世界で一番罪深い聖母



















































修羅に生きる聖母が望む世界



















































とある星の国の話である。

そこの政府はあまりにひ弱で

あまりに知がなく。

多生する植物が転生郷の原料になることも知らなかった。

春雨は目をつけて、無断で使っていた。

だが奴らはそれが使える事を知った。

そして俺達に売るようにしようとした。

だが、彼らはほとんどと言っていいほど武力が無く。

だから俺達はその星の国を

潰すことにした。そして、植物の利権を根こそぎ奪うことにした。

一番簡単なのは宇宙船からの艦砲射撃だけれど

それをやると植物の生える森にも影響するかもしれないということで。

第七師団を中心に殺戮を行うことにした。




あっという間だった。




銃を持っていても俺たちからしたら何十年も前の旧式。

大砲なんていつの時代の?

武装した兵士なんて最強の部隊の


団長によって、あっという間に殺されていった。
















武装放棄させ、戦闘は終了した。

部下に捕虜や女子供を集めるように命令した。

上の命令でここは転生郷原料を作るための

農場にするからだ。

ここの人間にはちゃんと働けば上の人間も

食料も供給すると言っている。

第七師団を投入したのは

犠牲を最小限にして、こちらの戦闘力が

高いことを示して戦意喪失を誘うことで

使える人間を増やすという効率のよい考えの元での判断だった。








誰も人がいなくなり、

そこらに死体が転がり

少しの戦火が上がっていた。

俺は団長を探していた。

戦闘が終わってから姿が見えなかったのだ。










ふと、目に入る建物があった。

その国の大きな建物の一つ。

大きな教会みたいだった。

壁が少し崩れていたが

ほとんど、そのままの状態で残っていた。






階段を上り、ぐらついた扉を開ける。

中はとても薄暗い。

左右に長椅子がいくつも並び

一番奥に見知らぬ聖母の像。

そしてその後ろにはステンドグラス。

そこから光が差し込み神の像の前に

まんまるの光が差しこんでいた。

まるで祈りの場所を示すかのように。







そしてその光の中では

見知った男が横たわっていた。

光の中で胎児のように丸まって。







負傷したのかと思い、駆け寄る。

桃色の髪を解いて

光の中に散らばらせていた。

長い睫毛で縁取られた瞼は

閉じられていた。





何かに似ていると思った。














「団長?」












名前を呼べば、団長はゆっくりと睫毛を揺らして

瞼を上げた。

俺の姿をその蒼い瞳で取られると

とても嬉しそうに微笑んだ。




「今、お前に会いたかったんだ」

「・・俺も会いたかったですよ。

 色々事後処理っていうのが残ってるんですよね。
 
 団長がしなきゃいけない仕事がね。」





皮肉を一つ述べれば、それを無視して自分の話を続けた。





「ねぇ、阿伏兎」

「なんですか?」

「そこに、この国の宗教の聖母の像があるだろ?見てみろよ」

「・・・はぁ・・・?」

「凄く面白いことに気づくから」






言われた通り、寝ころぶ団長の前にある聖母像を見つめた。

違和感を感じる。







「戦ってる時にさ」






言葉をつづけた。






「髪紐が切れたんだよ。仕方ないからこのまま戦ってたんだけどさ。

 そしたら敵の兵士が凄い目で俺を見るんだ」






「なんて言ったと思う?」








そして、俺はやっと気づいた。

コイツが言いたい事に。












































「『聖母様、何故俺達を御救い下さらないのですか』」


















































女神はこの男によく似ていた。

どちらかと言えば女のような顔立ちのこの男に。


「とんだ皮肉だよね。

 信じていた神様そっくりのヤツに殺されるなんてさ」


「・・そうだな」


俺は団長の隣に腰を下ろした。




「俺さ、言ってやったんだ」

「・・?」




「『神様は自分が望んだ世界しか作らないんだよ』って」




「ひでぇヤツだ」

「信じていた神に殺されると錯覚して死ぬよりマシだろ?」





そのまま寝ころぶ団長の隣に寝ころんだ。

