そんな鼓動の音はいらない twins

夜が更けて、その日は確か雷が鳴ってたと思う。 幼い時、あたしは極度の怖がりで まぁ・・・今もそんなに変わらないんだけど どうしても眠れなくて シロちゃんのところへ行きたくなった。 でもあたしは年上なのに・・・ と、いう葛藤を10分し続け 一番近くで雷が鳴った瞬間耐えられなくなったんだと思う。

「あのね、シロちゃん」

その日は確か雷が鳴ってて そろそろ耐えきれなく来るんじゃねえかと思ってた。 案の定、桃が枕片手に現れた。 障子に小さな桃のシルエットが浮かんで 泣いているのかと思った。

「・・・どうした?」

あの時の声が いつもの声と違って とても優しく聴こえて

「一緒に寝ちゃ・・・ダメ?」

コイツは俺が断れないの知ってて 言ってるんじゃねえかと真剣に考えた。 要するにこの気持ちは自惚れだ。多分。

「・・・入れよ、外寒いだろ?」

障子を開けて、寝巻き姿のシロちゃんは 少し寝癖がついていて やっぱり可愛いな、なんて思ってみたり。

二人で枕を並べて 寒かったから 布団に潜りこんだ。 足先が冷たくて 自然と足が曲がってしまう。 手も冷たくて 口元に持ってきて 吐息で温める  「ねぇ、シロちゃん」 「なんだ」 「こうしてると、赤ちゃんになったみたい」 「なんで逆戻りしなきゃいけねえんだよ」 「しかもシロちゃんと二人だから双子みたい」 「・・・・お前と双子かよ」 「いや?」 「・・・」

だって双子は結婚できないだろ。 漠然とそんなこと考えていた。 無邪気な桃の言葉に俺はそんな馬鹿な事を考えていた。 よく考えると、すごく嫌な子供だな。 知ってたけど。

「シロちゃんのバカ」

ちょっとショックだった気がする。 幼心に覚えてるし・・・。

「・・・・ごめん」

とりあえず謝った。 少し傷ついたみたいだったから。 俺は自分のエゴで桃を傷つけてばっかだな。 今も 昔も

「・・・だってね」 「・・・いつかはシロちゃんだってどっか行っちゃうかもしれないもん」

あんな事言うつもりはなかったのに。 あたしはいつも自分のエゴで シロちゃんを追い詰めてばっかりだね。 今も 昔も

「・・・・行かねえよ」 「嘘つき」 「嘘じゃねえ」

本当に嘘じゃねえよ。 今だって。 と言うか行ってしまったのは お前だろ。

「本当?」 「ああ」 「有難う」

確か不安が消えて 満面の笑みで笑ったのを覚えてる でもね 行ってしまったのは あたしの方だったね ごめんね でもね 本当だったよね ずっと傍に居てくれたよね

「・・・もう寝ようぜ」 「・・うん」 「・・・おやすみ」 「おやすみ」

そう言って俺は桃に背を向けた。 理由は特にない。 しいて言えば 寝顔が可愛いとかつっこまれたくなかったからだ。 きっと。 恥ずかしかったとかじゃ なかったらよかったのに。

「・・・何してんだ」 「こうするとね、シロちゃんの心臓の音が聞こえるの」

あの音はきっとドキドキじゃない きっとトクトクだ そう思った。 そう思い込ませた。 心臓の音はドキドキじゃない ドキドキはきっと特別な心音なんだと思った。 だから ドキドキと早鐘を打つ 彼のドキドキも あたしのドキドキも "双子"には必要ないのだ。 そういって 芽生えかけた小さな気持ちを抑えた。

「きっと心臓の音は"ドキドキ"じゃなくて  "トクトク"だよ」 「・・・なんで?」 「"ドキドキ"は特別な時だけの音だから」

じゃあお前は今一体何を聞いてるんだ。 気づけよ、馬鹿。 というか、気づいてるだろ。 超高速の俺の心臓に。 嘘つくなよ。 俺だってつきたくなるじゃねえか。

「"双子"にはそんな音いらないもん」 「・・・だから嫌って言ったんだよ」

そんなこと言わないでよ、シロちゃん。 まだこの気持ちに名前はつけたくないの。 あなたにはついていても あたしにはまだその勇気もないから。 ズルいね ごめんね あたしはいつまで"トクトク"を ひきずるのかしら

寝返りをうち、戻ってきた途端 少年は少女をぎゅっと抱きしめた。 頭を胸に押し付けた。 「もう寝ろよ」 「・・・"双子"はこんなカッコで寝ません」 「だから"双子"は嫌なんだよ」 「・・・イジワル」 「今頃知ったか、馬鹿桃」 「・・・・こういう事はとっておかないと」 「は?」 「・・・いつかシロちゃんに好きな人ができた時にとっておかないと  "ドキドキ"がもったいないよ」

別に先どりは可能だろ、と思った。 どうせ後10年経とうが 100年経とうが 500年経とうが どうせお前しか愛せねえよ だから"双子"は嫌なんだ。 だから"トクトク"は嫌なんだ。

「・・・・『いつか』なんて、もう終わったからいいんだよ」 「?」 「寝ろ」

そう言ってあたしを"ドキドキ"から離れさせて また"双子"のポーズに戻っちゃったね でもね 今なら分かるんだよ あの言葉の意味

「おやすみ」 「おやすみ」

2回目のおやすみの後 疲れたのかすぐ眠った桃の心音は "ドキドキ"だった。 お前だって人のこと言えねえじゃねえか。 桃色の双子の唇に 俺のを重ねて こんな自分の"ドキドキ"を許してくれと 懺悔した。

ごめんね 起きてたの 小さく唇を尖らしていたのは あたしだけの秘密