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ペシミストの欺瞞 エゴイストの思い遣り リアリストの空想 表と裏は 対立にあるにもかかわらず 常に接触し、常に拮抗を保つ メセルシスタ・メセルセシスタ 一瞬頭を違う事がよぎり、注意散漫になってしまった。 「雛森君?」 「へっ…あ、ごめん。ぼーっとして…」 「どうしたの?何かあった?」 「ううん、ごめんね」 お互い苦笑い。 吉良君は優しい。 「で、今度の合同訓練の話なんだけど…」 「場所とれたんだ」 「十六訓練場とれたよ」 「凄いね。十六訓練場なら大規模訓練できるね」 「新人への訓練にはちょうどいいと思ったんだ」 「じゃあ、藍染隊長には言っておくね。 ありがと、吉良君」 「あ、ああ…」 ニコリと微笑むと吉良君は顔を赤らめた。 吉良君は優しい。 そして臆病だ。 恒常の崩壊を恐れてる一人だ。 私は知ってる。 知ってて知らない振りをする。 微笑みに貼り付けた偽善。 その行為はきっと罪だ。 だけどそんなことを思う私だって 恒常の崩壊を恐れてる。 対象は吉良君ではないが。 だから彼は優しい。そして賢い。 私の恐れの先が自分でないと分かってる。 始める前の終わりを知っている。 だから彼も無理矢理恒常を破壊しようとは思わない。 何故か?簡単だ。 恋はギャンブルだからだ。 チップはプライド、関係性、愛。 告白というルーレットが終わる時、 それは倍になったり、失ったりするわけだ。 彼は分かっている。 ルーレットを回すことすら無駄だと。 ルーレットを楽しむ人を見て、グラスを傾ける方がよいと。 私もそうだ。 否、そうだったというべきだ。 なぜなら、今ルーレットへ参加するか迷っている。 幼馴染みという関係を 恋人という関係にかえようとしている。 馬鹿だと思う。 今更、何故かと。 理由は至極簡単かつ馬鹿らしい。 先日、彼の部屋に行った時だ。 『雛森』 『んー』 『お前、好きなヤツとかいねぇわけ?』 『へっ!!?な、何いきなり…』 『いや、いつまでも幼馴染みの男の部屋に 出入りしてるから、可哀想な女だなぁーと』 『ひ、酷い!!!あたしだってね、好きな人くらい…』 『いるんだ?』 『そ、それは……』 『誰だよ』 『それは、な、内緒!』 『…なんでだよ』 『し、シロちゃんは子供の癖におませなのっ! いいでしょ、誰でもっ!!!!』 『………』 『もう、シロちゃん…。 だから……』 バタン 次の瞬間、幼馴染みの少年はあたしを押し倒していた。 『いたっ……し、シロちゃん?』 『…ふざけんなよ』 『へ…』 『いつまでもガキじゃねぇんだぞ!!! 幼馴染みだからって、 夜に男の部屋に来るんじゃねぇよ!!!』 『シロちゃん……?』 『俺は………』 苦虫を噛み潰したように、彼は呟いた。 『お前を、ただの幼馴染みなんて思った事ねぇよ』 そう言って、彼はあたしの 初めての口付けを奪った。 なんだか塩辛い、涙の味がした。 その後、あたしは案の定涙を流して 彼の右頬を思い切りぶった。 『……さ、最低だよ…』 そう告げて、部屋を飛び出して どうやって自室に戻ったか記憶がない。 あれ以来彼と会っていない。 口も聞いていない。 本当は、嬉しかった癖に。 あたしは恒常の崩壊を恐れた。 弱さの露呈が恐ろしくて、 彼をぶって 彼を最低呼ばわりした。 そんなあたしが、一番最低だ。 何故、人は嘘をつくのだろう。 何故、思いと反対の事をしてしまうのだろう。 嬉しい癖に怒るのか。 悲しい癖に微笑むのか。 笑いたいのに我慢するのか。 愛してるのに、愛せないのか。 何故、素直になれないんだろう。 何故、いつも子供扱いしてたんだろう。 もう彼はあの頃の子供じゃない。 立派な一人の男だ。 認めなかったのは、あたしの勝手なエゴだ。 幼馴染みでいられなくなるのが、怖かった。 そんなの、彼も一緒だろうに。 でも、彼を傷つけたあたしに何ができる? 『あの時はごめんなさい。 本当は好きだよ。 ずっと一緒にいて』 どれだけ虫のいい女なんだ。 きっと、彼だってあたしに愛想がつきただろう。 