空っぽの臓器

役立たずの臓器

栄養のいらない身体

子を孕むことのない身体

生物じゃない、身体



首がない 身体。




それでもそれでも



















































プラトニック



















































初めて会った時は小さな男の子だった。

今目の前にいるのは、一人の男だった。

母性が恋慕に変わったのはいつだったのだろうか。

時を知らぬ身体を 表情を見せぬ肉体を

彼が愛してくれたのはいつからだったか。




彼の愛情を受け入れた。

私は彼を愛してる。




彼は隠すことなく、真っ直ぐな愛情を私に向ける。

真っ直ぐに、真っ直ぐに、

けれども、それは水面に真っ直ぐに入った光のように

少し屈折して見えることもある。



いい、と思う。

それは残酷な時もあるけれど、彼は人間なのだから。











彼が男女間の行為について、比喩的に話し始めたのはいつだったか。

彼が私に欲情していると、そう言いだしたのは。

最初はその冗談をあしらってた。

でもいつの間にか「・・新羅なら」と思ってる自分がいた。











仕事がない夜。

二人でドラマを見てた。

羽島幽平が主演のドラマ。

たまたま二人でコーヒーを飲みながら見てると、

ベッドシーンに突入した。

新羅をちらりと見ると普通に見てた。

私はなんだか居た堪れなくなった。

静雄がこれ見たらどんな反応するんだろうなーとか考えて、

その居た堪れない感情をやり過ごそうとしたけど。







「・・・セルティ?」







はっとすると、新羅が不思議そうに私の顔を覗きこんでいた。

PDAに指先を滑らせる。


『なんだ?』


「いや、セルティ、今ぼーっとしてたでしょ。

 何考えてたのかなーって。

 あ、もしかして、ベッドシーンなんて見たから

 そういう気分になったりした!?

 私はいつでも大丈夫だよ!!セルティが俺としたいなら

 俺はいつでも元気に・・!」


『とりあえず一人称をどれかに固定しろ』




適当につっこみを入れて、溜息をつく。

(その吐息で空気が揺れることはないのだけれど)



素直にPDAに思っていたことを綴った。







『新羅は…どうして私と…その…したいんだ?』


「決まってるじゃないか。愛してるから。

 愛してる人とセックスしたくないっていう人は

 いないと思うけど・・・」





直接的な単語に頭がぼぉっとした気がした。

だが、ぶんぶん首を振って、熱を逃がす。

続きを打ちこむ。





『確かに、私は女だ。

 でも、首がないんだ、表情だってない。

 身体があるから、そういうことはできるけれど、

 でもお前を満足させることはできない。

 テレビに映る女のように喘ぐこともなければ、

 気持ちいいからといって涙を流すこともない。

 …子供を孕むことだってないだろう。

 そんな私とどうして…』





新羅は目を少し細めて、微笑んだ。

昔は私より小さかった手、

でも今は私より大きい彼の手。

それが私の手を包みこんだ。






「君に首がなくったって、僕は君がどんな表情をしてるかわかってるつもりだよ。

 喘がなくったって、僕の心には君の声が聞こえてる。

 子供が産めなくったって、君さえいればそれでいいんだ。

 ねぇ、セルティ。

 そのままの君が好きなんだ。

 君に首がないから好きになったんじゃない。

 好きな人に首がなかっただけだ」




「もしかしたら、君は妖精だから、

 人間としたって気持ちよくなれないかもしれない。

 僕と君との行為に何の意味もないかもしれない。

 快楽だってこれっぽっちも生まれないかもしれない」




「でも、そんなことどうでもいいんだ」






































「快楽なんかじゃなくて、君を感じていたいんだよ」




















































ぎゅうと抱きしめられた。

素直にその言葉は嬉しかった。

いつだって知ってた。

冗談めかした発言だって、

本当は真っ直ぐな愛だって。

真っ直ぐすぎて不安になることもあるけれど、

でも結局は愛おしくてたまらないんだ。








「セルティは、僕とセックスするのは、嫌かい?」






私はその言葉に返事をするのは恥ずかしかったが、

PDAに打ちこんだ。






『・・・嫌じゃない』

「そっか、よかった。

 あ、これ、別に『じゃあ、しようよ』とか言うんじゃなくて

 聞いてみたかっただけだからね。実際にするかを決めるかは

 君の気持ちだから」

『わかってるよ』














「愛してるよ、セルティ」















新羅はそう言って、指先に唇を落とした。

愛してる愛してる愛してる。

彼は何度も「愛してる」「好きだよ」と私に言う。

私は彼の真っ直ぐな言葉をいつも照れて返せていない。

彼の気持ちを受け止めるばかりで伝えることができない。











PDAじゃなく

自分で伝えたいんだ。










キスして貰った指先で、

新羅の手を取った。












「ん?なんだい」










掌に人さし指を滑らせる。















「ん・・・?・・『わ』」




「『た』・・『し』・・・『も』」






























「『あ』『い』『し』『て』『る』・・・・!」











































「セルティィィイイイイイイ!!!!!」


新羅が苦しいくらい抱きついてきた。



「ああああああ、君はなんて可愛いんだ!

 もう君が愛おしい過ぎて、僕はこの感情を表現する言葉を

 知らないよ!どんな慣用句も四字熟語も

 この感情に相応しくない!」






新羅は手をとって、くるくると回った。

ダンスしてるみたいだ。

嗚呼、好きだ。














本当に、馬鹿で変態でよくわからないとこもあるけど





































私はやっぱり新羅を愛してるんだ



















































そう心で呟いた瞬間、

考えていたことがいろいろ吹っ飛んだ。

新羅を引っ張って、新羅の自室に入った。






「セルティ?」





きょとんとした新羅を引っ張って、

ベッドに座った。






「・・・えっと、セルティ、これは」





















「・・・いいってこと?」



















さっきと同じように掌に書いた。





『私もお前を感じてみたいから』





新羅の瞳からぽとりと涙が零れた。

私は少し驚いたが、新羅が笑ってくれたから安心した。







「セルティ、有難う。

 セルティ、セルティ、愛してるよ。

 僕のセルティ」



















































私の服を脱がせて、彼が一番最初にしたことは

拍動することない心臓の上に

キスすることだった。




「誓いのキスの代わりにヘルメット殴ったけど、

 今はヘルメットしてないだろ?

 だから心臓の上にキスして、唇へのキスの代わり」





代わり?そんなことないんだよ。





お前がしてくれることはなんだって、

普通のそれ以上なんだ。

私にとってのこのキスは

唇へのキス以上に深くて深くて甘いものなんだ。

でも伝えることができないから、

不器用に指先を彼の指に絡めた。

彼は握り返した。



















































それだけでさえ、

愛おしい。

純度も密度も100%の

狂おしいくらいの、愛情。