(ルーチン設定。あぶ♀かむ+沖神) 彼女との日々は穏やかで そして、過酷である。 シンデレラの憂鬱 「あ、あっ・・んぅ・・」 日曜の夜のお約束ってやつで。 神威の部屋ではやめに飯を食べて、 風呂に入って、早めにセックスして、寝る。 お互い次の日は仕事やら学校やらあるし。 金・土・日というのはやっぱり 恋人らしいことをする。 で、今はその最終段階の一歩手前。 ベッドで運動中というやつだった。 「あ、っ・・ぶとぉ・・んぅっ・・」 「どした・・っ・・・?」 「あ、あ、ね、っ手、握ってっ」 情事の最中にイきそうになると手を握りたがるのは コイツの癖だと最近知った。 いつものように、汗ばむ額に唇を押しつけて 手を握ってやった。 すると目を細めて、へへ・・と笑う。 で、俺は律動を速めて、二人してまっ白の世界に塗れて終了。 というのがいつもの流れなのだが。 今日は違った。 さぁ、そろそろきめるか。と思って腰を引いた時だった。 ピーンポーン 二人して固まった。 時計の針は十時半を指している。 「・・・居留守だ、居留守」 そう呟いて、神威の首筋に口付けた時だった。 ピンポンピンポンピンポンピンポン!!!!!! 今度は連打ときた。 一体誰だこんなバカやるヤツは。 そう思いながら苛々していたら、 神威が溜息をついた。 「抜いて。出てくる」 「あ?」 「ほーら、早く」 渋々自身を引き抜いて、神威はシーツだけ纏って寝室を出た。 俺は仕方なく勃ち上がったままの息子を一瞥して 溜息をついた。 そして扉の向こうに見える神威の姿を見てた。 彼女はインターホンを取って、カメラに映る姿を見て 何やら驚いたようだった。 「神楽!?何してんの、こんな時間に」 どうやら知り合いらしい。 「とりあえず、わかった。ちょっと今取りこんでるから少し待って。  そこにいるんだよ、いいね!」 それだけ言って、返答ボタンを消した。 「どうした?」 パタパタと戻ってきたかと思えば、 素早く処理だけして、服を着始める。 「ごめん、この落とし前は絶対つけるから!」 「誰だったんだ?」 「妹。なんかすっごい顔でさぁ。もう涙でぐっしゃぐっしゃ」 「そうか」 妹なら仕方ないな、と俺も帰る準備を始める。 「本当にごめんね」 「風呂だけ借りたら帰る」 「うん」 服を着た神威は思いきり抱きついて、キスしてきた。 それに答えて、頭を撫でてやれば、ありがと、と帰ってきた。 「落とし前、覚悟しとけ」 「やだなー。おっさん衰えてるんでしょ」 「まだ現役です。  だいたいそのおっさんの下で数分前まで喘いでたのはどこのどいつだ」 苦笑交じりで俺は風呂場に向かった。 * 扉を開けるとぐしょぐしょの顔の妹が突っ立ってた。 「ねえちゃん・・」 「ごめん、待たせた。入って」 妹が入ったのを確認して、玄関の戸を閉めた。 妹は何やら俯いたまま突っ立っている。 「どうしたんだよ、入れよ」 「男の人、来てる・・アルか?」 「え?」 「この靴」 「え・・・あ・・・ああ」 神楽が指さしたのは阿伏兎の靴。 渋々頷いた。 「彼氏アルか!?」 「まぁ・・」 「・・・・・・・もしかして・・お楽しみ中だったアルか」 「・・・・・・」 「ごごごめんアル!空気読んでなかったアル・・!  帰るネ・・!」 「もういいから。さっさと上がれっての!」 そこまで気を使われるとこっちが恥ずかしい。 と、妹の背中を押す。 妹はひゃっ!と驚いて振り向いた。 いつもなら「もー!」とか言って笑うくせに どうも怯えたようだった。 「・・神楽?」 「な、なんでもないネ」 妹をリビングに上げて、 ソファーに座らせる。 「ご飯は?食べた?」 「・・・食べてないアル」 「じゃあ食べていきなよ。  