世界は一度だって

私の言うとおりに動いてはくれやしない。



















































恋する感度 3



















































神威が出て行った後、私はどうしようか考えた。


真っ先に考えたことは

銀ちゃんや新八は巻きこめない。そう思った。


これは私の問題だって。



次に真選組のこと。

ゴリラだって、マヨだって、ジミーだって、


サド野郎だって。


なんだかんだ言って悪いやつじゃない。

死んでなんて・・・欲しくないに決まってる。


傘を引っ掴んで立ちあがると

私は駈け出した。






私はサドを探すことにした。

よく行く駄菓子屋。

いつもの公園。


公園の時計はもう4時を差していた。



でも見つからない。




もう、場所は一つしかないのはわかってた。

それでも行きたくなかったのだ。

それは、どこか後ろめたい気持ちがあったから。










取引の春雨側の関係者のトップが

自分の実の兄だということに。

















真選組と木の板がかかった屯所にきた。

中はバタバタしているようだった。

勝手に入る。

早く、マヨとかゴリラとかサドを探さないと、

そう思って。






「あれ?チャイナさん?」




振り向けば、ジミーがいた。



「どうしたの?」

「ジミー!サドはどこネ!サドじゃなくてもいいアル!

 ゴリラでもマヨでもいいネ!」

「え!?今から大きなヤマの一斉検挙があるんだよ。

 それで皆駆り出されちゃって・・」



その言葉に愕然とした。

神威が言った取引時間までまだ3時間以上あるのに。



「もう、皆出てったアルか!?」

「・・え・・あ、ああ。ごめん。まだ出動はしてないけど

 今3人は会議・・・」

「会議ってどこでしてるアルか!」

「ちょ、チャイナさん!苦し・・っ」



ジミーの胸倉を掴んで聞きだそうとした。

早く言わなきゃ。

行っちゃダメだって。

早く















「チャイナ、何してるんでィ」














後ろを振り向けば

帯刀したサドが私を見下ろしていた。



「サド」

「お前との決闘はまた今度でさァ。

 今から仕事だ」

「だから!」

「遊んでほしけりゃ、一緒に仲良くパフェ食ってた

 元彼とでも遊んでろィ」


その言葉に目を見開いた。


「見てた・・アル・・か?」

「別にお前がポリゴンと付き合ってる過去があっても

 どうも思わねェ。ただ仕事の邪魔はするな」



真剣な瞳で見下ろしてきた。

私は負けじと睨んだ。




「いつもサボってるヤツがよく言うネ」

「今日は訳が違うんでさァ」

「そんな大取り物があるアルカ?」

「そうでさァ」




サドはぐりぐりと私の頭を押すように撫ぜた。




「宇宙海賊春雨っていう極悪組織の幹部が人身売買で

 江戸に来て取引をやるらしい。

 正義のお巡りさんはそれを阻止して

 幹部を捕まえなきゃいけねぇんでさァ」




やめて



「だから お前との決闘は」



やめてって









「また今度だ」









アイツと同じように頭を撫ぜないで









































そうやってお前もあいつみたいに

私の前から消えてくの?
















































「行くな」




声が震えてた。

頭を撫ぜる手が止まる。




「チャイナ?」

「チャイナさん?」




頬から一粒涙が零れた。














「お願いだから 行くなヨ」













大粒の涙が零れた。

怖かった。

怖くて堪らなかった。




私はまた 失うんじゃないかって

アイツは また奪ってくんじゃないかって









「ぷっ・・何泣いてるんでさァ。

 今から死にに行くわけでもねぇのに」

「・・死ぬぞ」

「・・・・・・・・・・・・」












私は頭に置かれた手を取って、両手で握りしめた。
















「お前ら、このままじゃ全員殺されるアル」














サドの表情が変わってく。


「だから、行っちゃ駄目アル」

「お前、何か知ってるのか?」

「・・・・罠・・アル・・」

「・・・?」



私は声を張り上げた。



「密告は罠アル!わざとお前らを殺すために
 
 密告して誘い出す気アル!」





「だから 行くな!」





「お前らじゃ、アイツらに・・・





 アイツに・・




 勝てない・・」




「・・・チャイナ、お前何を知ってる?

