そんなのありきたりな仮定論に過ぎないのだけれど それはきっと幸福な話 「もし明日世界が終わるなら何したい?」 薄紅色の唇から紡がれた一言 「なんだよ、いきなり」 彼女の思いつきはいつも唐突で たまの非番を二人で自室で ゆっくり過ごしていたのに 「答えて?」 笑顔で興味深そうに尋ねる少女の顔 愁いを含んだ女の顔 「・・・人に聞く前に自分が言えよ」 「えー、それズルイよ」 少し顔を膨らます少女の顔 ほんとは知りたくなさげな女の顔 「ほら、言え」 「ぎゃあ〜、もう日番谷君ッ!!」 二人で少し冷たい畳の上 じゃれあって 火鉢がパチパチいっている 「女が『ぎゃ〜』とか言うな」 「だって!」 二人で馬鹿みたいに笑う でも、彼女は昔そんな風に笑ってたっけ 「あたしはきっと」 冷えた指先を火鉢に近づけて 呟く女 「ごめんなさいって言い続けると思う」 「なんで?」 自分も冷えた指を火鉢に近づける 「今まで傷つけた人  今まで殺した虚全部に」 「そんな事してたら1日なんてすぐ終わるぞ?」 「いいの。でね」 「最後はねシロちゃんの隣で  眠ってね・・・・」 「ありがとうって言うよ」 彼女の背中はこんなにちっぽっけだったか? 何時からこんな切なげで 寂しそうな顔するようになったのかな 一秒たりともその顔を見たくなかったから 小さな彼女の背中を 後ろから抱きしめて 彼女の細い指を覆って 計20本の指を火鉢にかざす 「どうして?」 ああ、彼女が小さくなったんじゃなくて 自分が大きくなったんだと 理解した もう彼女の身長なんて だいぶ前に追い越してる 「だってね」 「彼方は」 「もう一度笑い方を教えてくれたでしょ?」 さっきより腕の力を強めた 自分が泣きそうになった 「もう、苦しいよ。日番谷君。"もしも"なんだから・・」 困った様に振り向いた顔に 呼吸困難になるくらいの 深いのをくれてやった 「もし、明日世界が終わるなら」 「うん」 「明日一日丸ごとお前にくれてやる」 「『ありがとう』の理由・・・また増えちゃったよ」 力はあの時より強くなった 二人とも 彼女の心は脆くなったけど 静かに涙を流す彼女の涙を 指先で拭いて 胸元の傷跡に口付けたら 「えっち」 と無邪気に笑うので 「二回目はよけろよ」 と笑う彼女にじゃれついた ああ、幸せだ