食べられないケーキってなーんだ バースディ 団長はその日上機嫌だった。 その理由を聞けば誕生日なんだという。 聞いたことを後悔した。 強請ってくると思ったのだ、贈り物を。 コイツが強請るものなんてどうせ最悪だ。 だが、彼はにこにこしてるだけで何もしない。 それどころかこんなことを言った。 「ねぇ、阿伏兎」 「あ?」 「今年で俺が春雨に関わって何年か知ってる?」 「・・・・・・15年?」 「そうだよ、アニバーサリーだ。  ね、素敵なケーキを用意しようよ」 「・・?」 「蝋燭はね、そうだなぁ・・・赤がいいなぁ。  俺ケーキを作ってくるね」 「お、おい!」 「阿伏兎はケーキを作ってる間、虫を追い払うんだよ。  じゃないとケーキが汚れちゃうだろ?」 言ってる意味がわからない。 そう思っていると、手首を掴まれ連れて行かれる。 連行されたのはハッチ。 小型船が一隻。運転するように言われた。 「仕事しろよな」 「大丈夫だって。ケーキができたら仕事もなくなるんだ」 「・・・は?」 「ほーら、早く。行先は春雨艦隊母船だよ」 「母船!?なんでまたあんなところに・・・」 「俺はケーキが食べたいんだよ、阿伏兎」 「あんなところにケーキはねぇよ」 「あるじゃないか。15本の赤い蝋燭付きの  まっ白な丸いケーキ」 「・・?」 「わからないなら見せてあげるよ。  そのかわり阿伏兎は、虫払いの役だからね」 意味がわからないとばかりに とりあえず急かされ、運転する。 母船に到着すると、団長は 「元老に会いにきた」 それだけ言った。 滅多に来ない団長が元老に会いに来るのは 緊急の用だと思ったのか、 元老の部下が元老の部屋へ連れていく。 「第七師団長、神威です」 「入れ」 「はーい」 母船の中央の巨大な元老の間。 俺も団長に入るように言われて入る。 十五人の元老が、真白の円卓を囲んでいる。 ・・まさか 「して、神威。お前の用は?」 「ただ、ケーキを作りにきただけです」 「・・・?なんだと?」 「ねぇ、阿伏兎。わかった?」 にこりと振り向いた。 俺はこいつの考えていることがようやくわかってぞっとした。 とりあえず今日が人生最悪の日になるっていうことは よくわかった。 「元老、俺が春雨に関わって十五年になるんです。  今日は俺の誕生日なんだ」 「・・・」 「ええ、記念のケーキを。  十五本の赤い蝋燭をさした真白のケーキがいいんですよ」 「だから、下剋上といきましょうか?」 その言葉を吐いた瞬間、元老達が武器を取りだそうとした。 だが、老いて一線を退いた彼らと 団長の力が同等なはずもなく。 真白の円卓に屍が差されていく。 十五の死体ができた時に 団長は笑顔で振り向いた。 俺は苦笑いだった。 「お誕生日、おめでとうございます」 「海賊王様」 血を見て興奮したのか 真っ赤になった指先を俺の首筋に絡める。 勿論殺気は駄々漏れだ。 「だめだよ、阿伏兎」 唇を寄せられたので、素直に重ねておく。 「まだ・・・まだ違うよ」 「何が?」 「まだケーキに集る虫を殺していないから」 ちうと名残惜しく吸いついた時に 廊下から激しい足音がした。 海賊王様の就任パーティの始まりってわけだ。 ドアが開いた瞬間に 俺達は足を踏み込んだ。 「生きてる?」 「勝手に殺すな」 とはいいつつも満身創痍。 周りには屍の群れ。 団長・・いいや海賊王様のおっしゃった通り この母船の船員は全て皆殺しにした。 「海賊王になった感想は?」 「あっけない」 「そうかいそうかい。で、これからどうするんだよ。  アンタは元老みたいに椅子に座って指示出しをするような  タマじゃねぇだろ。どうすんだ」 「うーん・・・そこまで考えてなかったなぁ」 「アンタなぁ・・・」 「そうだなぁ・・とりあえず」 「船に帰ってケーキ食べよう。本物のケーキ。  俺の誕生日兼海賊王になった記念パーティー」 そうやって無邪気に見上げてきた団長の頭を撫ぜて、 プレゼントは何がいいんだともう一度問う。 「お前が一生俺の尻ぬぐいしてくれたらそれでいいよ」 「なんて最悪なプレゼントだよそれ」 「でも、してくれるんだろ?」 「・・・給料はしっかり頂きますよ、海賊王様」 「身体で払ってやるよ」 「言ってろ」 血みどろの身体で 二人して怪我を負って。 今俺達は狂喜の表情を浮かべてる。 ああ、やっぱり、アンタがいいや。 戦闘後のぬるい快楽を分かち合うために 指を絡めた。