 言いやがれ」




「・・私がしってること全部言えば

 お前らは行かないアルか?」




「・・・それはできねぇ」






私は顔を上げた。

怒りとやるせなさでいっぱいだった。






「なんでアルか!」

「この一斉検挙は近藤さんの指示でさァ」

「そのゴリラもこのままじゃ殺されるアル」

「近藤さんも俺達もそんなヤワじゃねぇよ」








「ヤワとかそういう問題じゃないアル!

 人間が本当に夜兎の相手になると思ってるアルか!?」









思いっきりサドを殴った。



「テメェ・・!」



刀を抜こうとしたサドに追い討ちをかけるように

蹴り倒す。

倒れたサドの上に跨って、首に手を掛けた。





「・・私にすら、こんなに簡単にマウント取られてるじゃねーカ」

「退けよ、チャイナ。今なら三倍返しで許してやらァ」

「お前らみたいなのが、夜兎に敵う筈・・無いアル」






がやがやと騒ぎ始めた。

人が集まりだす。

ジミーがあたふたしてる。





「オイ、うるせぇぞ!・・って万事屋のチャイナ!?」

「あれ!?チャイナさんじゃねーの!どうした?」




私は、傘の銃口をサドの首に向けた。





「オイ、ゴリラ」

「ん?」

「今夜の一斉検挙、やめるアル」




「じゃないと、今ここでコイツを殺す」






その言葉にざわつく。



「ハァ!?何言ってんだ、テメェ。

 っていうかなんでそれをお前が知ってるんだ!」

「密告は罠アル!お前ら全員殺されに行くアルカ?」

「チャイナの話によると敵は夜兎みたいですぜィ?」

「なんだと!?」




唇を噛みしめた。







「・・ただの・・夜兎じゃないアル・・」

















「パピーの片腕を奪ってくようなヤツネ。

 誰だろうが立ちふさがれば笑って殺すアル。

 アイツにとっちゃ人なんてゴミと一緒アル・・・」
















「・・星海坊主の・・片腕だと・・?」


「・・だから・・!」


「・・チャイナ・・もしかして

 テメェが元彼とか言ってたあの男の事ですかィ?」


「・・・だったら、何アルか」





「それはテメェの私情だろィ。俺達は私情で動いてんじゃねぇよ」




知らない目だった。

いつも馬鹿みたいに一緒に喧嘩してくれる時の目じゃなくて。

冷たい冷たい目だった。


そう あの雨の人の

















『弱いやつに興味はないよ』


















首の数センチ横に思いっきり銃口を突き刺した。

サドは私をその視線で見つめてた。






「私情で何が悪い」

「お前らだって、誰かを助けたいっていう私情があるから

 行くんダロ」

「女の人は私が・・助けに行くアル」



「お前みたいなの一人で何ができるんでィ」




「それでも それでも・・っ・・!」


























「私はもう二度とアイツが大切な人を傷つけてくところなんて

 見たくないアル!!!!!!!!」






































ぽとりと涙がサドの頬に落ちていった。

サドは複雑そうな表情で私を見ていた。



「お前らなんて、ムサいただの汚職警官共だけどナ!

 見捨てようなんて鼻っから思ってねぇんだヨ!」


「アイツだけには・・アイツだけには・・絶対・・!」









「絶対殺させたくないアル・・・!」










ふとサドの指先が動いた。

私の頬に伝う涙を拭いて。





そして












「俺らだって、プライドってもんがあるんでさァ

 悪ィな、チャイナ」












視界がブラックアウトした。



















































「ねぇ、阿伏兎」

「ああ?」

「俺、もしかしたら人の恋路を邪魔したかもしれない」

「は?」

「妹の恋路とか」

「・・いつからシスコンにジョブチェンジしたんだ?」

「男は皆シスコンでマザコンなんだよ」

「どんな座右の銘だよ」




時計の針が動いた。



「さぁ、行こうか」

「おう」



針は六時を指していた。















始まるのはシンデレラの舞踏会ではない。

それは、赤い靴の舞踏会。