おにいちゃんおにいちゃんおにいちゃん

あったかいひと あったかいひと

みんながきらいでも

あなたがわたしたちにきょうみがなくても

いいの いいの


だいすき だいすき



















































Dear Brother
























































来羅学園への入学から三カ月がたった。

池袋にも慣れてきて、

今度は新宿も見てみたいなぁと思い

クル姉と二人でイザ兄の事務所にやってきた。

インターホンを押すと出てきたのは見知らぬ女性。




「あら、貴方達、アイツの妹さん、でしょ?」




私とクル姉は顔を見合わせた。



「お姉さん、もしかして、イザ兄の」

「悪いけど、私はアイツのただの秘書だから」

「・・なぁーんだ、残念だね、クル姉」

「同・・・(そうだね)・・」



部屋に案内されると、椅子に座ってPCを見ていた兄は

明らかに嫌そうな顔をしてこっちを向いた。



「・・何で居るんだよ、九瑠璃、舞流」



「イザ兄、ひっどーい。久しぶりに会った妹にその言い方ってどうなの!」

「チャットでしょっちゅう喋ってるだろ。

 俺は忙しいんだ。帰れー!」

「あーあ!イザ兄のために折角色々買ってきたのに。

 ね、クル姉」

「悲・・・(傷ついた)・・」



そう言って、私達はぬっと両手のビニル袋を差し出した。

その中にはネギやら白菜やらが入ってる。

イザ兄はそれを見た。






「イザ兄が、鍋できなかったから落ち込んでると思って

 優しい妹達が一緒に鍋やろうと来たのに」

「・・・食・・・(一緒に食べようと思ったのに)」




二人でしょんぼりとフローリングを見つめる。

イザ兄はちらりとこちらを見て、

はっ、と一つ笑った。




「別に落ち込んでるわけないだろ。

 俺が一緒に鍋を囲む友達もいないと本当に思ってるのか?」

「あら、貴方、こないだ一緒に鍋食べる人もいないからって

 私に奢るから一緒に鍋食べようって言ってたじゃないの」



波江さんのツッコミにイザ兄が思わず固まる。

二人でクスクス笑った。

イザ兄は少し恥ずかしいのか、顔を赤らめた。




イザ兄は椅子から腰を上げて、

私達の前に来た。

ビニル袋に指をひっかけて中身を覗く。






「はっ。何この安っい肉。

 俺はいい肉しか食べたくないんだよねー」






「後、鍋には酒が付き物だろ?

 今切らしてるしなー。

 日本酒を温燗で飲みたいなぁ」









それだけ言って、イザ兄は浪江さんを呼んだ。







「この書類まとめておいて。

 それが終わったら帰っていいよ。

 嗚呼、鍋に参加するなら残っておいて」


「家族団欒にお邪魔する気はないわ」






イザ兄はコートを着た。

いつもの憎らしい顔でこっちを見た。







「早くしろ」






「うん!ありがと、イザ兄!」

「・・・嬉・・(ありがとう)」











イザ兄の好きなお肉屋さんで

いっぱい高級肉を買って、

酒屋さんでイザ兄の好きな

日本酒を買った。







三人で買いこんで

イザ兄の家に帰ってきたら

浪江さんは帰ったらしく誰もいなかった。


三人で鍋の準備をして、

食卓を囲んだ。



お肉がとってもおいしかった。

イザ兄が「肉、ラブ!」とか言ってた。

なんで太らないんだろうってちょっと思った。








「雨・・(雨、降ってる)・・」

「え?」







食後のアイスを食べてたら、

外は雷雨になってた。

雷が鳴ってる。

イザ兄はお酒を飲んでて、

頬が少し赤かった。







「ねーねー、イザ兄」

「・・何だよ」

「泊まってっていい?」

「はぁ?」

「願・・・(おねがい)・・」

「クル姉だって言ってるしさ!

 妹のお願い聞いてくれたっていいでしょー!」

「・・・はぁ。

 明日になったら絶対帰れよ」

「はーい!やったね、クル姉」

「・・・同・・(うん)・・・」









三人で食事の片づけをした。

でもイザ兄は途中で、それを私達に任せて

お風呂に行った。

片づけを押しつけられたのが、ムカついたので

クル姉と悪戯をすることにした。








片づけが終わって、

バスルームに向かう。

すりガラスの向こうではイザ兄の下手糞な鼻歌が聞こえる。






二人でその扉を開けた。








「・・・は?」

「おっじゃましまーす!」

「・・・入・・(おじゃまします)」

「え、ちょ、お前ら何やってんの!!!」

「あー、イザ兄、思った以上に残念なんだね・・」

「・・・哀・・・(かわいそう)・・・」

「お前ら、俺の股間見ながら何言ってるんだ!!!

