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(ミツバ死後)

互いに愛するものが離れる痛みを知っている。



















































星屑と涙

























































ある朝起きたら、銀ちゃんがいなかった。

また朝帰りか。マダオが。

どこかで飲みつぶれているのだろう。

そんなことを考えていた。


案の定昼くらいに帰ってきた。

けれども、銀ちゃんは全く酔ってはいなかった。


「おかえり」

「おう、ただいま。神楽」

「飲んできたんじゃないアルか?

 何してたネ?」

「・・まぁ、野暮用だ。俺ァ今から寝るから。

 夕方まで起こすなよ」

「・・う、うん」


何も言わず、部屋で布団を敷いた銀ちゃんの後ろ姿は

なんだか声を掛けづらかった。


息苦しくて

銀ちゃんの部屋から出ようとした。


「なぁ、神楽」

「何ネ?」

「お前、黒い服って持ってたか?」

「・・黒い服?・・・一着だけ。でも着たくないネ」

「・・・・・」

「あれは喪服用ね・・。って・・じゃあ・・」

銀ちゃんは一つ寝返りを打って言った。







「ああ、夕方通夜行くから」






私はその言葉に驚いて、目を見開いた。


「・・・誰か・・死んだアルか?」

「・・お前は直接的には知らねぇけどな」

「・・誰、アル?」

「よく見知ったヤツのねーちゃんだよ。

 今晩通夜らしいから。わかったな」


それだけ言うと銀ちゃんは寝てしまった。

見知ったヤツのねーちゃん。

私の知らない人。

それでもやっぱり、誰かが死んだと知ると心が痛いのはどうしてだろうか。








夕方、銀ちゃんと、

黒っぽいのチャイナ服を着た私は家を出た。

新八や姉御は来ないらしい。

私と銀ちゃんだけ。






銀ちゃんはまだ誰のねーちゃんが死んだかは教えてくれてなかった。






ついたところは、意外にも真選組の屯所だった。

見た目はいつも通り。

皆制服着てうろうろしてる、税金泥棒達。


でも門のところでジミーが待ってた。



「よぉ、ジミー」

「あ、チャイナさん、旦那、おはようございます」




屯所の廊下をジミーに案内されながら歩いた。

そう言えば、まだゴリやマヨラーやサドの姿は見てない。

私はくいっと銀ちゃんの服を掴んだ。



「ね、銀ちゃん」

「あ?」

「・・誰ネ?まだ聞いてないね、私」

「ああ、そうだった。あれだよ、沖田君のねーちゃんだよ」


私は驚いて、目を見開いた。





「・・アイツの?」





ジミーが苦い顔をしながら、口を開いた。


「病気でね・・。江戸に来てたんですけど、昨日の夜病院で亡くなられてね」


ある部屋の障子の前についた。

ゴリとマヨが話していて、こっちに気づいて「よぉ」と声をかけた。



「チャイナさんも来てくれたのか、有難うな」

「おう」



ゴリが苦笑いをしながら、私の頭を撫ぜた。


「・・神楽はなんだかんだで沖田君と仲良いからな」


銀ちゃんがぽつりと呟いた言葉で私がここに連れてこられた意味がわかった。

あいつ・・・は・・?




