瞳には、切なさと憂いと恐怖を



















































恋する感度 2



















































ファミレスに入って、向い合わせで座る。

メニューを開いた。


「神威」

「決まった?っていうかお前に名前呼ばれると苛々するな」

「煩いネ。私、ハンバーグセットにライス大盛りで

 ストロベリーパフェとドリンクバー」

「じゃあ俺はステーキセットにライス大盛りで

 チョコレートパフェとドリンクバー」

「パフェじゃねーのかよ」

「お前こそ」

「私は小腹が減ったアル。あと、ムカつくやつからはとことん

 金を絞りとるアル」



やってきたウェイトレスに注文を通す。

ドリンクバーは御自由にということで。



「神楽、俺メロンソーダ」

「・・・・」

「奢ってやったんだ、それぐらいやれよ」

「分かったアル。メロンソーダとコーラのミックスアルな?」

「うん。メロンソーダだけ入れてこい」


私はグラスにメロンソーダとオレンジジュースを入れて

アイツの前にメロンソーダのグラスを置いた。




「・・・で、話って何アルか。

 返答次第ではぶちのめすアル」

「ここで?死人が出るよ?俺とやったら」

「お前が死ね」

「いや、死ぬのはお前だから」




カランと音を立てて氷が解けていく。

私は汗をかく手を必死に握りしめながら

神威を睨んでいた。




「仕事の話さ」

「・・・仕事?」

「そ。俺が今回来たのはね、春雨の物資の調達だよ」

「・・・・」

「商売道具さ」

「・・・薬アルか?転生郷か?」




少し驚いたような素振りを見せた後、

神威はにやりと笑って頬づえをついた。



「よく知ってるね」

「春雨とはお前と会う前に二回やりあったアル」

「へぇ・・・じゃあもしかしてあの地球での下っぱが

 やられたってのはお前も絡んでたわけ?」

「こっちも仕事アル」

「そうか。ふーん」



昔の優しさが戻ったような笑みを浮かべて

神威は私の頭を撫ぜた。

突然のことだったので、私は頬を赤くした。



「何アルか!」

「いいや、暫く見ない間に強くなったと思ってね。

 俺の後ろをちょこちょこついてきてたあのウザい妹が

 こんなに大きくなってるとは意外だったよ」

「さりげなくウザいって言ったアルな」

「母さんは」



思わず目を見開いた。




「死んだらしいね」

「・・・っ・・だったら何アルか、お前には関係ないアル!

 家族捨てて、マミーも私も捨てて、パピー殺そうとして!

 そんなお前が今更何アルか!何がしたいネ!」




思わずテーブルを叩いて

立ちあがった。

他の客の視線がこちらを向いた。

私は恥ずかしくなって、でもこの苛立ちを隠すことができなくて。

俯き、涙をこらえていた。




「失礼します。ステーキセットとハンバーグセットになります」




ウェイトレスは私達の前に料理を置いて、戻って行った。




「・・・話は食べ終ってからでいいや。

 食べよう、神楽」



神威は私の方へ大盛りのライスと

ハンバーグセットを寄せた。

私は一つ頷いて、箸を取った。










こんなことしないでほしかった。

むかしにもどれるんじゃないかって

あのころにもどれるんじゃないかって








やさしいおにいちゃんにもどってくれるんじゃないかって








きたいしてしまう



決して叶わないと知っているのに。















































「見回りの最中に済まなかったな、トシ、総悟」


近藤さんはそう言うと苦笑いをした。


「で、緊急召集の理由は?」


近藤さんの前に二人で腰を下ろした。

近藤さんは一気に顔を変えた。




「実はな、今夜港で宇宙海賊春雨の幹部が取引を行うらしい」

「・・!春雨だと!」



宇宙海賊春雨といえば、宇宙では最大規模の海賊集団。

捕まえれば、真選組の名も上がる。


「だが、捕まえてしまえば・・内通がある幕府上層部から

 更に圧力がかかることは間違いあるまい・・しかし」

「・・・・近藤さん、奴らは何を取引するんでさァ」

「・・・女だよ。

 不当な人身売買で集めた女性を宇宙で売りさばくらしい」

「その情報、本当なのか?」

「・・ああ。春雨の人間からの密告だった。

 裏も取れた」

「・・・なら、行くしかねぇだろ」



そう言うと、ほっとした表情で近藤さんは俺達を見つめた。



「お前達ならそう言ってくれると思っていた」


「・・近藤さん・・」

「今夜、一斉検挙する。

 トシ、各隊の通達を頼むぞ」

「ああ」











































「今回は転生郷じゃないんだよ。
 
 あ、そのエビフライ頂戴」

「・・じゃあ、何アルか?

 あと、エビフライ様は私のものアル。

 てめぇのステーキ二切れと交換なら考えるアル」

「んー、女だよ。

 あと、エビフライくらいでグチグチ言うな、妹よ」

「は!?

