いたタオルを肩にかけて、 そのままうどんを食べ始めてしまった。 寝るわけにもいかないので、 私はそんな日番谷君をじーっと見てた。 やっぱり“男の子”なんだなーと思ってしまう。 二の腕とか上半身の筋肉はやはり私にはないもので。 同時にやっぱり“隊長”なんだなーとも思ってしまうのだ。 彼はあの指で筆を握り、 あの口で部下に命令し、 あの腕で誰かを守るのだ。 いつかはたった一人の人を・・・。 あの腕に守られたいなんて一瞬でも思った私はなんておこがましいのだろう。 ぼけーとそんな事を考えていたら、彼のお椀からうどんが消えていた。 茶色がかったおいしそうなだしは小さく波紋を描いていて、 円の中心に彼の眉間に皺を寄せた顔が映っていた。 「ご馳走様でした。・・何ぼーっとしてんだよ」 彼は立ち上がり、お椀を流しに持って行き、洗い始めた。 私は彼の後姿を見ていた。 でも、我慢できなかった。 「・・どうした?」 後ろから腕を回して、彼の肩甲骨の間に顔を埋めた。 「・・・眠たいよ、日番谷君」 肩甲骨の間から彼の鼓動が聞こえる。 彼の今の鼓動と蛇口から出た水の落下速度はどっちが速いのだろうか。 眠たいわけじゃない。 嘘だよ。 嘘つきは泥棒の始まりなんだって、日番谷君。 知ってた? 私が泥棒になったら、君の心を盗みたいよ。 この超高速の鼓動が嘘じゃないなら抱きしめて。 彼は洗ったお椀を洗いカゴに入れると、 肩甲骨にしがみ付いた私の手首を摑んで布団まで連れてった。 「飯美味かった。ありがとな。遅くに悪かった。じゃぁ、おやすみ」 下向いたまま、言ったって顔が赤いのは分かってるんだよ? なんだか悔しかったので、立ち上がった彼の手首を摑んで料金請求。 「うどん代」 「は?」 「食い逃げだよ」 「・・お前なぁ」 「払ってよ、日番谷君」 「・・いくらだ、今給料前で・・」 「なんにも言わずに抱きしめて」 小さな呟きにしたの。 聞こえてほしくなかったから。 我侭だね。 そんな私を抱きしめて。 彼は固まった。 私も固まった。 3秒停止して。 自分が言ったことの愚かさに気づく。 これって幼馴染という関係の崩壊に繋がるのでは・・。 1秒あの二の腕と幼馴染を天秤にかけて、幼馴染がストレート勝ち。 「あ・・・へ、変なこと言ってゴメン。なんか私変だよね。眠かったせいかな。ゴメンね、おやす・・」 「利子付きで払ってやるよ、バカ雛森」 彼の手首を摑んでいたのに、気づけばその腕に抱きしめられていた。 顔をあげれば、唇が重なった。 天秤は反対側に傾いてしまった。 もう後には引けない、戻れない。 私は絡まった指の解き方を知らないから・・・。 同円周上に浮かんだ恋心。二人の座標は重なった。