傷つけた事を謝って、 彼にはあたしはふさわしくないと告げよう。 そう思っていた。 「雛森副隊長!!!」 「はい?」 副隊長室に飛び込んできたのは、席官。 「第三班が例の虚の魂葬で被害が!! 重症四名、軽症多数!! 至急、応援を!!!!」 「わかりました。 第二班を現場へ。 あたしも直ぐに」 「ハッ!!!」 筆を置き、愛刀飛梅を握る。 開錠した瞬間、嫌な予感が背筋に伝った。 「うわぁぁぁああ!!!!」 「くそっ!!!」 「あぁあぁ、つまんねぇな、死神さんヨォ? 死ねよ、つまんねぇからよ」 「………君臨者よ、 鐵の熱、鋼の涙、鋼鉄の槍、 黒の帳の下に、残虐なる者の胸を貫け 破道の三十、刻屍墜!!!!!」 「ギャァァアアアアアアアア!!!!!!!」 虚の悲鳴と同時に、その体に鉄の杭が突き刺さる。 「皆、大丈夫!!!?」 「雛森副隊長!!」 「有難うございますっ…」 「ああ、副隊長……」 「直ぐに救護班を。残りは魂葬するよ!」 「「はい!!!!」」 貫かれた虚は、荒い息を吐いた。 「ナメるんじゃねぇぇええ!!!!」 虚の鋭い爪が隊員へ向かった。 刹那。 「弾け」 硬質な爪先にフワリと降り立ち、 斬魂刀を解放する。 七つの枝が火球を作る。 「飛梅」 火球は虚の肉体を焼いた。 肉の焦げる匂いと断末魔が辺りを支配した。 虚の命が消えた事を確認して、振り返る。 「怪我人を介抱してね。 至急、尸魂界へ帰還します。 誰か開錠――」 「危ないっ!!!!!」 振り向いた瞬間、虚の光線が右肩を貫いた。 「ぁああっ!!」 「雛森副隊長ッ!!!!!」 右肩を押さえて、虚を見た。 先程の虚ではない。 しかも数が増えている。 こんなに多くの虚が報告されてない…。 頭によぎったのは院生時代の初魂葬実習。 あの時は藍染隊長が助けてくれたが、 今彼は他の長期任務で此方には来れない。 「ふ、副隊長……」 「何をしてるの!!!早く逃げて!!!!」 「し、しかし…」 「命令よっ!!!!」 滴る血液のせいで、うまく柄が握れない。 滑る。 無理矢理構え、敵と対峙した。 「オイオイ…お前だけか?」 「間抜けな死神め」 「ギャハハハハハハハハハ!!!!!!」 「黙れッ!!!!よくもあたしの部下をっ…。 貴方達がやったの!!!? 貴方達、さっきの虚と組んでたのね!!!?」 下品な笑いが鼓膜を震わす。 「ああ、お嬢ちゃん。アンタの言う通りだ」 「にしても、これが副隊長? 死神の力量も底が知れる……」 「ならば、やってみればいいっ!!!」 チラリと後ろを見た。 部下達の姿は遠い。 これなら被害は少そうだ。 くだらない威嚇の会話は時間稼ぎにちょうど良かった。 これで、 あたしが死んでも、誰も傷つかない。 「ああぁぁっ!!!!」 「雑魚いナァ?アァ?」 確認して、気が緩んだ。 虚はなぶり殺す為か、 次はあたしの左足を光線が貫いた。 血が噴き出す。 血が足りない。 ふらつく意識で刀を構えた。 と、同時に。 「ああああああぁぁぁあ!!!!!!」 背中に激痛。 虚の爪があたしの皮膚を切り裂いた。 ああ、くらくら。 死んじゃうのか。 呆気ないなぁ、あたし。 …いないよね、誰も。 ねぇ言っていい? 最期のわがままっていうの 「…………はっ、あ…」 「なんだ、この女まだ生きてるぜ?」 「オイ、早く…」 「…………ご、……め……」 「アァ?ウゼェー」 「命ごいかぁ?ヒャハハハ!」 「……あい………し…て………」 「……た……の………」 「んなことはずっと前から知ってる、この馬鹿」 誰もいない。 だからこれは幻聴だ。 最期に神様がくれたご褒美だ。 身体を包む温かさも 虚の断末魔も 凍てつく霊圧も 最期の幻 神様、有難う あたし、夢でも嬉しかった 涙が頬を伝った瞬間、光が見えた。 「雛森ッ!!!!!」 「……シロちゃ………ん?」 「………良かった……」 「………あたし…」 「あ?」 「…助けてくれたの?」 「…おう」 目が醒めると四番隊の救護室で眠っていた。 どうやら、夢ではなかったらしい。 まる一日寝ていたのか。 午後の暖かな陽射しと 柔らかな風邪が窓から差し込んだ。 「卯ノ花呼んでくる」 「……うん……」 彼はそう言って病室を出た。 