 あ!!っつーか!食べた!私のエビフライ!」



神威は私の皿からエビフライを一本強奪して

口に頬張った。


「やっぱり地球のご飯はおいしいねー」

「・・覚えてろよ、テメェ・・」




私は睨んで、オレンジジュースを一気飲みした。




「・・・で、女ってどういうことアル?」

「だからー、人身売買だよ。

 人間の女は結構そこそこで売れるんだよ?

 まだ吉原の女の方がマシさ。

 宇宙の裏世界のオークションで売られる方が可哀想だよ。

 変態趣味のオヤジばっかりだよ」



神威はぞっとするようなことをいいながら

ステーキを口に押し込んでいく。



「今夜取引なんだ。で、その取引の春雨側の代表が俺ってわけ。

 まぁ吉原の実権を俺が握ることになったしねー。

 こういう仕事も俺にまわってきちゃってわけだよ。

 いい迷惑だね」



御馳走様、と神威は手を合わせて

デザートに手を伸ばした。

それって御馳走様って言わない。

そんなことを思いながらも私も同じようにして

パフェに手を伸ばした。









































「おい、総悟」

「なんですかィ?」

「あれ、チャイナとチャイナの元彼じゃねーの」

「え?」



見回りに戻った俺達が

ファミレスの前を通ると

ガラスの向こうの客席に

チャイナとさっきの野郎が仲良く飯を食っていた。

男は白い包帯を全て外していた。





透きとおった白い肌に、

桃色の長い髪、

青い目






チャイナそっくりだった。


「元彼っていうよりは・・」


その男はチャイナの頬についた生クリームを

掬い取って舐めた。



「・・・・・」

「・・・・・・・やっぱり元彼?ポリゴン?」



チクリと胸が痛んだ気がするのは

気のせいだと思った。









































「でね、暇だからって賭けをしたんだよ。阿伏兎と」

「・・・」

「そしたら俺が負けたんだ」

「それが私に何の関係があるネ」

「まぁ、最後まで聞けよ。

 負けた方が勝った方の言う事を聞く。

 阿伏兎の要求は、うちの団の人員増員さ」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「第七師団は春雨最強の部隊だ。

 人員が減ったのは俺が暇つぶしに殺したせいもある。

 だから俺が説得してこいって言われたんだ。

 アイツが誰を御所望かわかったか?」

「・・・まさか」

「そうだよ、神楽」



生クリームののったスプーンの先がこちらへ向いた。




















「お前だ」



















私は鼻で笑った。


「馬鹿アルか!んなこと言われて私が行くわけないネ!」

「そうだね、お前は地球が大好き。人間が大好き。

 戦う事に怯えてる弱い子だからね」

「違うネ!私は、自分の戦場は自分で決めるアル!

 大切な人を守るために戦うアル!」

「そっか、じゃあ」









「さっきのお巡りさんは・・お前の大切な人?」









神威の視線が私を射抜いた。

私は・・何も言えなくなった。




「・・・何言ってるアル。私は銀ちゃん達が大切アル」

「そっか。だよねー、汚職警官とか言ってたもんね。

 だったら」





























「真選組、壊滅させたってお前は痛くもかゆくもないわけだ」








































「・・・何言ってる・・アル・・・か・・」

「実はね、この賭け決まってから
 
 ちょーっと俺の部下にお前のこと調べさせたんだ。

 そしたら真選組とかいうのが出てきてさー。

 結構仲良いみたいだねー。

 真選組ってさー俺達の商売がたきだろ?

 それに結構動きもウザいしー、そろそろ消そうかなーって

 上も言っててさー。この際消しちゃおうっかってことになったんだー」

「・・・!?」

「・・今夜の取引、わざと阿伏兎に密告させた。

 これだけ大きな組織の取引だ。

 向こうも大規模で出なくちゃいけないだろ?」

「・・向こうとお前らじゃ人数が違うネ・・」

「何言ってるんだい?人と夜兎の違いはお前が一番わかってるんだろ、神楽」






スプーンが落ちた。

からりと音を立てて。

神威は紙を一枚取りだすと立ち上がった。

伝票を持って。






「今日の取引場所だよ。

 止めたきゃおいで。

 お前に止める方法は一つだけ。

 俺達の部下になること。

 生憎真選組壊滅は俺達の主になる任務じゃない。

 ついでってくらいだ。時間がなかったーとか言えば、上は納得する」

「・・・・」

「待ってるよ、神楽」

「・・・お前は私に興味なんかないはずアル」

「ああ、全く。でも、屑でも夜兎一匹いればそれなりに仕えるってものさ。

 ただでさえ少ない部族だしね。じゃあね」







またあの大きな手が私の頭を撫ぜて。





「お会計は兄ちゃんがしておくから。

 これ以上食べるなら自分で払えよ」







私はただただ、その言葉を呆然と聞いていた。


















































いつもあいつはそうやって

やさしくやさしく


そしてざんこくに




わたしのせかいをつぶしていくんだ