 出てけええええ!!」





そんなイザ兄は放っておいて二人で

イザ兄の入っているバスタブに侵入した。

三人でお風呂なんて何年ぶりだろうか。





「イザ兄、クル姉の胸に欲情した?」

「お前らに誰が欲情するか」

「えー!こんなにおっきいのに!

 イザ兄本当は童貞じゃないの」

「変なこというな!いい年して童貞なんて

 知り合いじゃシズちゃんだけだっての」

「え!静雄さん、童貞なの!」

「愛・・(可愛い)・・・」






イザ兄にお願いして

(二人で片づけたんだから、イザ兄だって私達のお願い聞かなきゃね!)

頭を洗って貰った。

ゴシゴシと頭をイザ兄の大きな掌が撫ぜていく。


「痒いところは?」

「ないでーす」

「無・・(ない)・・」

「はぁ・・。なんで高校生の妹の

 頭なんて洗わなきゃいけないんだよ。

 いい歳した兄に何させてんだ、お前らは」

「女子高生と一緒にお風呂に入れるんだから、

 いいでしょ、イザ兄!」

「お前ら以外の女子高生なら良かったよ」




シャワーで泡が流されていく。

目を瞑ってると、指先が睫毛を擽った。




「ほら、終わった」




幼稚園くらいの頃、よくイザ兄がお風呂に入れてくれた。

いつも洗ってくれて、髪を洗い終わったら

こうやって目についた雫を払ってくれる。




イザ兄は、優しい。




でも、きっとこうやって優しくしてくれるのは

私達だけなんだ。多分。





三人で湯船に使っていると、

イザ兄がふと呟いた。




「やっぱりお前ら、双子だな」




「舞流は髪くくってるし、眼鏡もかけてるから

 なんかそういう気がしないけど、

 今見たら、やっぱり良く似てるな」





なんだか、嬉しかった。

なんだか、切なかった。

なんだか、苦しかった。

なんだか、愛おしかった。







夜はイザ兄のベッドで三人で寝た。

クル姉と私は、イザ兄にひっついて寝た。















イザ兄、イザ兄。

ねぇねぇ、お兄ちゃん。












人間になれてる?

私達、お兄ちゃんが好きな

人間になれてる?




これからも愛してくれる?

まだまだ不完全だけど、愛してくれる?









イザ兄、イザ兄

本当はね、大好きなんだよ。






イザ兄が、

最低で、極悪非道で、人の心を弄んで

人を歪んだ愛で愛してるのも知ってる。





でも、それでも、そんな、イザ兄が

大好きだからさ。

だからね、一緒に鍋がしたいなんて、







言ってよ。


素直に教えてよ。



クル姉と飛んでくから。






イザ兄の一番の人間にはなれないかもしれないけど

私達がんばるから、

だから、もっともっと優しくしてね。

もっともっと愛してね。








がんばるから がんばるから



















































「イザ兄」

「なんだ、舞流。さっさと寝てくれないか」

「腕枕して」

「・・・俺、セックスした後でも

 女の子に腕枕しないんだけど」

「イザ兄、イザ兄」

「願・・・(おねがい)・・・」




イザ兄は溜息一つで両腕を伸ばした。

私達はその上に頭を乗せた。

イザ兄はぽんぽんと頭を撫ぜた。





「・・なんで今日はこんなに甘えてくるんだ、お前達」






クル姉と呟いた。




「・・・寂・・(さみしかった)・・」

「・・・ホームシックってわけじゃないけど、

 なんだかね、イザ兄が恋しくなったんだよ」

「くだらない」











そう言いながらもイザ兄は優しく唇に笑みを浮かべた。


イザ兄は嘘つきだから、

本当のことはあんまり話してくれない。

だから、イザ兄のことよく見なきゃ。







「おやすみ、イザ兄」

「休・・(おやすみ)」










「・・ああ、おやすみ」



















































私達は、やっぱり、折原臨也という人が、大好きだ。