今日はね、カレーだからいっぱいあるよ。  お前俺のカレー好きだろ?」 「・・・・ねぇちゃん」 「ん?」 「食べたくないアル」 「・・・・・・・・・・・・は?」 聞いたことない妹の発言に 急いで彼女の前に立って、額に手をあてた。 「熱は無いけど・・。どうしたんだ、お前。  なんか変なものでも食べたのか」 「・・・ねぇちゃん、私、赤ちゃんできちゃったネ」 「そうか、赤ちゃんできちゃ・・・・・・・・・  ・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」 「だから・・・」 あの野郎・・・!!!! 「そうかぁ、できちゃったかぁ、できちゃったんだぁ・・」 「ねえちゃ・・ん?」 「ごめん、ねえちゃん、ちょっと沖田君殺してくるわ」 今なら俺できる気がする。 「ちょ、ねえちゃん!やめるアル!」 「やめれるかああああああ!!!!  アイツの息の根とめてやる―――――ッ!!!!!!」 * 早く帰った方がいいと思い、素早くシャワーを浴びて 帰る準備を整えてたら、 「ちょ、ねぇちゃん!!やめるアル!!!」 「やめれるかああああああああ!!!!!  アイツの息の根とめてやる―――――――――ッ!!!!」 「誰か―!へへヘルスミー!!!!!」 アホな助けを呼ぶ声が聞こえたので 渋々リビングの方へ行く。 「オイ、どうし・・・・なんだ、こりゃ」 「あ、ねーちゃんの彼氏アルか!ちょっと助け・・・」 「・・・・・・・・?」 振りかえった神威の妹(のようだ)が俺の見てかたまっている。 とりあえず自分を見たが変なところは一つもない。 神威はまだ暴れている。 「ねーちゃん!」 「んだよ!」 「ねーちゃんもソーゴのこと散々言ったけどな!  ねーちゃんの彼氏、このおっさんアルか!?  ねーちゃん、趣味変わったアル・・!」 おっさん、傷ついたぞ、今の発言。 「お前、人の恋人に何言ってくれてんの!  阿伏兎はね、見た目ダメなおっさんだけど  俺に対する愛は人一倍なの、いいおっさんなの!  それにお前のチャラ男よりもずっと大人だし  テクもあんの!」 何気に今の酷くない?褒めてるけどけなしてるよね。 「総悟は見た目も中身もかっこいいアル!  それにちゃんとテクだってあんだよ、馬鹿姉貴!!  アナログスティックだって元気だもん!」 「あ、阿伏兎だって、最近ちょっと疲れてるみたいだけど、  ちゃんと夜は」 「頼む、勘弁してくれ、その後は」 酷い姉妹喧嘩の仲裁に入ることにした。 無論、己の名誉のために。 暴れる二人をとりあえず押さえて座らせた。 冷たい麦茶を三つ置く。 本当はすぐに帰るつもりだったのだが コイツら二人をそのままにしてたら 本末転倒ですぐに喧嘩しそうな気がすると 俺も渋々残ることにした。 「で・・妊娠ってどういうことよ」 その発言に思いっきり噎せた。 「阿伏兎、汚い」 「だって・・、歳いくつだよ・・」 「十八アル」 「・・高校生じゃねーか・・」 「違うよ。高校はもう卒業してる。  とある男と駆け落ちしちゃって、そのまま同棲してたらしいんだけどさ。  それが・・・これだよ。んで、沖田君はこのこと知ってるの?」 「・・・知らない」 神威は溜息をついた。 「言いに行け」 妹は泣きそうな顔を上げた。 「だって・・、まだ総悟も十八アル。  いくら働いてるからって・・そんなこと言ったら・・」 「『捨てられる』なんて思うような男と鼻から寝るな、馬鹿」 「っ・・!」 「お前、俺に同棲始める時になんて言った?」 「二人で頑張って働いて、お金貯めて、結婚するんだ。って言ったんだろ」 「自分の言った言葉に責任持てないガキが中途半端なことするな」 妹はぼろぼろと大粒の涙が零れてる。 