可愛いなんてもんじゃねぇ ma cherie 昨夜、泊りがけの任務から帰ってきた。 勿論、戦闘修羅場付きで。 一人暮らしの部屋に着いたのは 既に日を跨いだ後だった。 帰るなりベッドにダイブした。 目を覚ますと、朝だった。 陽は既に高い。 覚醒しない頭で目覚まし時計を見た。 十時だ。今日は非番をとっている。 別に非番だし、もう一回寝て… ……ちょっと待て、俺なんか忘れて… 『来週の水曜日、朝の十時に広場の噴水前ね!!』 次の瞬間、跳ね起きた。 「やべぇっ!!!!」 汚い忍服とベストを脱いで、適当な服を取り出す。 長Tシャツにジーパンで財布をポケットに突っ込む。 寝室のドアを開け、玄関へ駆け出した。 「あら、急いでどうしたの?」 「いのと約束してんだよ!!!寝坊した!!!」 「じゃあ、まず朝風呂ね」 「はぁ!!?遅刻するって………ん?」 『あれ、俺誰と話して…』 振り向くと 台所にはトントンと包丁で野菜を切る 「おはよ」 いのの姿があった。 「………お、おう」 取り敢えず返事をしてみると 「合鍵で入ったの。 あと、お風呂沸いてるからちゃっちゃと入っちゃって。 ご飯は今作ってるし…」 「……」 「何?あたしの顔なんかついてる?」 俺が呆然としてるといのは不思議そうに見つめた。 「怒んねぇの?」 「寝坊の事?当たり前よ。昨日までSランクだったんでしょ。 ほら、はーやーく! 早く準備して早く出掛けた方がいいでしょ?」 「お、おう…」 俺が浴室にむかおうとすると。 「あ、はい」 手渡された下着。 いつの間にか、コイツは俺の部屋の下着の場所まで知っている。 「アンタが可愛い寝顔晒してる間に溜め込んだ洗濯物まわしてあげたから。 はい、有難うは?」 「……有難う」 「何?不満?」 「いや………なんか奥さんみたいだなあと」 思った事を言うと顔を真っ赤にしてうつ向いた。 その仕草が可愛すぎて、思わず抱きしめる。 胸元に白金が埋まる。 ああ、こういうとこが可愛いんだよ、コイツは。 しっかりしてるけど、甘えたがりのところなんて特に。 まぁ、言わねえけど。 そのせいからか、いつも冗談混じりで意地悪しちまう。 「奥さん、おはようのキスは?」 「ばか」 「……風呂行ってくる」 そう言って、不機嫌な声を出すとコイツはすぐに顔をあげる。 真っ赤な顔を。 そして、見るんだ。 俺のしたり顔を。 「ほら」 「……してくださいって言って」 「してください」 少し腰を屈め、目を瞑ると唇に柔らかい感触。 「頬でも良かったんだけど?」 そう意地悪をすると頬を更に赤らめてむくれる。 俺はぐしゃぐしゃと白金を撫でながら笑う。 「…髭がチクチクするからヤダ」 あ、一本とられたな。 苦笑いすると『お風呂!』と急かされる。 「背中流せよ」 と言えば 「そういうお仕事には興味ない!」 と叫ぶ。 まあ、意地悪し続けていたら埒があかないので。 俺は目尻に口付けると、真っ赤に固まったいのを置いて、脱衣所に入った。 風呂から出ると、いのは朝食を準備していた。 香ばしく焼かれた塩鮭。 温かい味噌汁にご飯。 みずみずしいサラダ。 「和食にサラダってあわない?野菜少ないって思って」 「いんや。サンキュ。うまそ」 二人で食卓に座り、手を合わせて、食べ始める。 「おいし?」 「おー」 「今日どこ行こうか」 「映画って言ってただろ?」 「んー、でもさ」 「あー?」 「二人でゆっくり買い物とかもいいかなって」 「…俺なら大丈夫だぞ?疲れももう取れたし」 「ううん、あたしが行きたいの!」 「また服の衝動買いか?」 「違うわよ!馬鹿」 真っ赤になって、反論する。 「じゃあ、何買うんだよ」 「…お」 「お?」 「お布団、とか」 「はぁ?」 更に赤面して下を向く。 俺は完全にその意味がわからない。 「お、お布団とか。 歯ブラシとか食器はあるけど…えっとだからその…」 「…あ」 思い出した。 任務の前に。 『んなぁ、いの』 『んー?』 『俺たち、そろそろ付き合って四年じゃねぇか?』 『……そーだけど?』 『だからその……お前がいてくれると嬉しいんだけど』 『へ?』 『結婚前提で俺と同棲しねぇ?』 「新生活は新しい物で始めるべきでしょ!」 恥ずかしそうに言った後、いのは御馳走様と手を合わせた。 「布団はいらなくねぇ?」 「なんでよ?」 「一緒のベッドで寝りゃいいじゃん」 ニヤッと笑っていのの顔を見ると、今日一番の赤面で振り返っていた。 「ば、馬鹿!変な事言わないの!!!」 「だよな。 できちゃった結婚とかした暁にはは、おじさんに殺されそうだもんな」 「はぁっ!!!?」 「やっぱその辺は計画的にしねぇとな。 作戦思案は俺の専門だしな」 「もっ、さ、サイテー!!!!!」 ああ、可愛いな。 って俺は馬鹿みてぇだけど。 ma cherie 今日も愛してるよ って素直に言えたらいいんだけど。