なんだか、嘘のようだった。 全部、全部。 けれど、右肩を動かした瞬間に走ったかすかなしびれは 嘘ではないと物語っていた。 「全く、一時はどうなるかと思ったのよ!!」 卯ノ花隊長は数日休めは大丈夫だと仰った。 暫くして乱菊さんがお見舞いにきた。 「あははは…ごめんなさい」 「あんたねぇ!!可愛い顔したって許さないわよー!!」 「松本、傷に障る……」 「何言ってんですか!!! 無茶する子にはお叱りが必要なんですよ!! ってか、隊長。 昨日から寝てないんでしょ! 休んできたらどうなんですか?」 「…別に俺は大丈夫だ」 「そうなの?休んできてよ、日番谷君」 あたしは不安げに彼を見た。 心なしか、隈ができている。 「いや…」 「もう…。あ、雛森!隊長ったらね!」 「松本」 「いいじゃないですかぁー」 そう言うと乱菊さんはニヤニヤして 日番谷君はそっぽを向いた。 「あんたが出た後に話聞いて、 飛び出してっちゃって。 案の定、あんた死にかけでしょ? 隊長、アンタ抱えて卍解で虚十体瞬殺よ? いやぁ、何?これってやっぱ愛の力? あ、もしかしていいムード? 邪魔者は退散しようかしらっ!」 乱菊さんは笑いながら足早に何処かへ行ってしまった。 いいムード処か氷点下だよ、乱菊さん。 あたしはうつ向いた。 彼は何も言わない。 夢でないということは 彼はあの言葉を聞いたのだろう。 何か言うべきだ。 そうだ、謝ろう! うん、そうするべき。 「あ、あのさ」 「どうした」 「こ、こないだ最低なんて言って」 「………」 「ほんと、ごめんっ!!!」 頭を下げた。 影で黒い視界には、掛布団の小さな穴が見えた。 「………あんな事した俺が悪かったから、 謝る必要はない。悪かった」 「う、ううん……」 良かった、仲直りできた。 これで元通り。 そうだ、仲直りの印に林檎剥いてあげよ。 あたしはそう思って、 乱菊さんが剥きかけていた林檎と ナイフを手に持った。 「仲直りの印に、ね。 林檎いる?」 「……ああ」 あたしはゆっくり座り、 右手に包丁を持った。 卯ノ花隊長のおかげで、右肩に痛みはなく、 既にナイフを持つことはできた。 するすると皮と果肉の間に刃を沿わす。 「こうやって、剥いてると昔みたいだね」 「……ああ」 「シロちゃんってば、切った先から食べちゃって」 「……雛森?」 あれ? 「ウサギにするまで待ってって言ってるのに」 どうして? 「ウサギにしても、頑張って、 作った…耳から食べちゃうし……」 あたし……… 「…桃」 「ほんと、昔からシロちゃんって意地悪」 泣いてるの? 皿の上には一匹のウサギができあがった。 変色防止の塩水のかわりは 涙になってしまった。 「雛森」 「あ、あたしは」 「あたしはっ」 「ズルいよ」 「ズルくて、馬鹿で、弱いし」 「日番谷君傷つけるし」 「死にかけるし」 「意地っ張りで、全然……」 「素直になれない」 「ズルくて最低だから」 「今更、素直になろうとして」 「ほんと…ずるい」 「ほんと、最悪」 「ほんと、無神経」 「こんなあたしはシロちゃんになんて」 そう、またあたしは素直になれない 「全然、釣り合わな…」 「いいんだ」 二匹目がナイフと友に皿に降り立った時、 あたしは顔を上げた。 日番谷君はあたしを真っ直ぐ見つめた。 「そういうお前が好きだから」 優しく笑って、涙を拭いて。 ウサギを食べる。 耳から食べる。 あの頃と変わらない。 だけど確実に何かが変わった。 「あたし…も」 「知ってた。 追い詰めて悪かった」 シャリと軽快な音と共に蜜が漏れた。 「お前は、愛してるからこそ 素直になれないんだろ」 嫌われたくないから そう呟くと 馬鹿だな、俺がお前を嫌うわけねぇ それなら、ずっと前から嫌ってんだろ。 ばーか。 彼は笑った。 メセルシスタ・メセルセシスタ 小さなルーレットをまわすふりをしてただけ。 玉は既に当たり目に。 恋と愛はワンコイン。 表と裏と背中合わせ。 あたし達はただコインをめくるだけだった。 だから、彼とあたしは ゆっくりと 水面下で だけど対照的で劇的に そして、素直になっていく そして、 稚拙に恋していく 愛してるから