コイツはたまに的を得たことを言うから なんだか感心してしまう。 「・・私・・どしたら・・いい・・?」 「送ってってやるから、ウチまで。  今すぐ、沖田君とこ帰れ。  そして、沖田くんは俺が一発殴る。  妹をできちゃった婚にした罰だ。  もし子供の面倒見ないなんて言ったらそれこそ殺してやる」 「・・・・・・」 神威はふわりと笑って、妹の頭を撫ぜた。 「大丈夫だって、ねーちゃんがついてるだろ」 こくりと頷いた妹を抱き締めた彼女に 堪らなく愛おしさを感じた。 その時。 ピンポンピンポンピンポン!!!!!!!!! もうどうなってんだよ、この家。 神威がドアを開けると。 「あの、神楽がっ・・ぶはっ!!!」 亜麻色の髪の少年は神威の右ストレートでぶっ飛ばされた。 「え・・な、なんなんですかィ・・?」 「ちょっと、来い」 真っ黒な笑みで少年の手を引っ張った神威は さっきの俺の甘酸っぱいときめきを払拭するパワーを持っていた。 「・・・総悟」 「神楽!やっぱりここに・・。どうしたんでさァ・・?」 「あのね、私・・・妊娠しちゃったアル・・」 「・・・!!!マジ・・でか・・・」 「その・・私は・・・・」 少年はぎゅうと少女を抱きしめてた。 「俺、いっぱい働くから!  上司に扱使われ様が、残業しようが、頑張るから!  ・・・・・・二人で育てていきましょうや」 「・・・!!!」 まるでドラマのような展開を俺は呆然と眺めていた。 ぼろぼろと涙を流す妹を彼女はよしよしと慰めた。 「さて、と。沖田君」 「なんですかィ?」 「今から家帰ってハンコだけ取ったら  市役所行って婚姻届出してこい」 「・・・・・・・・」 「そして、それを写メで送るように」 「・・俺のことそんなに信用できませんかィ・・?」 「神楽が選んだやつだから信用してないわけじゃないよ。  ただ、お前の覚悟が見たいだけだよ俺は。  あと、次神楽泣かせた時は  子供が作れないようにしてやるからね」 「・・・・・」 仮にも義弟になる男にそこまで言うかと思いつつも。 なんだかんだで認めているんだなぁと実感する。 何はともあれ、無事に解決したようだった。 二人は沖田君とやらの運転で帰って行った。 駐車場まで二人を見送って、 部屋に戻ってきて、やっと一息ついた。 時間は0時前だった。 「ごめんね、阿伏兎」 「もう気にしちゃいねぇって」 コーヒーを飲みながら、話していた。 ポテトチップスの薄塩味がぱりぱりいってる。 俺は気になってたことを聞いた。 「なぁ」 「ん?」 「「『捨てられる』なんて思うような男と鼻から寝るな」って言ったよな」 「うん」 「俺とセックスしてるってことは、俺との将来も考えてるってことか?」 「・・・・・・・・」 自分で聞いて恥ずかしくなってしまった。 答えない神威に呟く。 「いや、別に・・俺は・・その・・・」 「あたりまえ」 「・・・へ?」 「俺、阿伏兎のお嫁さんになりたいよ」 「・・・」 「でもね、もう少し待って。  あと2年待って。俺、大学は出たいんだ。  将来なりたい職業があって、そのために大学は出て資格を取りたいんだ」 「・・・・何になりたいんだ?」 コイツのこんな話初めて聞いた。 意外な言葉に驚いた。 「カウンセラー」 「・・・・・・・」 「・・俺が、って思ったろ?殴らせろ」 「いや、思ってないけど。意外というか・・」 「・・だから、もう少し、待って・・。  阿伏兎が心配しなくても俺の心はちゃんと阿伏兎が握ってるから。  俺欲張りだから、夢は全部叶えたいんだ」 「・・・・」 「ね?」 「頑張れよ」 「うん」 ポテトチップスを触ってない左手で 髪を撫ぜてやるとくすぐったそうに彼女は笑った。