二人で横になって、団長そっくりの女神像を見つめた。





「アンタが神の世界なんて想像するだけで恐怖だな」

「でも俺の名前に『神』っていう字入ってるよ」

「・・・『神威』って書いて『しんい』って読むって知ってるか?」

「何ソレ?」

「・・・アンタ、親に名前の由来とか聞いたことないのかよ」

「阿伏兎はあるの?」

「・・ねぇけど」

「で、その『神威』って何さ?」

「神の威光っていう意味なんだってさ。神の偉大さとか。そういう意味」

「へぇーそんな意味あったんだ。ハゲにしては良い名前くれたんだねぇ」




なんとなく、聞いてみたいことができた。




「なぁ」

「ん?」

「アンタが神ならどんな世界を作るんだ?」

「・・うん?変なこと聞くんだね」




団長は左手を俺の方へ寄せた。

俺の右手に触れた。

やんわりと握れられたので

やんわりと握り返す。






「そうだなぁ・・俺はね、神にならなくたっていいんだよ。

 神なんて信じてないし。誰かの上に立つのだって本当は面倒なんだよ。

 団長だってさ、阿伏兎とかが面倒なことやってくれなきゃ

 絶対やりたくないしさぁ」

「・・・あのなぁ・・」




俺は一つ溜息をついた。今更だけれど、こいつはこういう男だと。




「・・でももし俺が神になるなら」





「俺が望むのは3つかな」

「・・3つ?欲がねぇな」

「うん。俺って単純だろ」

「わかってんじゃねーか。で、何を望むんだ?」







「一つは常に俺が戦いの中にいること」

「アンタらしい」

「二つめは漬物とご飯があること。

 さすがにこれがないと戦いの中にいれないからね」

「・・・確かにな。もうアンタらしいとしか言えねぇよ」

「三つめは」


















































「阿伏兎が俺の傍にいて、

 セックスできたらそれでいいや」





















































そう言って俺に笑いかけた。

その笑みはいつもの殺気を孕んだものではなく

年相応と笑みに見えた。


「そりゃアンタの三大生理的欲求だな」

「さすが、阿伏兎。よくわかってる」

「そして現状と対して変わらない世界だな」

「じゃあ俺は神かな?俺の世界の」

「・・俺の世界の神でもあるってことじゃねぇの?それ。

 俺は団長と生活をほぼ共有してるわけだし」

「そっか・・。俺は阿伏兎の神様ってわけだ」

「さっき、『団長が神様の世界なんて恐怖だ』とか言ったばかりだってのに。

 知らないうちにその世界を享受して、

 あまつさえ気づいていないとは。慣れって怖ぇな」


そう言って苦笑すれば、団長も同じように笑う。


「でも阿伏兎は俺の世界が好きだから

 俺についてくるんだろう?」

「すきかどうかはさておいて。

 居心地がいいのは確かなんだろうな。

 もっと真面目に仕事をしてくれれば言う事ねぇけどな」

「それは俺の世界に住む住人である阿伏兎の義務なんだよ」

「なんて神様だ。楽園に義務を要求するなんて」

「義務の代わりに安らぎも提供してやってるだろ?」

「どこが。俺の休みは潰れていくばかりだ、アンタのせいでな」

「・・・仕方ないなぁ」


団長は上半身を上げて、座った。

そして、俺の方を向いた。




「阿伏兎の神様が、義務を全うする阿伏兎の願いを叶えてあげるよ。

 さぁ、願ってごらん」

「・・・はぁ・・?」

「俺が気が短いのは知ってるだろ?

 早く決めろ」




そう言いながらも悪戯するかのように

くすくす笑いながら

俺の髪を撫ぜている。

戦闘後で満足しているのか気分がいいらしい。

笑ってる顔は聖母なのに。




なんて獰猛なヤツだ。





ハァと溜息をついて、願うことにした。






「聖母様よ」

「なんでしょう、阿伏兎君」





高い声でどこか高尚で気高い女のような声を出そうとしてるのがわかり

ぷっと吹き出してしまった。

言った方も無邪気に笑ってる。
































「御慈悲の接吻でも頂けませんか」

「貴方が望むなら」



















































美しい聖母の口付けは残酷な血の味がした。

二人の指先はまだ真っ赤で

俺達は命を奪う神だ。

どちらかというと死神だろう。





それでも それでも










俺の世界の神は 微笑む女神よりも残酷で美しい

この死神なのだ。