少しだけ眠い。



















































まどろみ



















































今日は何もない。

今日は休暇日だから。

戦闘もない。することもない。

(あっても阿伏兎に押し付けるけど)



ごろごろと自室のベッドに転がって

乾燥機によってぽかぽかになった布団は

柔軟剤の匂いがした。



目を閉じて、思い浮かべるのは

いつか見た人の笑顔。

もう瞳に映ることのない人の笑顔。





「かぁ・・・さん・・・」




呟きだけが響いて虚しさが増していく。




髪を結ぶことも億劫で、

ご飯を食べることもなんだか今はしたくなくて。




募る寂しさに苦しむ自分が嫌いで嫌いで嫌いで。




しゅっと自室のドアが開いた音。

同時に目を瞑った。

今はアイツに小言を言われて笑って返せる元気がないから。

寝てるふりでもしておこう、と。




「団長。起きろ、こら」



ぎゅっと布団を抱き締めて、阿伏兎と反対側に寝返りをうつ。




「飯、いらねぇのか」

「・・・後で食べるよ」




そう言えば、阿伏兎は驚いたのか肩を掴んで身体を逆転させた。

瞼を開ければ、阿伏兎が俺を見つめている。

大きな手が、俺のおでこを覆った。




「・・熱はねぇみたいだが」

「・・しんどいわけじゃない」

「どうした」

「どうもしない」

「そうか」

「うん」

「俺が出ていった方がいいか」

「居てほしい」




阿伏兎は苦笑するかのように溜息をついて、

俺のベッドに腰を下ろした。




「・・大した頭もねぇのに考え事ですか?」

「・・・ん」




ああ、そうだ。

どうして、今日はこんなに苦しいのか

思い出したよ。





「・・・阿伏兎」

「あ?」

「夢をね、みたんだ」

「・・・・」

「かあさんが笑ってた」





髪を撫ぜていた手をきゅっと握れば

握り返してきた。






「かあさんが笑ってて、神楽が笑ってて」






「あいつも、笑ってて」







でも俺は泣いてるんだ。























「ほんとはさ」


「いつも、一人だったから」





















俺はいっつも上辺だけで

本当はいつも心は一人ぼっちで

でも母さんだけは俺の気持ちをわかってくれて

何も言わずに抱き締めてくれたり

何も言わずに笑ってくれたりしたんだ。





















「俺はね、甘えん坊なんだよ、阿伏兎」




















「で、寂しがり屋なんだ、兎だからね」




















「そうか」




















起きあがって、阿伏兎の肩にこつりとおでこを寄せた。

阿伏兎は暫く動かずに、

でも、

左腕で俺の腰を抱き締めて、髪に顔を埋めた。





「くすぐったい」

「黙ってろ」





指先が顎に来て

くいと持ち上げられた。

触れるだけの口付けで、

耳元で一言呟いて。


阿伏兎は部屋を出て行った。



















































「そんなこと言うから、お前が憎くなるんだよ、ばか」



















































俺がいる、一人じゃない


そんなこと言わないでくれよ。

本当はこんな弱音、鼻で笑ってほしかったのに。





絡めた指先が熱い。

唇が震えてる。

こんなに胸が鼓動してる。



















































『お父さんのこと、どうして好きになったのかって?』





『神威もわかるよ。お前はいくら男のなりが好きだからって』





『女の子なんだから』



















































知りたくなかったよ、母さん。

こんなに胸が痛い。























だけど、今は



















































この熱と残り香でまどろんでいたいから。