「ゴリ、アイツは?どこネ?」




「ここにいまさァ。クソチャイナ」





障子が開いて、部屋の中からサドが出てきた。

でもその顔にいつものような表情はなくて、

寝てないのかどこかやつれてた。

目元は泣きはらしたのか腫れていた。





「沖田君、どうも。数時間ぶり」

「どうも。線香あげにきてくれたんですかィ?」

「ああ」

「有難う御座いまさァ。どうぞ」




畳の部屋の中には、箱が一つ。

真白の花が左右に二つ。

不思議な匂い。

小さな煙の後ろで黒い額縁の中で笑う綺麗な女の人。





銀ちゃんについて、木の箱の前に立った。

木の箱の中では写真で微笑む女の人が

静かに眠っていた。

真白の着物に身を包んで

花に囲まれて、

静かに静かに眠ってた。




姉弟というだけあって

サドによく似ていた。






銀ちゃんに言われた通り、

手を合わせて、

見よう見まねでお線香をあげた。





「旦那、色々有難う御座いまさァ。

 姉上も感謝してると思いまさァ」

「俺は大したことはしてねぇよ。

 あ、やべ」

「・・?どうかしましたィ?」

「あれだ、激辛煎餅買ってくるの忘れたわ。

 ちょっくら買ってくるわ」

「え、あ、旦那?別に・・・」




銀ちゃんはそれだけ言うと部屋から出て行ってしまった。

私はそこに取り残されて、どうしたらいいかわからなかった。




「・・・激辛・・煎餅?」

「・・・姉上が好きだったんでさァ」



サドはそれだけいうと

疲れたのか畳に座り込んだ。

私も隣に座った。



「・・・綺麗アルな」

「・・・?」

「お前のねーちゃん、とっても美人アル」



棺桶を覗きこむ。

そこにいるのは確かに死人だったけれども

顔立ちがとても美しかった。



「・・だろィ?自慢の姉上ですぜ?」

「お前とは違って性格も良さそうだしナ」

「両親が早くに亡くなって、ずっと親代わりに俺を育ててくれたんでさァ」

「・・・・・・・」



寂しそうな表情で(それは私が知らない彼の表情で)

彼は冷たい姉の頬を撫ぜた。



「これから、もっと恩返しして、幸せにするつもりだったんでさァ」



泣きそうな顔で、必死に涙をこらえる顔で

頬を撫ぜる姿は、ふつふつと思いださせた。




あの日の自分を。




だから思ったのだ。














「違うネ」

「何が?」





「お前の姉ちゃんは、幸せ者ネ」














私は頬を撫ぜる彼の手に

自分の手を重ねた。











「皆、皆、こうやって集まって

 御見送りしてくれてる」

「それに、お前が」








「こんなに、愛してくれてるアル」








「私、マミーが死んだ時、一人でマミーを見送ったネ」

「・・・チャ・・イナ・・」

「だからきっとマミーは寂しかったと思うネ。

 私、マミーの手、握ることしかできなかったネ」



「でも、マミーは」






涙が、不意に零れてきた。

重なる手の上に落ちる。











「『愛してるね、神楽。愛してくれて有難うね、神楽』

 そう言ったアル」






「だから、きっと」
















「マミーも、お前のねーちゃんも、幸せだったに違いないネ」













「お前がいっぱい愛したなら、いっぱいいっぱいねーちゃんのことを思ったなら」












「お前のねーちゃんは絶対幸せだったアル」

「じゃなきゃ」









「こんなに綺麗な死に顔にはならないアル」







「だから・・・・・っ」


















不意に後ろから抱き締められた。

私の掌の下にあったはずの手は

私の身体を苦しいくらい掻き抱いていた。






項に唇の感触を感じた。

その唇は濡れていた。

生温かく、それはきっと












「チャイナ」





「絶対振り向くんじゃねぇ」










その言葉を聞いて、私は溢れる涙を止めることができなかった。




「私は、お前のねぇちゃんのこと、きっと好きになれたと思うアル」



「でも」











「お前は嫌いアル!」









そう言って、思いっきり振り向いて、

亜麻色の髪を抱き締めた。








「・・お前・・」

「だから・・っ!お前の言うことなんて、絶対・・っ・・絶対聞かないネ!」






「・・なんで、お前が泣くんでさァ」

「お前が・・お前がムカつくからアル」

「・・・・」

「お前があの時の」









「私みたいで」










その言葉を呟いた後

ゆっくりと大きな腕が私の背中にまわった。

けれどもそれは震えていた。

とてもとても弱い気がした。

















「私、忘れてあげるネ」

「・・・」

「今日の事は、さっぱり忘れるネ」


「だから」


























「一緒に泣いてヨ」

















































黒のチャイナ服の背中が苦しいくらい掴まれたのが分かった。

私は一層強く彼の頭を抱き締めた。


「・・・う・・・え・・」



「・・・・・・・・・」





「あ・・ね・・うえ・・っ・・・」





いつのまにか二つの嗚咽が聞こえてた。
















































いつの間にか二人して、泣き疲れて眠ってたらしい。

目が覚めると、違う部屋で布団をかけられて

サドと眠っていた。





その寝顔は幸せそうで





きっと、あの綺麗なお姉さんと

笑ってる夢を見てるんだろうなって

思った。










障子をあければ、空は真っ暗だった。

でも星がキラキラ輝いていた。







「マミー」




「私の大好きな人の大切な人がお星様になったネ」



「だから」



「優しくしてあげてほしいネ」



















































輝く星が死した人だというのなら

その星が瞬きは、きっと

死者を愛した人達の涙なのかもしれない。